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【書籍発売中、2巻続刊!】最凶侯爵の逆鱗に触れた者達の末路  作者: やとぎ


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墓標の前で①

 ガルヴェイト一行は建国式典の二日前にザーベイル連合王国王都であるミレスベルスに到着した。


 ミレスベルスに到着した際のガルヴェイト王国一行の歓迎ぶりは凄まじいものであった。

 ザーベイルの民達は趨勢の定まっていない状態で手を差し伸べたガルヴェイトに対して好意的であるのだ。


 ソシュアの恭順により、ジルヴォルへギルドルク王位の譲位、王弟ユアンとの婚約によりギルドルクの併合というのは決定的になった。しかも、フラスタル帝国の侵攻を撃破したことで、少なくともザーベイルのギルドルク併合に異議を申し立てる勢力は存在しないのである。


 趨勢が決まる前にはやはりザーベイルの民達は不安がなかったわけではない。そこにガルヴェイトが国交樹立を申し出てくれたことにザーベイルの民達がいかに不安を払拭されたかがこの歓迎ぶりでわかるというものである。


 実際に、建国式典もザーベイル王族の次に席が用意されており、ザーベイルがガルヴェイトとの関係をいかに重視しているかがわかる。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


 建国式典は滞りなく終わり、その後に祝宴となった。


 ガルヴェイト一行はジルヴォル、ユアン、ソシュア、エクトルへと挨拶を行う。イルザムはジルヴォル、エクトルと言葉を交わした後に、ユアンに声をかける


(ユアン王弟……か。確か15になったばかりか? それともまだだったかな)


 ジオルグはイルザムと言葉を交わすユアンとその隣で微笑むソシュアを見ている。


「ガルヴェイト王国王太子イルザム=レニング=ガルヴェイトです。王弟殿下、ソシュア嬢、ご婚約本当におめでようございます」

「ありがとうございます」

「イルザム王太子殿下のお祝いのお言葉感謝いたします」

(動揺の様子は一切ないか……どうやら思っていた以上にできる(・・・)娘らしいな)


 イルザムとの会話を聞きながらジオルグは心の中でソシュアの対応に対して高い評価を下していた。

 自分の家族、親しいもの達を殺されるという自分自身の境遇を考えればとても笑うなどということはできないはずであるが、それでもソシュアは一切の動揺を見せずに微笑んでいる。これは油断できる相手ではないことを察したのである。

 そして、ユアンの方もソシュアの方をさりげなくフォローしているのがわかる。ユアンの立場は勝者の立場であり、ソシュアに対して尊大な態度を取ることも許される立場である。もちろん、このような各国家の首脳が集まるような場所であからさまに見下すようなことはするはずはない。そこでジオルグは注意深く出る態度をみて判断しようと思ったのだが、ジオルグの目にはソシュアを蔑ろにする印象を全く見つけることができなかった。


(少なくともこの二人の間には情があるようだな)


 ジオルグはそう判断したところでジルヴォルと目があった。ジルヴォルはわずかばかり口角を上げて近づいてくる。


「久しぶりだな。ザーフィング侯」

「ジルヴォル王もお元気そうで何よりです」


 ジオルグはジルヴォルへ略式の礼を取る。


「どうだ。少し話さないか?」

「私でよろしければ」

「そうか」


 ジオルグの返答にジルヴォルは気をよくしたようでわずかに微笑んだ。その微笑を見た時、ジオルグはゾクリとした感覚を感じた。


(相変わらず……怖い笑顔を浮かべるな)


 ジオルグはそう感じた。もちろん、ジルヴォルの笑顔には威嚇するようなものではなかったし、雰囲気も一切の威圧感を放っているわけではない。それでもジオルグはゾクリとした感覚を感じたのは、相手の脅威を十二分に理解しているからであろう。


「さて、それでは少し歩こうか」

「は、はい」


 ジルヴォルの返答にイルザムとエクトルが二人に視線を向けるとわずかに目配せをおこなった。


(行ってこいということか……)


 ジオルグはイルザムにジルヴォルはエクトルにさりげなく頷くとジルヴォルへとついていくことになった。


 ジルヴォルはそのまま会場を抜け出すとそのまま中庭へと歩き出した。


「私に聞きたいことがあるのだろう?」


 中庭に出たところでジルヴォルは振り返ることなく問いかけてきた。


「はい」


 ジオルグの返答にジルヴォルから愉快そうな雰囲気が発せられた。


「なんでもいい。言ってみろ」

「デミトルはどうなりました?」

殺した(・・・)


 ジルヴォルは一言の元に切って捨てた。その声には一切の容赦もない。心の底からどうでも良いという感じであった。


(まぁ用済みだったから仕方ないか)


 ジオルグも心からデミトルの生死が気になっていたわけではない。国交樹立の会談の場で処刑することが確定していたのだから当然の帰結というものである。

 ギルドルクの王太子として生きてきたデミトルにとってあり得ないほどその死は軽く扱われていた。ジオルグは勿論知らないが、デミトルの亡骸は共同墓地に投げ込まれていた。ちなみに共同墓地に葬られる者達はきちんと棺にいれられているのに対して、デミトル、ルクルトの死体は直埋めであり、その死の軽さがさらに浮き彫りになっている。

十年もすればデミトルの死体を特定することなど不可能である。


「デミトルの生死など全く興味はないだろう?」

「まぁ、正直に言えば」

「奴はその程度の存在だ。そんな奴の話を本当に聞きたい訳ではあるまい?」

「ええ」


 二人は夜の中庭をゆっくりと歩く。所々に灯りが灯っており二人は特に支障もなく歩いていく。


「ジルヴォル王がソシュアを娶らなかったのは……やはり、亡き婚約者の存在ですか?」


 ジオルグが切り出す。かなり危険な問いかけであるがジオルグはこの時、なんの失敗の懸念も持っていなかった。ジルヴォルはこの話題を待っていることをジオルグは確信していたからである。


「半分はな」

「半分?」


 ジオルグはつい芸のない返答をおこなってしまう。その返答がおかしかったのかジルヴォルは小さく笑う。


「ここだ」


 ジルヴォルがジオルグに背を向けたまま言う。


 ジオルグの目に王城の庭にふさわしくない人頭大の石があった。その人頭大の石をぐるりと囲むように拳大の石が配置されている。それは子供が作ったかのような不揃いな石の配置であるが、きちんと清掃されており、大切にされている印象を受ける。


「……墓標?」


 ジオルグの呟きにジルヴォルは小さく頷いた。


「ああ、フェリアの墓だ」

「え?」

「もちろん、フェリアの亡骸はカールメイナ家の墓地に葬られている……ここにあるのはフェリアの遺髪だ」

「遺髪……」


 ジオルグは小さく呟いた。ここはジルヴォルにとって最も心の柔らかい神聖な場所であることを察したのだ。


「ジオルグ=ザーフィング……先ほどの問いの残りは私の後継者はユアン(・・・)だからだ」


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