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【書籍発売中、3巻続刊!】最凶侯爵の逆鱗に触れた者達の末路  作者: やとぎ


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33/116

【書籍発売記念】新伯爵の穏やかな一日

【注意】

今回の話は書籍版の設定をもとに書いてあります。

WEB版のみの方々とすれば少しわかりづらくなっていますがご了承ください。

「ミュゼスが?」


 エイスは執事ダレルより報告を受けると顔をほころばせた。敬愛する主であるエイスの表情にダレルも嬉しそうに口角を上げた。


「はい。こちらになります」


 ダレルはそういうと手紙をエイスへと手渡した。エイスはそれを受け取ると即座に開封して手紙を読み始めた。


(エイス様の様子からして良い知らせのようだな)


 ダレルはエイスの表情を見て、手紙の内容が良い内容であることに胸をなでおろした。

 セレンス伯爵家はエイスの家族のせいで滅亡するところであったが、エイスの尽力のおかげでその危機を乗り越えることができた。

 だが、その際に婚約者であるミュゼスを巻き込むまいと婚約解消を申し出ていたのである。結果として、万事上手くいき、婚約解消はなかった(・・・・)事になったのだが、あの時はエイスのみならず、セレンス家の家臣達全員が、セレンス家の終焉がなくなったことを実感したものだ。


「エイス様、手紙はどのような?」

「ああ、近況報告と今度、会いたいという話だ」

「そうですか。それはうれしいお誘いですな。こちらからクレトマイス家へ?」


 ダレルの問いかけにエイスは首を横に振った。


「なるほど、それではミュゼス様がこちらに参られるというわけでございますね」

「そういうことだ」

「それでは早速準備を」


 ダレルの声が弾むことにエイスは苦笑する。エイスの幸せを喜んでくれるのはうれしいのだが、少々過保護のような印象をエイスは受けたからだ。ただ、ダレルとすれば敬愛する主であるエイスの幸せは自分の幸せと同等、いやそれ以上に重視している以上仕方のないことではある。


「ダレル、お前はクレトマイス家に返事を届けてくれ」

「承知しました」

「それからシェイラを呼んでくれ。その間に返事を書いておくから」


 シェイラとはセレンス家の侍女長であり、現在五十三歳である。早くに夫を亡くし、子供二人を立派に育て上げた。いわゆる『肝っ玉母ちゃん』であり、エイスにとって頼りになる存在であった。

 ミュゼスもエイス同様にシェイラを信頼しているようで、そのために仲も良好である。かといってシェイラ自身は自分の領分をきちんと守る人物であり、横柄な態度をとることは決してない。


「はい」


 エイスの指示にダレルは一礼してエイスの前を離れた。ダレルが退出するのとほぼ同時にエイスは返事を書き始めた。


「これでよし」


 エイスがミュゼスへの返事を書き上げるとダレルとシェイラが来るまでに少しの時間ができた。その時間をエイスは窓の外の景色を眺めて思いを巡らす。


 セレンス家のために両親と妹を切り捨てた。その行為は間違いでないことをエイスは確信している。だが、心のどこかで自分はやるべきことをすべてやったかと自問自答した際に、どうしても『否』という結論が導き出される。


 それは後悔ではない。反省であった。妹が愚かな行為をした。両親はそれを咎めないどころか後押しをした。そのためにセレンス家は滅亡の寸前まで追い詰められたのである。


(世の中には想定以上に愚かな者達がおり、想定以上の愚かな行動をとるものだ。それに備えておかなければならない……前回はかろうじて上手くいったが、次はどうなるかわからない)


 エイスはジオルグとの交渉時に感じた威圧感を思い出すたびに背中にゾクリとした感覚が走る。例の件以降、何度かジオルグに会ったが、その時は威圧感を感じることがなかった。

 だが、エイスとすればそちらの方がよほどジオルグ=ザーフィングという人物の恐ろしさを示しているように思える。ジオルグは自分の持つ力を完全に自分のものにしている証拠であるからだ。


(敵対するつもりはない。それは家臣や領民のためにはならないからな。それに……ミュゼスと結ばれるのはザーフィング侯のおかげでもある)


 エイスはミュゼスとの婚約解消をなかったことになったのは、ジオルグの力添え故であることを完全に理解していた。そうでなければ簒奪を行おうとしたガーゼルとアルマダの息子であるレオンと妹フィオナが結婚したというのに、ミュゼスと婚約が続くはずはない。

 エイスはジオルグに恐怖を感じているのは事実である。だが、それ以上に感謝をしているのである。


「ザーフィング侯にこの恩義をいつか返さなければな」


 エイスの口から自然と言葉が紡ぎだされる。


 コンコン……


 そこに扉をノックする音がエイスの耳に入る。


「入れ」


 ガチャ……扉が開かれダレルとシェイラが入ってきた。


(ザーフィング侯へ恩義を返す前にまずはこちらだな)


 エイスはダレルとシェイラの二人に、ミュゼスのもてなしの指示を出す。


 エイスとミュゼスが結婚するのはこれより一年後のことである。




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