【書籍発売記念SS】亡き母へ
【注意】今回の話は書籍版の設定を元に作成していますので、WEB版とは違う単語、人物が出てきますがご了承ください。
「母上、お久しぶりでございます」
ジオルグは母エルフィの墓標に静かに語りかける。ガーゼル達をはじめとする敵対者に対する声とは全く真逆の静かであるが、暖かい声色である。
ジオルグの背後にはアイシャとロイが控えており、ジオルグのエルフィへの語りかけをただ聞いている。
「ガーゼルとアルマダ、それに与した者達は始末しました。未来永劫、母上の宸襟を騒がせることはございません」
ジオルグの声は相変わらず静かであるが、その内容は苛烈そのものである。もし、ガーゼルとアルマダがジオルグの言葉を聞いたならば怒りよりも恐怖に打ちひしがれることは間違いなかった。
「母上、私は母上のくれたジオルグの名とは別にもう一つの名を得ました」
ジオルグはそう言って小さく笑う。ジオルグが小さく笑ったのは母に許可をもらうという、かつての自分の行動と重なったからである。
(ふ……母上の前では私もまだ幼子と変わりないか)
ジオルグはそう心の中でつぶやいた。
ジオルグはルベルセテアの名を継ぎ、闇の魔人衆の首領となった。魔人達を率い、ガルヴェイトに仇なす者達を裁く。それがジオルグの役目であり、先代のデアドから託された役目である。
ルベルセテアとして魔人達の首領として、修羅の道を歩むことになった事に後悔はない。いや、誇りに思っている。
だが、母エルフィの前では、彼はまだジオルグ=ザーフィングなのである。
そしてジオルグが、今日エルフィに真の意味で親離れを告げにきたのだ。
「その名はルベルセテア……今の私はジオルグ=ルベルセテア=ザーフィングです」
ジオルグがその名を告げる。
その名を告げることは、ジオルグにとって親離れの儀式であった。小さな虎であったジオルグは今雄々しい虎となった事を母エルフィに報告したのだ。
そして、その名を告げることで、自分は心配いらないという事をエルフィに伝えたのだ。
「母上、どうやら私は背負うものが増えました。ですが心配はご無用です。私は一人ではありません。後ろにいるロイとアイシャを始めとした数多くの者達が私と共に歩いてくれるのです」
ジオルグの言葉に背後に控える二人が、ほんの僅か反応する。その反応は洞察力によほど優れた者であっても気づくのは容易ではなかったほど小さいものであった。だが、ジオルグは二人が反応した事に気づいていた。
「母上、それではこれで失礼いたします。また、改めて参ります」
ジオルグはそういうと墓標に一礼するとくるりと踵を返した。
「行くぞ」
ジオルグの言葉にロイとアイシャは一礼し、一歩遅れてジオルグの後を歩む。
ルベルセテアって何?
デアドって誰?
と戸惑うことがあったかもしれませんが、ご両々ください。




