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その後

広間から歓声が聞こえた。派手好きで芝居がかったギルバートのことだから、プロポーズしたんだろうなとロイは頭の片隅で考えていた。


「彼らは私が引き取ろう。陛下からは、私がこの後の采配をするよう命が下っている。」


廊下の柱の影から、今回の陰の立役者ギルダン侯爵が現れた。


「はっ。ですがギルダン様お1人となると…。」

「俺もいます。お嬢様を苦しませたこの2人の行末を見なければ気が済みませんので。」

「君はこんな情けない2人に私がやられるとでも?」

「いえ!そういう訳では!」

「私の分も新しい王と王妃を祝ってきてくれたまえ。」

「はっ!」


騎士が去る。周囲に誰もいないことを確認し、4人は近くの使われていない客室へと入った。

扉を閉め、ロイが防音魔法をかける。ロイ、ユーリ、エミリローズは、出会った時のように3人固く手をとった。


「「「やったーーーーー!!!!!!!!」」」

「成功しましたね…!こんなに上手くいって良いんでしょうか…!」

「あたしたちの努力が実ったんです!!!神さまありがとう!!!!」

「これで全員晴れて自由です…本当に、本当に良かった…!!」


しみじみ噛み締めるロイ、嬉しさ爆発のエミリローズ、感極まって泣くユーリ。3人それぞれの感情表現だが、お互いを信じ努力しそして掴んだ未来を、全員が心から喜んでいた。

そのまま反省会という名の褒め合いに移行しかけたところ、ギルダン侯爵が話を割った。


「喜んでるところ悪いが、この後もすぐ済ませちまおう。早いほどバレづらいからな。」

「ああ!喜びのあまり失念していました!パッとやってピャっと終わらせましょう!!」

「やっと家族とダンに会える〜!!!手紙でしかやり取りしてなかったから早く会いたいわ!!!」

「うっ…俺はもう少し我慢ですね…。」

「大丈夫です!ギルバートはしっかりユーリさんを首にします!」

「確かに、手紙だけでも俺への牽制凄かったです。」

「1週間もかかりませんよ!ご安心を!」

「そうですよね!荷造りしときます!!」


またきゃっきゃっと喜ぶ3人に、侯爵はため息をついた。


「あんたら本当に婚約破棄したかったんだなあ…。」


3人はその言葉でお互いに目を合わせる。ふふっと笑ったあと、満面の笑みと一糸乱れぬ呼吸で言った。


「「「もちろん!!」」」



○○○


まずはギルダン侯爵のその後。

彼はギルバートを支え王との架け橋となったことが評価され、無事元の地位へと戻った。ギルバートの信頼は特に厚く、彼が王となる時は宰相になるだろうと言われている。


次はエミリローズのその後。

婚約破棄騒ぎをやった当日に、ぼろぼろの馬車を山道に用意し、そこにエミリローズの髪をひと房置いた。その準備はギルダン侯爵への忠誠心が厚い使用人と御者でやったため、偽造工作が漏れることは無いだろう。

エミリローズは実家へと戻った。家族は泣いて帰宅を喜び、ダンとも無事に結婚した。エミリローズの望んだ平民としての人生は、元のように貴族と一切関わらなければバレることはない。更にギルダン侯爵が男爵の領地を新たに治めることになっており、彼がバレないよう守ることにした。

ちなみに男爵家は、代わりに僅かな僻地を治めることになった。華やかな生活と一変、地味に暮らしている。


ユーリは、ギルバートとアナスタシアの婚約から一月後にやっとクビになった。理由はギルバートの「アナスタシアを見る目が特別だから。」という意見。実際、ユーリはアナスタシアを完全に恐れていたので間違ってはいない。それを良いように解釈し、アナスタシアや他の令嬢が何やら噂していたようだが、そんなことは知ったことではない。クビを言い渡された1時間後には屋敷を出た。


ロイは、黒森の入口近くに小さな家を立て、そこで静かに暮らしている。長年の思いが通じだのか、もしくは変わり者だと興味を持たれたのか。魔族とロイは少しずつ交流を持つようになった。


○○○


明るい月夜、ロイの家を訪ねる人影があった。ノックの音でロイは読書を中断し、扉を開ける。するとそこにはトランクを持ったユーリがいた。


「ユーリさん!やっとクビになりましたか!」

「やっとクビになりました。」

「狭くてちらかっている家ですがどうぞどうぞ。」

「ありがとうございます。」


ロイがユーリを招き入れる。広くはないが過ごしやすそうな家だ。壁中本棚になっており、色んな研究書や書物が詰まっていた。テーブルの上には書きかけの書類が片側に積まれている。


「夕飯は食べました?」

「あ、いえまだ。」

「私も今からなんです。スープで良ければいかがです?エミリローズさんが『新作です!』と送ってくれたパンもありますよ。」

「ありがたくいただきます。」


2人で食卓を囲む。


「美味しいです、とっても。」

「ユーリさんの方が絶対料理上手ですよ。」

「いえ、本当に美味しいです。こんなにゆっくり味わって食べたのは何年ぶりでしょう。」

「これからは何時間かけても大丈夫ですよ。」

「ふふ、そんなに長く食べてられませんよ!…ロイ殿下、俺は実家ももう戻る場所が無いですし、社交界でもアナスタシア様に横恋慕している噂がたち役立たないでしょう。…そんな俺がいて、お邪魔になりませんか?」

「何言ってるんです!!ユーリさんほど共に居て心強い方はいません!!それにもう追放された身なので、社交界も関係なければただのロイで結構です。」

「ロイさん。」

「なんでしょう、ユーリさん。」


顔を見合わせ、2人は声をあげて笑った。


「さて、良い時に来てくださいました!明日は忙しいですよ!」

「え?明日何かあるんですか?」


ロイが卵大の赤い石を握って魔力を込める。すると何やら鳴き声のような喋り声のような音が聞こえた。


「魔族からのお誘いです。我等で言うお茶会しようよと。」

「魔族もお茶会するんですか!」

「するんですよこれが。私たちとあんまり変わりません。楽しいことと美味しいものと自由が好きです。」

「お土産などは?」

「何が良いか悩んでいたところです。」


ロイがニヤりと笑うと、ユーリも同じように笑った。


「初めてお嬢様にお仕えしていて良かったと思いました。」

「私も手伝います!」

「じゃあ、まずメニューを決めましょう………」


そうして夜は更けていく。

婚約破棄して良かったなと、ロイは改めて思うのだった。


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