↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第4話 足跡は惑わす

「死亡したのは炭焼きのバードン・ゴルドマン。家で一人でいるところを襲われたようです」


 背後から事情を説明してくれる捜査員に頷きながら現場入りする。


 数日前の空き巣事件以来、俺は現地の捜査員たちとそれなりの信頼関係を築くことに成功していた。

 そのため幸か不幸か、なぜか管轄外であるはずの事件にも召集がかかる有様だ。


 遺体は俺が命じた通り、発見時の状態が保存されている。

 俺は軽く手を合わせ、遺体のそばに膝をつく。

 胸にはナイフが突き刺さっている。

 他にもいくつか服の布地が破れ血が溢れていた。


「胸を滅多刺し、か。酷いものだ」

「仕事仲間が職場に来ない被害者を不審に思って見に来たら、死んでいた……と」


 状況を聞きながら遺体の顎や体を触っていく。


「顎、頸……上半身は硬直してるな。下半身はまだ遊びがある……か」

「あの、捜査官殿? し、死体に何をして」


 捜査員は恐る恐る、という感じで呼びかけてくる。

 遺体をべたべたと触っている様はさぞ奇異に映ったのだろう。

 振り返り、俺は苦笑した。


「遺体は死後約30分後からだんだん硬くなっていく。その硬直具合から逆算すれば、だいたいだがいつ死んだかわかる」

「そんなことまで!」


 前世の記憶でここまで驚いてくれると、俺としても披露しがいがあるというものだ。


「とはいえ、これは遺体を温められたり冷やされたりすれば狂うものだし、そもそも今回はあまり役に立ちそうにないな」

「どうしてです?」


 問いかけてくる捜査員に、再び苦笑した。


「死後硬直の具合などからみて、死亡推定時刻はだいたい夜中の2時から4時の間だ」

「はあ……みんな寝静まってますな」

「そう。つまり目撃証言もアリバイ……犯行時刻不在証明も取りようがない」


 顔を上げ、外を見る。

 現場を荒らさないようにしながら証拠集めや証言集めをする捜査員たちの姿が見えた。

 そういえば、昨夜は雨が降っていたのだったか。

 であれば、玄関から続いている1往復分の足跡も捜査のヒントになりそうだ。


「下足痕は?」

「下足痕?」


 振り返って問えば、疑問符が返ってきた。


「足跡だ。靴はそのすり減り具合や歩き方から、それぞれ独特のものになる」

「ああ、足跡を消すなというのはそういうことでしたか」


 どうやら意味は分からずとも、現場保存の徹底はしてくれていたようだ。


「夜中の雨が止んでからの犯行だろう。あの一往復分の足跡は犯人のものと見てまず間違いない」

「ではスケッチを」


 言いかけた捜査員を片手で止める。

 今後の捜査のためにも、現場の皆に覚えてもらうのがいいだろう。


「いや……石膏と煮えたぎった湯を用意してくれ」


 何に使うのか全く理解できないという顔の捜査員。

 俺は静かに頷き、続けた。


「現場が完全に残っている今のうちに、下足痕の形をとる。やり方を見せるから、手の空いているものを集めてくれ」


 ◆ ◆ ◆


 型取りした下足痕と周辺の住民に提出させた靴を照合し、捜査線上に一人の男が浮上した。


 ルティオ・ヘクター。


 被害者と口論をしていたところも目撃されていた。

 動機もある。アリバイもないようなもの。

 だが決定的な問題があった。


「なるほど? 犯人と思しきその人物は前日の昼間に足を骨折してとても歩ける状況ではなかった、と」


 訪れた監獄の最奥。

 タカハマは相変わらず、何が楽しいのか口元に笑みを浮かべている。


「で、事件が暗礁に乗り上げて、私の助けを借りにきたと?」

「何度も言ったはずだ。俺はお前を利用しているに過ぎない」

「まあそういうことにしておこうか」


 首を小さくかしげながらこちらを見つめる目はどこまでも冷たく、しかし熱っぽい。


 俺としても、本当はこんなところへ来たくはなかった。

 来るたびに怒りを覚え、憎悪を感じ、そして絶望する。

 利用してやると偉そうに言ったところで、この男に思考が絡めとられていく感触がぬぐえない。


「私が思うに、君は犯罪を誰より理解できる。犯罪に近いところにいるからね。

 その証拠に、既に半分ほど私の思考を追えている」

「誰がお前の思考など追うものか。妙な言葉遊びも大概にしろ」

「そうばかにしたものでもないだろう。誰だったかな。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いていると言ったのは」

「ありがちなセリフだ。お前にしてはオリジナリティに欠けるな」

「それは失敬」


 その目を見返していると、本当に思考がこいつに塗り替えられていくような気がする。

 俺は手帳に視線を戻した。

 中のメモを流し読みながら、再び考え込む。


 そう、被疑者は歩けない。

 医師に確認を取ったが、診断に間違いはないとのことだった。


 つまりルティオ・ヘクターは犯人ではない。

 誰かが彼の靴を盗んで足跡を残した。


「おそらくは、ルティオが犯人であるかのように偽装するために――」

「――はは、」


 タカハマは俺の言葉の途中で、耐えきれなくなったとでもいうように声を立てて嗤う。

 そして、低く響く声で囁いた。


「まったく、君も随分鈍ったものだ。――いや、逆かな」

「……なんだと?」


 怒りを表に出しかける。

 だが、こちらを値踏みするような冷たい視線に言葉を飲んだ。


 ――それはさながら、出題した問題を解こうと奮闘する出来の悪い生徒を見守るような。


 ち、と舌打ちして頭の中でタカハマの言葉を反芻する。


 ――「逆」。

 ふと、その言葉に引っ掛かりを覚えた。


 この場合、何が逆だというのか。

 ルティオに罪をかぶせるということが「逆」?

 ルティオが犯人であると考えるのは難しい。

 ならばやはり偽装であるということに――。


「……いや」


 そうだ、なぜ、俺はそもそもこれを偽装工作だと思い込んだ?

 下足痕の照合など、この世界における捜査方針としては初の試みにも近い。

 だというのに――それを想定した偽装工作が成立することなど、ありえない。


 つまり、この下足痕は犯人が現場を撹乱するためにあえて残したものでは、ない。

 結果的に現場が撹乱されただけのことだ。


「知識がありすぎるというのも考えものだ」


 揶揄するような言葉に再び怒りが込み上げた。

 しかしなんとか押し殺し、タカハマから顔をそむけるに留める。


 この男に拘っている場合ではない。

 問題は、犯人の目的だ。


 犯人はルティオ・ヘクターの靴を盗み出し、その靴で被害者宅に赴いた。

 偽装工作ではない、別の目的でそうしたはずだ。


 犯行は正面から胸をナイフで突いての刺殺。

 しかも複数回刺しているところから、相当強い殺意を感じ取れる。

 また、あの刺し傷の状況から、犯人も相当の返り血を浴びているだろう。


 だが、深夜にもかかわらず被害者はベッドから降り、床で倒れていた。

 つまり――。


「被害者は犯人を部屋に招き入れている……?」


 ――そんな殺意に満ちた人物を?

 ……いや。


「……そうか。そういうことか――」

「面白い結論に行き着いたね」


 タカハマは囁き、あの独特の首をかしげる動作でこちらをうかがってくる。


 だとすれば、被害者に強い敵意を向けていたことになる。

 しかも、その敵意はかなり強い感情に突き動かされていた。

 己の衝動に従った、執念にも近い行為だ。


 ただ、もし俺の思った通りの行動を犯人がしていたとするなら。

 かなり分の悪い賭けをして、しかもそれに勝ったということになる。


 運を天に任せるような偶発性。

 それに賭ける気になった犯人も犯人だが、それ以上にそれに振り回された自分たちにも気が滅入る。


 問題は、現状の捜査技術では犯人にたどり着くのがほぼ不可能ということだ。

 犯人は相当の返り血を浴びている。

 前世であればその血を検出することが可能だが、この世界にそんなものは――。


「――やれやれ、この世界は実に度し難い」


 タカハマがゆったりと立ち上がる。

 肩をすくめ、まるで俺のことを慰めるように微笑みを向けた。


「すでに君の頭の中では犯罪の全貌がつかめているのに、それを形にする科学的な技術がいまだ発展していない」


 それは事実だが、その視線にはすさまじい毒がある。

 無意識に噛みしめた奥歯に力を入れてにらみつける。

 何を考えているのか、タカハマは首をかしげてこちらをうかがった。

 そして、ゆったりとした動きで机の上にあった小さな瓶を手に取る。


「そんな君に、聖なるご加護を」


 差し出されたものを手にすると、チャプ、と小さな水音。

 中には水というには少し粘度の高い液体が少量、入っている。


「何だこれは?」


 問いかけると、タカハマは鉄仮面の下で口元を笑みの形に歪める。

 す、と長い指で唇を押さえる。

 そして、勿体ぶった口調で囁いた。


「罪を暴き出す聖水さ」


 ◆ ◆ ◆


 急ぎ捜査本部に戻った俺は、コートのポケットにタカハマから押し付けられた小瓶を握りしめていた。


 あの男に事件解決の切り札を与えられるなど業腹だ。

 そもそもこの「聖水」をどうやって手に入れたのか、詰問しなければならないはずだ。

 怒りで顔が歪んでいくのが分かる。

 それでも、現状できることは確かに「それ」しかない。


「くそっ……」


 思わずうめき声が漏れる。

 あの男がこの「聖水」を与えてきた時点で、そのことを理解しているのだろう。


「お戻りですか、捜査官殿!」


 捜査員たちが俺の帰還を待ちわびたように集まってくる。

 俺はその顔を見渡して、ふっと息をついた。


 ――今はあの男について考えるのは後だ。

 この事件に「聖水の奇跡」が必要だというのなら、利用してやるまで。


 俺はうなずき、言葉を継いだ。


「俺はこれまで、下足痕がルティオ・ヘクターの靴と一致した理由を『犯人が捜査の攪乱のために行ったもの』と考えていた。しかし違う。そもそも、下足痕の収集と照合は今回の事件から新たに導入された手法だ。そんなものに対策が立てられるはずがないんだ」

「しかし、それならなぜヘクターの靴が犯行に使われたのでしょう」


 問いかけられる言葉。

 そう、それが大きな疑問だった。


「犯人が騙したかったのは俺たちじゃない。――被害者だ」

「どういうことです?」

「犯人は被害者宅に『招き入れられた』。忍び込んだんじゃなく、堂々と入ったんだ」

「いや、そんなわけ……」


 捜査員の一人がいぶかしそうにうめく。

 しかし別の一人が、いや、と捜査資料を見ながら声を上げた。


「もし侵入を受けて殺されたなら、被害者はベッドで死んでるはずだ!」

「そうか、つまり犯人は『ルティオに成りすます』ことで被害者の油断を誘い、まんまと部屋に入った後で殺したのか!」

「その通りだ」


 俺は大きくうなずいた。


「だとすれば……その、ずいぶん……」


 捜査官の一人が、言いにくそうにつぶやく。

 言いたいことはわかる。


「暗がりとはいえ、犯人はルティオに成りすまし、バードンに近づいている。ばれる前にすべてを終わらせる自信があったのか、それとも、そこまで考えていなかったのか。俺から言わせれば、かなり運任せの犯行だな」

「ですが……」

「ああ、それによって人が一人死んでいる」


 なにより、俺の捜査によって事件が妙な方向にミスリードされるところだった。

 偶発的とはいえ、犯人はあまりにも凄まじい強運の持ち主だ。


「とはいえ、それもここまでだ」


 領内での殺人を野放しにはしない。

 こんな運任せの犯行を、成功させるわけにはいかない。

 運がよかった、で成立する犯罪など、あってはならないのだ。


 ……ちがう。


 運がよかろうが、悪かろうが。

 犯罪は犯罪。許されない。

 どんな強運の持ち主であろうが、やった罪はすべからく罰せられる。

 そうでなければ、いけないはず。


 俺は頭を軽く振ってから指示を飛ばした。


「捜査員を2班に分ける。1班は証言の裏取りを頼む。被害者バードン・ゴルドマンとルティオ・ヘクターの口論の内容を確認してくれ。もう1班はルティオ・ヘクターに背格好の似た男女を集めるように」

「女も……ですか?」


 ルティオ・ヘクターは男性にしては小柄で華奢だ。

 女性でも服をまとえば成りすますことは可能だろう。


「しかし、集めてどうするのですか、捜査官殿?」


 捜査員の一人が問いかけてくる。


「ルティオの服を着て犯行に及んだということは、犯人自身は何の証拠も残していないことになります」

「そうでもないさ」


 俺はポケットから小瓶を取り出し、ちゃぷんと揺らして見せた。


「どれだけ水で洗い流そうが、罪の痕跡ってのは消し去れないものなのさ」


 ◆ ◆ ◆


 翌日、捜査員たちが選び出した3人の男女の前に、俺は立っていた。


「なんなのよ、もう」


 忙しい中何の説明もなしに集められた被疑者たちは不満を隠しもしない。

 それを表面上は申し訳なさそうに、俺は口元に笑みを張り付けて封殺した。


「申し訳ないが殺人事件の捜査にご協力いただきたい。すぐに終わります」


 3人を見渡せば、なるほど確かにルティオ・ヘクターによく似た背格好だ。

 彼らを順々に見ながら、俺はよく洗ったきれいな布に、タカハマから受け取った小瓶に入った液をしみこませた。

 刺激臭はない。これなら、使用しても激しい拒絶は食らいにくいだろう。


「この布に沁み込ませたのは自分の知り合いの錬金術師が作った聖水でしてね。顔に一塗りすればわかることがあるのです」


 そういいながら一人ずつ右頬に静かに塗っていく。


「ああ、ご心配なく毒ではありません。ですが――」


 一拍、二拍……。

 変化は、ない。

 誰もが、俺の捜査が失敗に終わったのかと息を漏らしかける。


 ――いや。

 変化は、一人だけに現れた。

 俺はその人物のほうをにらんで、静かに告げる。


「――顔に血を浴びた者に対しては確実に反応する」


 その女の顔には、淡い発泡と青緑の変色が見られた。


「あ、アンナ、お前どうして……!」

「ち、ちがう、あたし、あたしじゃない!」


 慌てて、ほかの2人がアンナと呼ばれたその女から距離をとる。

 アンナは血の気が引いた顔で、激しく首を振りながら袖で頬の薬をこすっていた。


「……洗い流せるとでも思ったか。

 その試薬は血液内のある成分に反応する」

「お、おちない、落ちない! なんで――!」

「石鹸なんて高級品で洗おうが袖でこすろうが、血ってのは簡単に流せる代物じゃないんだ。お前は被害者を何度も何度も刺した。そのたびに血飛沫が散って、お前の顔に付着した。

 ――それはダイイングメッセージだよ、バードン・ゴルドマンが死してなお、お前を許さなかった証拠だ」

「なんでよ! 違う、あたしじゃない、あたしが悪いんじゃない、あいつが悪いんだもの、あいつが――!」


 悲鳴を上げて膝から崩れ落ちていく女をにらんだまま、俺は低く吐き捨てる。


「アンナ・リシュリー。お前を盗難及び殺人容疑で拘束する。――連れていけ」


 ――のちの捜査で分かったのは、被害者のバードン・ゴルドマンと被疑者として捜査線上に上がったルティオ・ヘクターは交際中であったということだ。

 口論というのはいわゆる「痴話げんか」。

 どうやら地域のほかの住民はほとんど誰も知らなかったらしい。


 容疑者アンナ・リシュリーはそんなルティオ・ヘクターに恋をした。

 何度も交際を持ち掛けたものの歯牙にもかけてもらえず、付きまといにも近い行為をしていたようだ。

 その付きまとい行為の中で、想い人が被害者と交際していることを知ったアンナは考えた。


「あの男さえいなければ、ルティオは自分のものになる、と」

「バードンを殺害したあと、ルティオが落ち着いたところで改めてアプローチをかけるつもりだったらしいな」

「愚かしいにもほどがある、しかし実に人間的な動機だな」


 一刀のもとに切り捨てたのはタカハマだ。

 俺は鼻を鳴らし、手の中のペンをもてあそぶ。


「人間的だか何だか知らんが、そんなことで人を殺されてたまるか」

「犯罪とは得てして人間的な事情で発生するものだろう。欲望、憎悪、情報の隠匿。まあ、恋といういかにも即物的かつ感情的な要素で殺人を行えば、最終的にどこかで破綻したとは思うがね」


 即物的な事情で犯罪が起きるのは知っている。

 だがタカハマはそれによる破綻を良しとはしない。

 それをこうして肯定的に話すのは決まって俺の神経を逆なでしたいときだ。


「くだらん」

「そうばかにしたものではない。君とて愛する人を喪って――」


 ばき、と握りしめたペンが折れた。

 力が入りすぎた手を息を止めて見つめていた俺は、静かに、しかし殺意のこもった眼でタカハマを睨み据える。


 何か言いかけたタカハマは、はたと、まるで肩をたたかれた程度のような顔で口を閉ざす。

 そして、俺の視線を微笑みで絡み取った。


 ――しばし、重苦しい沈黙。


 タカハマは、形だけは降参したように両手を挙げた。


「失敬。君と私との間にも言っていいことと悪いことがあったな」

「そもそも俺はお前に言論の自由を許していない。必要な時に最低限の言葉で、俺の役に立つことだけがお前の存在意義だ」

「そうだと認めてくれただけでも光栄だ。何しろこの頭が動くうちは、君はここに来てくれるということだからね」


 どこまでも前向きに過ぎる返答は、俺をイラつかせるには十分すぎる。


「それで、どういう風の吹き回しかな」

「何がだ」

「ここに来てくれた理由だよ。解決した事件のあらましを、丁寧に私に報告しに来てくれたわけでもあるまい」


 いわれ、俺はポケットから取り出した小瓶を、音を立ててテーブルに置いた。


「試薬は役に立った。どこで手に入れたかは知らんが、今回は不問としてやる」

「それは幸甚」


 恭しく頭を下げるその姿をナイフで何度も突き殺す夢想をする。

 大量の血が噴き出し、自分の顔を濡らすだろう。


 奴はどんな顔をするだろう。

 驚くだろうか。それともこれすらも想定の内だと笑うのか。

 鼻の奥には鉄さびのにおい。

 真っ赤に沸騰する視界。

 頬にかかる、温かい――。


「……――ち」


 その想像のあまりの生々しさに、俺は眉をひそめて踵を返す。


 ――「それはダイイングメッセージだよ」――

 ――「死してなお、お前を許さなかった証拠だ」――


 呆れる。偉そうに自分で言っておいて。

 自分だって、その血飛沫の温度を感じているくせに。


「今度も面白い話を期待しているよ」


 背中にかかった声を無視して、大きな音を立てて鉄扉を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。