白雪の君
おはようございますと声をかけながら所属する部署へ向かう。私アリスティア·コリンズはこの騎士団に17歳から勤めて早3年。事務官の仕事にも段々慣れてきて仕事上困ることも減ってきた。ガチャと扉を開き第三騎士団に入ると麗しき方が目に入る。
「アリスティア嬢おはよう。」
「ルシウス様おはようございます。」
私の上司であるルシウス·ジェンキンス様は王弟のご子息で公子様だ。目元までのサラリとした白銀色の髪に紫色の瞳、一見冷たそうに見えるがとても優しい方。24歳ながらもうすぐ騎士団長に任命されるという話もあり社交界で1番の注目株となっている。
公子様で騎士団の有望株でありとんでもなく男前ときたら凄くモテる。モテるが浮いた噂が1つも無くて誘いは一刀両断するが、想い人がいるのですか?という問いには曖昧に答える。その態度から密かに内定している婚約者がいるのでは無いかと、令嬢達が噂しているのを聞いたことがある。
噂を聞いた私は婚約者がいるんだって少し残念ではあったが、ココで働くのはルシウス様に恩義があるからだ。目に留まりたくて働いているわけではない。
4年前に領地が魔物に襲われてもう絶対終わりだと思った時に、颯爽と現れ皆を守ってくれたのがルシウス様だった。真冬の真っ暗な絶望だけが漂う夜に、白銀髪に白い騎士服で剣を手に戦うお姿がとても素敵で一瞬で心が奪われた。本当に白い希望だった。
周りに聞いて白雪の君と呼ばれるルシウス公子様だと教えてもらい、憧れの方と一緒に働きたくて必死で勉強した。騎士団内の勤めは難関で1年に数人のみが選ばれる狭き門。合格しただけでも嬉しかったのに、まさか同じ部署で働けるとは思ってもおらず当初はとても緊張した。今は少しずつ慣れ同じ職場の仲間として働けている。
数年後には騎士団長となるルシウス様を支えられる人を目指し今も猛勉強中でまだまだ頑張りたい。なのに先週父から手紙が来て、退職しそろそろ嫁いだらどうかと。襲われた領地も落ち着きを取り戻し、長くかかった再建がもう少しで終わるので持参金を用意できる事が書かれていた。両親と領地の皆を考えると良い方の所へ縁を繋ぎ嫁ぐのも大事なのはわかっている。額に手をあてながら1人悩む。
「アリスティア嬢…何か悩み事?最近顔が暗いよね?」
「あ、ルシウス様すいません。仕事します。」
すっかり悩みの中に落ち仕事をせずにボーッと考え込んでしまっていた。慌ててペンを取り書類へと向かおうとすると。
「今はいいよ。無理しないで。悩みがあるなら私が相談にのるよ?話しにくいなら誰か別の…」
他の人に声をかけようとしたルシウス様を、いえ!ルシウス様で!と止めたのはいいがどうしたものかと思案する。いや、でも何て言うのか…完全に私の都合だけの話だし…んーっと悩んでいると、こちらへと隣の部屋に促してくれた。
「…すいません。」
「いや、第三騎士団を預かる身としては皆の憂いを晴らすのも大事だから大丈夫だよ。」
向かいに座るルシウス様はにこりと微笑んでくれ私は泣きそうになる。それを見た彼がえ?泣かないで?どうしよう…と焦って慌てている。
「私辞めたくないんです…」
「え!!アリスティア嬢辞めるつもりなの?それは困るんだけど…何か事情があるの?」
「父からそろそろ退職して嫁いだらどうかという手紙が来て、家族を思うとその方がいいのかと。」
「辞めたくはないんだよね?」
「もちろんです。私ルシウス様の側にいたくて必死で勉強してきたのに…ずっとココにいたいしルシウス様を支えていきたい…」
ポロポロと涙が出てしまう。ルシウス様がハンカチを渡してくれて涙を拭くが止まらない。口に手をあて何か思案していたと思ったら、ねぇアリスティア嬢と声をかけてきた。
…はい。なんですか?涙ながら答える。
「それなら私の元に嫁がない?」
え?私?ルシウス様にって事?驚きすぎて涙が止まる。意味がわからずルシウス様を見つめる。フフッ可愛いと笑いながら涙を拭いてくれる。
「からかっているのですか?」
「違うよ。本気で言ってる。可愛いのも本当。側にいたいなら私に嫁げばいい。仕事も辞めなくていいし。でももし辞めたくなったら家にいてくれたらいいよ。」
「ルシウス様婚約者は?」
私に婚約者はいないよと微笑んでいる。あの噂は嘘だったのか。
「君は私の側にいて公私ともに支えられるし、私は君を手放さなくて良い。お互いにいいと思うんだ。」
「…私そんなに引き止めて貰えるほど仕事出来ませんよ?」
「私見た目が飄々としてるだろ?あまり悩まない苦労知らずと思われがちなのだけど、本当は人一倍弱いんだ。実際毎日の激務に胃薬が手放せなかったのが君が来て以来可愛らしい姿を見ているだけで胃薬が減ったんだ。全身全霊で私を慕ってくれているのもわかっていたし、可愛くて愛しくてもう手放せないくらい大事に想っているよ。」
「え…曖昧に答えていた想い人って」
「君だよ。出会って以来アリスティア嬢だけを想っている。そんな君が辞めるだけでなく、他所に嫁ぐだなんて正直我慢できない。」
えっと…ルシウス様は私が好き?本当に?ルシウス様を見ると紫色の瞳が愛しそうな目で私を見ている。思わず顔が真っ赤になる。
「…でも我が家は名前だけの公爵家で、持参金も少しだけしか用意できません。」
「身一つで来てよ。全部こちらで用意する。アリスティア嬢が来てくれたら何もいらない。ゆっくり考えてくれたらいいから。」
優しすぎて涙が出る。あの日一目惚れした方にこんなに言ってもらえて…さらにずっと側にいていいって何このご褒美。私もうすぐ死ぬの?
「…私死にたくないです」
「え?なんでそんな話に?」
「ルシウス様の元へ嫁ぐだなんてご褒美すぎて…もう死ぬのかと」
一瞬目を見開き笑う。そして凄く優しい声で、私との婚姻をご褒美って言ってくれるんだねと言い立ち上がる。私の座る前に傅き手を取る。
「私は君が好きだよ。側にいてくれるだけで無敵にもなれる。君の心に私がいるならそれを貰いたい。誰よりも大事にするし幸せにすると誓うよ。」
「…」
「私と結婚してください。」
「…はい。私で良ければ。」
良かったと手に口づけをされ真っ赤になってしまう。ルシウス様は横に座り嬉しそうに微笑んでいる。
「コリンズ公爵には私から手紙を出すよ。近々挨拶に行ける段取りをつけるし、あとのことは私に任せて。」
「よろしくお願いいたします。」
私はまさかルシウス様と結婚する事になるとは思ってもおらず、未だに放心しているが嬉しそうに手を握っている彼を見ると現実なんだと思わされる。
「今日の夜一緒に食事しよう?」
「わかりました。今から必死で仕事を終わらせます!」
ルシウスは笑いながら本当可愛いんだからって私の頭を撫でてくれた。今までも優しかったが甘さを混ぜたルシウス様は色気が大爆発している。私はこれからやっていけるのだろうか。
部屋から出るとルシウス様は少し出かけてくると言い、周りに指示をしながら急ぎ第三騎士団から出て行った。
隣の席にいた先輩に悩みは解決した?と聞かれ一瞬の沈黙の後、…多分?とだけ返事をしておいた。先輩は不思議そうな顔をしていたが、私が誰よりも不思議で別世界に迷い込んだ気分。夢心地なまま食事の約束のために必死で書類へと向かった。
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「アリスティア嬢行こうか。」
「え!はい!」
どこかで待ち合わせかと思いこっそり聞こうと思い近寄ると微笑む彼に誘われた。まさか皆がいる前で誘われるとは思ってもいなく慌てて席に戻り支度をする。近づいてきたルシウス様に手を取られ、ではお疲れと皆に言い私の手を引き出て行く。出た瞬間騒がしくなった…皆どう思っただろうと心配になる。
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食事は街中の高級でお洒落なレストランの個室を予約してくれていてとても美味しい。
「明後日2人休みを貰った。朝からコリンズ公爵家に共に挨拶に行こう。訪問の了承は得ているから。」
明後日!!?今日の今日で明後日ですか?!早すぎる展開についていけない。呆然とする。
「…早くないですか?」
「え…早いかな?君との事が嬉しすぎて浮かれてしまっているのは事実だが。嫌だった?いや…でも…」
「いえ!あまりの速さに驚いただけです!」
耳を少し赤くして口籠るルシウス様は私との事を本当に喜んでくれているのだと感じる。
「良かった!私の方はもう話がついているから、公爵家訪問のあと顔合わせの日を決めよう。」
「もう話ついたのですか?ルシウス様のご両親は反対されないのですか?」
「全く反対何か無いよ。それどころかやっと婚姻する気になったと喜んでいるよ。あと私には妹がいるのだがもう嫁いでいるし、あまり会う機会が無いがそのうち会わせるよ。」
「今回の事を喜んで頂けるなら良かったです。ありがとうございます。お会いできるのを楽しみにしています。」
和やかに食事が進み、そういえばコレってポケットから出した小さい箱を渡される。開けると綺麗なアメジストのピアスが入っていた。パッと目の前のルシウス様を見ると紫色の瞳を細め微笑んでいる。
「守護の魔法をかけてあるから私が側にいれない時に、守ってあげられるように着けていて欲しい。」
「ありがとうございます!嬉しいです!今着けていいですか?」
「もちろん。喜んでもらえて良かった。指輪は今度一緒に選ぼうね。」
ピアスをつけた私を見てよく似合うと、嬉しそうに微笑むルシウス様は甘すぎる。甘すぎて身も心も溶けてしまいそう。羞恥心で目が見れない。まさか紫色をもらえるなんて思って無くて、本当に好かれてるのだと少しずつ実感してくる。
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翌日第三騎士団へ出勤すると皆ニヤニヤしていた。どうしたのだろう。
「アリスティア嬢ついに捕まったか。」
「やっとかー」
「長かったよねー」
口々に言われる。ん?どういう意味?朝から皆に絡まれ混和する。
「ルシウス様と婚約したんでしょ?朝からその話題で持ちきりだよ。」
!!?!漏れるの早くない?!何で?どこから!
「さっき殿下がルシウスについに婚約者が出来た!て触れ回ってたよ。相手は言ってなかったけど。」
ん?相手言ってないなら何故第三騎士団の方々は私に言ってくるのだろう。
「それなら何故私だと…?」
「ルシウス様が婚約するならアリスティア嬢に決まっているよ。騎士団内は大体思うんじゃない。掌中の珠だよ?皆思うよね。」
うんうんと皆頷いている。へ?どういう事?ポカンっとした顔をしていると、全く気づいてないのはアリスティア嬢だけだよ?騎士団内でも誰も本人に漏らさない様にしてたもんねーって言われた。
「令嬢達の噂聞いた時には笑ったよねー。」
「わかる!密かな婚約者がいるってやつね。あれは驚いたよね。」
「あの…私もあの噂信じてました…。」
私がそう言うとルシウス様可哀想過ぎるーと言われた。これは恥ずかしすぎる。やっと実って良かったと皆喜んでいる。
おはようとルシウス様が出勤してきた。皆おめでとうございますと、口々にお祝いを言っている。ありがとうと少しはにかむ姿はあまりにも可愛くて皆頬を染める。
「正式な手続きはまだこれからなので確実な婚約者ってわけでは無いけれど、捨てられないように精進していくよ。」
捨てないであげてねと先輩方に言われ、捨てるわけないですよ!と反論する。捨てないって、良かったねーと皆ルシウス様の味方だった。解せぬ。
その後現れた殿下にも捨てないであげてねと言われ落ち込む。そしてお祝いにと私が第三騎士団に配属となった経緯を教えてくれ、とても信じられなかった。ルシウス様に聞くと顔を真っ赤にし違うと焦っていた。ルシウス様が手をまわしたのは本当なのだろうか。




