公国と権謀術数
1週間も空けてしまい申し訳ありません。
更新です。
リュベリエン公国の首都レスターレ。比較的新興国であるこの国は機械産業が盛んであり、その首都であるこの都市は特に栄えている。
──王国よりも首都はすごいのではないかしら。
公国に入ったことはあるけれど、国境の町しか見ていないからわからなかったわ。交渉の席は基本的に国境付近の都市で行われるのよ。
馬車の中でも最初こそあ、あんなことがあったけれど、公国に入った辺りからは公国の主要産業や町の様子から、何が美味しいだのこの場所は綺麗でおすすめだとか、公国について様々なことを話してもらったわ。食べ物とか観光地は分かるけれど、よくもまあ一応は他国の人間である私に内部の情報も話せるわね。
首都の中に入った後もしばらく続き、あるところで馬車が止まった。
「着きましたよ、ここが我が公国の宮殿です」
──そこには、とても国土の小さな国とは思えないほど立派な宮殿があった。
白を基調とした美しく立派な城壁、宮殿も広さこそあまりないけれどとても綺麗で、まるで芸術作品のようだわ。
「すぐ隣の国に、こんなに綺麗な建物があったのね⋯」
私は素直に感動していた。立場上、気軽に外国へ行くことは難しいし、長い間争っていた国だということもあって、あまり文化について知る機会はなかったもの。建物が美しいと言えば、王国よりさらに南にある商業連合は、その財力から美しい建物群があると聞いてはいるけれど。
だから、私の目で実際に見て一番美しいと感じたのは、今この瞬間だわ。
「どうも、お気に召したようでなによりです。早速我が父へ報告に行きたいのですがよろしいでしょうか?」
「えぇ、構いませんけれど⋯」
我が父⋯?この国の大公閣下では?私もついていくことになるのかしら。いえ、私に関連した報告でしょうしそうなるわよね。
はぁ⋯、他国に来ていきなり大公閣下との謁見は気が重いわ⋯。
「ああ、あなたが心配するようなことはありませんよ。既に父上にも許可は取っておりますから」
「そ、そうですか。それなら良かった⋯わ⋯?」
それはおかしいわ。そんなのまるで、あの婚約破棄騒動を事前に知っていたかのような⋯。最初から、私を連れてくることだけが目的だったとでも言うの?
──分からないことばかりよ⋯。
2つほど階を登り、おそらく執務室の前へと着いた。玉座の間で謁見することになると思っていたけれど、よく考えたらほとんど誘拐のようなことをして来た人間と公式に面会することはできないわね。いえ、一応は国外追放を言い渡されていたしそうではないのかしら?
公国の大公閣下、お会いするのは初めてだわ。色々と疑問は尽きないところだけれど、一旦置いてきちんと姿勢を整えないといけないわね。
ちょうど、ライオネル王子が扉を開ける。そこに待っていたのは⋯
「⋯お父様?」
私の実の父でもあるヴェステント公爵家当主、ヴィルフリード・フォン・ヴェステントその人だった。
いよいよ訳がわからないわよ?なぜお父様がここにいるのか、大公閣下はどこなのか。いえ、これはそもそも前提が違⋯
「そうではないよ、クリスティーナ」
私の心を読んだかのようにお父様は答え、続ける。
「大公は少し席を外しているだけだ。すぐに帰ってくるだろう」
「ちが⋯お父様。私はそれだけを聞きたいわけでは⋯」
問いただそうとした瞬間、この部屋の"主"が帰ってきた。
「もう来ていたのか、悪かったな。少々急ぎの用事があったものでな」
「大公閣下⋯」
「いかにも。私がリュベリエン公国大公、レオナルド・リュベリエンである」
もう本当に私の頭は理解が追いついていないわ…。もうなにも考えない方が楽な気がしてくるけれど、そういうわけにもいかないのよねぇ…。
「えぇと…まずどこから聞けばいいのかわかりませんけれど。お父様はどうしてこちらに?」
そう、一番の謎はそこなのだ。その理由は分からないけれど、ここで繋がっていたということは婚約破棄騒動にライオネル王子が飛び込んできた理由は説明できることだし。
「なに、そう不思議なことでもないだろう。詳しくは知らぬがおおよその予想はついていたからな。少しそこの第二王子を唆しに来たまでだ」
理由を説明しているようで大事な情報はぼかした話し方。私には通じないわよ?
とはいえ、お父様もそんなことは分かっているはず。話す気がないのか、ここでは離せないのか。ひとまず置いておきましょう。
そうだとしても、それならば気になることもあるわ。
「⋯そうですか。ではライオネル様が来られた理由はどうしてなのでしょう?態々第二王子であるライオネル様直々に来られるようなことでもないと思うのですが」
ほとんど敵地のような場所に第二王子が赴くなど、本来はあり得ないはずだわ。見た限り表には護衛も見当たらなかったわよ。
その疑問に声を発したのは、なぜかライオネル王子ではなく大公閣下だった。
「それはだな、この馬鹿がどうしてもそなたの⋯」
「父上!」
「ふむ、その調子だとまだなのか?」
「ここでする話ではないです!」
結局理由は明かしてくれないの?お父様はずっと笑っているけれど。なにがそこまで面白かったのかしら。
謎は多く残したままではあるけれど、一旦ライオネル王子へ連れられて宮殿を案内されることになった。
多くの調度品により美しく飾られた部屋や廊下はとても美しかったけれど、一番の目を引いたのはやはり私に当てられるらしいこの部屋。これは⋯ライオネル王子の婚約者用に作られた場所ではないの?
ライオネル王子と隣で、部屋の中にある扉…王城で私に割り当てされていた王太子妃用の居室とほとんど変わらないわ。
その、なんと言うべきなのか…私が困惑して立ち止まっていると、ライオネル王子が口を開いた。
「申し訳ないと思うのですが…今の宮殿には空いている部屋が少なく、しかも父上はなにを面白がったのか『ならば、お前の隣の部屋になるように手配しておこう』と…」
本当に頭が痛そうな顔でそう言われてしまえば、私も異を唱えることは難しい。そ、それに⋯
──まあ、嫌というわけではないですし⋯。
大公閣下からどう思われているのか、この扱いに透けて見えているような気がして少し顔が赤くなる。
──"彼"がなにも感じていなさそうなのは、少しだけ悔しいわ。
申し訳なさそうで心が痛そうな顔だけをしてばかり。私だけ心を乱されて、少し仕返しに悪戯でも仕掛けてみたいと思うのは間違っているかしら?
「⋯私と隣の部屋はお嫌なのでしょうか⋯?」
「ぐっ⋯」
私ができる限りのあざとく可愛いように見せる顔と少し悲しそうな声色で問いかけてみる。
「い、いえ。そのような訳ではなく、その⋯」
あからさまに動揺を見せるライオネル王子の姿に、私の気分も少し晴れていく。隠していただけだったのね。
少しの沈黙の後、なにやら意を決したような表情で続けた。
「そうだな⋯。毅然とした態度で先導する貴女も素敵だと思いますが、今のような可愛らしい貴女もまた美しいと思いますよ?」
「んなっ⋯」
ここここ、ここで言う言葉ではありません!!!
な、なん、なんでこの状況で口説かれているのかしら!!!?
──嬉しい。
ではなくて!!
すっかり赤面してしまった私は、しばらく言葉を発せなくなってしまい、上の空で返答することしかできなかった。
結局、隣の部屋のことについてどう思われているかをはぐらかされてしまった。不服だわ。
ちなみに、このやり取りが大公閣下の耳にも入ってしまっていたらしく、次にお会いしたときに
「同じ部屋でも良かったかもしれないな」
と笑いながら言われてしまった。
余計なお世話です!!
お読みいただきありがとうございます!
多忙と展開の大幅改訂で更新が遅くなりましたが、次話は早く更新できるようにしたいと思っています。




