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次回更新は11月7日(土曜日)21時台の予定となります。
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大遠征が始まって、4日が経過した。
オレは非常に疲れていた。いや、体力的にはまったくといっていいほど元気だ。前回のオレとは大違いだった。まあ、今のオレは、婆さんのところにいたとき以来、真面目に修行に励んでいるからな。体力だけは有り余るほどある。前回の人生では大遠征4日目なんか、もうヘロヘロで死にかけになってんのを、第三王女の手前、必死に疲れてなんかいないアピールをしてたわ。ちなみに、学園からコローン森林型魔宮までの行軍は往きだけで5日間の予定になっている。
で、オレが疲れているのはメンタルの方だった。この4日間、とてつもないストレスが掛かっている。しかも、ストレス要因は二つもあった。
まず、一つ目だ。大遠征が始まるまでの間、一応、オレは前回の微かな記憶を必死に掘り起こしていた。オレ的には30年以上も前の話だし。当時もあんまり興味がなかったからなのか。大事なことは見事なほどに思い出せない。使えねぇにも程がある。ま、まあ、それでも、いくつか思い出したことはあった。
その一つが襲撃のタイミングだ。魔獣の群れによる襲撃は5日目に起こった。ちょうど学生の隊列の先頭がコローン森林型魔宮に着いたぐらいだったはずだ。この記憶には結構、自信がある。「魔獣の大群による襲撃」という急報が来たとき、王党派の後方にいたオレはまだ行軍の最中だった。これは絶対だ。歩き疲れて足の感覚が無いなか、「あとちょっとの我慢だ」とか思ってた記憶もある。
だが、しかしだ。よくよく考えたら、これはちょっとおかしいんだ。なぜなら、「魔宮に入るのは全員が到着してから、班ごとに順番」ってのが、今回の人生での大遠征の事前説明のときにあった。てことは、前回の人生でも、仮に隊列の先頭にいる平民の学生たちが魔宮に到着していたとしても、まだ魔宮の手前にある野営地にいたってことだ。となると、魔獣の大群が魔宮の外に出てきたってことになる。つまりは、氾濫だ。
氾濫が起こる理由はいまだに解明されていない。けど、小規模な魔宮では起こりにくいと言われている。コローン森林型魔宮はアルカンタラ大森林魔宮なんかとは比べものにならないくらい小さな魔宮だ。また、魔獣の間引きを良くしている魔宮でも起きにくいと言われている。コローン森林型魔宮は王都に近いから、近衛騎士団とか王国軍とかがしょっちゅう訓練がてら魔獣の間引きをしている。実際、コローン森林型魔宮では王国建国以来、氾濫は起こっていない。まあ、さっきも言った通り、氾濫の理由が謎な以上、小さかろうが間引きしてようが起こる可能性はあるんだが……。
しかもだ。氾濫だったら、狼型魔獣の群れだけではなく他の魔獣も出てくるはずなのに、他の魔獣が出たって話は聞かなかったような……。うーん、オレが忘れているだけなのか?ま、まあ、二度目のはずの授業の記憶が全く無かったりするしね。俺の記憶力は当てにならない。
ともあれ、何が起こったんだ?氾濫?それとも、他の何か?クソっ。人死にが出るようなことが起きるのは知っているのに、その詳細が全然わからない。なんて言うか、女子が屈んで、見えそうで見えない胸元的なね。……ちょっと違うかも。とにかく、イライラする。
でもって、二つ目だ。ぶっちゃけ、コッチの方がメインのストレスだったりする。
残念ながら、海賊派は中立派の隊列の中でも先頭に位置していた。そして、オレたちの班は海賊派の中でも一番前、つまり、オレは中立派の一番先頭にいる。魔獣に襲撃される位置に近いってことだ。まあ、思うところは色々あるが、それはいい。……というか、しょうがないだろう。前にも言ったと思うが、派閥内での順番は慣例によってある程度決まっている。それに、ウチの班はオレとかフランク以外はイケイケの輩が多くて、なぜか前に出たがる。行軍で前にいても何の意味もねぇだろ、と思うんだが。まあ、いい。そこまでは気にしていない。何が起ころうとも、今回のオレは逃げに徹すれば、逃げ切ることができるだろうという自信はある。
問題は……だ。なんで、ギルバート・ジューンスペンサーがオレの隣を歩いているのか?ということだ。
いやね、コイツは大公派のボスだから、大公派の最後方でデンっと構えているのはわかるよ。そんで、オレが中立派の最前にいるから、コイツがオレの目の前を歩いているとかは普通に有り得るだろう。何故に、隣なんだ?どんな絵面なんだよ?王党派の重鎮の家のオレと大公派のボスが並んで歩いてるって。いいのか?いや、ダメだろ。オレはただでさえ王党派から睨まれてんのに、勘弁しろよ。兄上にまた絡まれるだろうが。
つーか、これ、そもそもが行軍の訓練のはずなんだが……。海賊派の先頭と大公派の後方が混ざっちゃったらいかんだろ。隊列の乱れがエグ過ぎる。いくら最近、大公派細剣閥の連中が海賊派のサロンに来てて仲良くなってる、つっても限度があると思われる……。
しかも、コイツ、全然、喋んないんだけど。基本、ムッツリと無言だ。そして、たま~に喋るんだけど、会話のやり取りが途中で止まるのよ。コイツが話すターンのはずなのに黙り込むんだ。例えばだ。
「デレク殿。……お強いですな」
「いやいや。私が見たところ、ギルバート殿には到底及びませぬ」
「……」
「……あ、あー、そ、そういえば、お若い頃から戦場に出ておられて、名のある騎士を討取ったとか。素晴らしいですね。私はまだ戦には出たことがなくて」
「……」
いやいや、なんか言えよ、このボケ。なんで俺が気ぃ遣わなくちゃいけないんだよ。クソっ、一発くらいなら殴ってもいいかな?……でも、コイツ、間違いなく強ぇしな。普通に負けそう。はぁ。しかも、大公派とはいえ、爵位はウチより上だし。……どう接すればいいか、全然わかんないんだけど。
すると、大抵はあとでチャーリーが、「ギルバート様は寡黙な方なんだ」とか「あんな風だけど、ちゃんと話は聞いておられる」とか「あんなに話すなんて、デレクのことを気に入ってるんだ」とか、必死にフォローを入れてくる。なんだかチャーリーも大変だな。
しかし、チャーリーよ。そこじゃないんだ。いや、そこも問題だよ。でも、大事なのはそこじゃない。
……オレはリナと「キャッキャッ」、「ウフフ」と弾んだ会話がしたいんだ。リナはすぐそこにいるというのに……。ストレスが半端ねぇ。
魔獣の大群による襲撃は明日に迫っていた。




