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次回更新は6月13日(土曜日)21時台の予定となります。
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オレは呼吸すら止めて気配を消し、細心の注意を払って足音を殺して、山賊の背後に忍び寄って行く。山賊はオレに気付かない。その後頭部に細剣をサクッと突き入れた。一度軽くエグッてから剣を抜くと、山賊は声も出さずにゆっくりと崩れ落ちていった。多分だけど、何が起こったのかもわからないまま死んだと思われる。
これで12人かな……。
隣を見ると、マリアが背後から口を抑えて喉を掻っ捌いた山賊を静かに放り捨てていた。さっきから非常に手際がいい。オレよりはるかに気配を消すのが上手いし。流石だ。影の騎士団の訓練の一環で盗賊狩りをしたことがあると言っていたのは伊達じゃないわ。
マリアがオレを見て、小さく頷いた。オレたちは次のターゲットを探すために歩き出した。
ゼワリン領に入り、一つ目の山を越えようかというところで、オレたちは山賊の夜襲を喰らった。いや、正確には喰らいかけた。自画自賛するわけじゃないが、夜番をしていたオレが敵襲に気付いた。夜の暗闇の中、「なんか動いているものがあるな」、しかも、「あちらこちらで複数」ってんでわかった。婆さんのところでやらされた夜目の訓練が初めて役に立ったよ。つーか、オレの夜目ってどうやらかなりのハイレベルらしい。まあ、昼間と同じとは言わんが、暗闇でも結構視界は良好だったりするからな。ちなみに、マリアも夜目が利く。そりゃ、影の騎士団だから、訓練してると思う。おかげで、ここまでの道中、オレとマリアが交互に夜番を担当させられた。エリックがグースカ寝てんのにかなりムカついていたのだが……、まあ、それはいいだろう。結果こそ全てだ。夜襲をモロに喰らわずにすんだのは滅茶苦茶デカかった。あのまま山賊どもに包囲でもされていたら、もう今頃は、確実に死んでいただろう。
てゆうか、オレの嫌な予感ってマジでよく当たるわ。はぁ。
思わずため息が出たが、状況は悪くない……どころか、良いとさえ言える。オレたちとオレたちの直接の護衛対象者はどうやら生き残れそうだ。もっとも、バラけて逃げた他の護衛たちとその護衛対象者たちのことは知らん……。
お察しの通り、結局、オレはというかオレたちは例の護衛の依頼を受けた。リナやサラまでもがなぜかヤル気満々になったからだ。意味が分からん。
マリアは、まぁ、オレに自動的についてくる感じだとして、サラなんか、「お前、全然関係ねーだろ」と思うんだが……。まあ、前のオレは知る由もなかったが、どうもサラって戦闘狂とか剣鬼とかって感じだよね。危ない女だわ。
リナもホントにわからん。おそらく、エリックのバカを憐れんでだと思うのだが、そのわりには、エリックをちょいちょい「不潔」呼ばわりしてるし。真実を全て自供したオレに対しても、時折よそよそしいと言うかなんか疑いのこもった目を向けてくるし。絶対、怒ってるくさいんだよなぁ。にもかかわらず、なぜか強硬に依頼を受けるのはもちろんのこと、「ワタシも行く」と言ってきたんだよなぁ。何を考えてるんだか、オレにはさっぱりわからんわ。あんまりリナには危険な真似をして欲しくないんだけど……。
いや、オレも一応、反論はした。嫌な予感はもとより、遊びじゃねーからな。仕事だ。しかも、人の命がかかったね。素人さんに足を引っ張られたらオレも余裕で死ねる。だから、毅然として言った。「お前ら実戦経験はあんのか?」とね。もっと言やぁ、「人を殺したことあんのか?」って話だ。これは実は大きな問題だ。初めて人を殺すという状況になると、相手がどんなにクソみたいな山賊だったとしても、変に情けを掛けたり、腰が引けちゃったりする奴が結構多いからな。それで、反撃を喰らって自分が殺される羽目になったりする。
すると、リナは普通に「ある」らしい。なんでも、ロー領の治安維持活動に参加して、盗賊を仕留めたことがあるとか。いやいや……、流石は海賊派だわ。普通そんなこと貴族の子供はしない。ちなみに、エリックも同じようなことをしたことがあるそうだ。
しかも、サラに至っては、サラの親父さんが、「近衛騎士は対人戦こそ要」とかって言って、休暇の折に山賊狩りに連れていかれたそうだ。どんな教育方針なんだよ、パーカー家?怖いわぁ。野蛮だわぁ。そりゃ、サラもあんな風に育つわな。
ともあれ、オレにはもはやそれ以上、「ノー」と言う理由も勇気もなかった。そういう訳で、オレとエリックとフランクに加え、リナとサラとマリアの6人で護衛の依頼を受けることになった。ああ、実は、フランクだけ実戦経験ナシなんだけど、オレとしては頭脳派が一人は欲しい。いや、リナも頭はいいんだけど、なんか若干だけど脳みその一部が筋肉でできているところがある。不安だった。そういうことなんで、フランクについては経験は不問とした。
今回の仕事の護衛対象は超が三つくらい付くお高いお値段がついている魔宝石をあしらった首飾り二つだった。その首飾りを一個づつ二人の人間が持つ。だから、結果的に、その二人が護衛対象とも言える。詳しくは知らんが、その首飾りと十年に一度市場に出るかどうかというくらい超希少な種類の魔宝石の原石を物々交換するらしい。まあ、商売のことはオレには関係ない。で、それを持つ奴はリアフタ商会の前商会長のビガ――コイツが一代でリアフタ商会を立ち上げて大商会にしたらしい――とその孫のビシャ――ビガの第三子の子供――だ。あとダミー役で従業員が二人付いてくるってことだった。ちなみに言うと、商談の地であるルビナク領でリアフタ商会の他の専属護衛たちと合流予定らしく、オレたちは帰りは護衛しなくていいそうだ。
ビガは一見、その辺によくいる人のよさそうな爺さんなんだが、ちょっと話をすると、とんでもなく肝の太いジジイだった。オレたちが仕事を受けるにあたり顔合わせをした。まあ、当然のことだ。そのとき、「これで最悪、山賊どもに皆殺しにされても海賊派とジュライフィールド家が復讐してくれるだろうし、あわよくば商品を取り返してさえくれるかも」とぬかしやがった。ちなみに、破格の依頼料はそれを踏まえたものだそうだ。他にも、「私と孫の代わりはいるから、いざとなったら首飾り優先で」とかね。いや、商人もこのクラスになると、いろいろブッ飛んでるわ。
護衛計画はシンプルだった。リアフタ商会の専属護衛が6人に単発で雇ったハンターが15人。それに加えて、オレたち6人。専属護衛たちがビガをオレたちがビシャを護衛するって感じだ。そして、基本的には、襲撃があれば逃げる。まあ、護衛の仕事は襲撃者を仕留める事ではなく、護衛対象を無事に守ることだから、妥当なところだ。ただし、しつこく追って来て、なおかつ相手がこっちより少ない人数なら闘うという選択肢もあり。もちろん、相手が多かったら逃げる一択で、さらにバラバラに4つのグループに別れて逃げる。護衛対象を守る確率を上げるためだ。そのため、ビガとビシャが従業員みたいな安物の服を着て、ダミー役の二人の従業員が高価な服を着ることにもなっていた。
さて、現在の状況だが、山賊どもはなかなかの練度だと思う。オレたちの後を追うのにしっかりと二人一組で行動していて、なおかつ、無分別にバラバラの突撃なんかしてこない。オレたちに追いついても味方が来るのを待って、包囲しようとしている。かなり統制が取れた連中だ。おそらくだが、例の噂の山賊どもだと思われる。だが、おかげさまでというべきか、それを逆手にとって、楽に山賊を狩れている。まあ、これは結果論なんだけどね。フランクの発案で、夜目が利くオレとマリアが殿というか遊撃というか、護衛対象からこっそり離れて後を行くことになった。可能ならば敵を足止めし、万が一、山賊どもに包囲されてしまった場合には外側からその包囲の輪を喰い破るためだ。ところが、結果的に、護衛対象という餌に食いついてきた上に、味方が揃うのを待っている山賊どもを不意打ちで仕留められる状況になっている。ラッキーって感じだね。
ただ、ちょっとだけ気になったこともある。山賊共の剣筋が妙に綺麗な気がする。多分なんだけど、剣の師に付いてちゃんと学んだんじゃないかという感じを受けた。今のところ、オレとマリアが仕留めた山賊は合計12人。その内6人をオレがヤッたんだが、4人は完全に不意を突けたので、その腕前まではわからない。だが、残りの2人とは数合だが打ち合った。特に最初にヤッた奴にはガッツリと気付かれたので、ちゃんと戦う羽目になった。なぜ、気付かれたかと言うと、オレの高位魔剣がうっすらと光っているからだった。忘れてたわ。剣を抜いた瞬間に速攻で気付かれた。自分でもビックリしたわ。これほどまでに夜中のサプライズアタックに不向きな剣があるだろうか、否、ない。で、ソイツは細剣遣いだった。ちょっと流派まではわからなかったが、修練を積まないとできない鋭い突きだった。もう一人は長剣遣いだったが、コッチも滑らかな動きを見せていた。うーん、あの二人だけ特別なのか?あるいは、騎士崩れが集まっているのか?いや、これは他の護衛たちはどうなってんのかね?苦労どころかそれ以上の状況になってそうな……。
ちなみに、オレが今、手に持っているのはその最初にヤッた奴の細剣だ。なんせ、この状況下では、オレの高位魔剣は使えん、というか、鞘から出せんからな。でも、この剣はマジでいい剣だ。おそらく中位魔剣だろう。結構な業物だと思う。……後で高く売れそう。
オレとマリアは歩きながら周囲を窺っていたが、もう山賊どもは追って来ていないようだった。そろそろ、リナたちと合流してもいいかもしれない。
ふむ。結果オーライだな。これで借金返済完了ってか。
ちょっと顔がニヤけてきそうだわ。……いかんな、まだ敵地だぞ。




