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4-8

次回更新は5月23日(土曜日)21時台の予定です。


前回、更新予定を書くのをすっかり忘れていました。申し訳ありません。


今後も懲りずに読みに来てくださると嬉しいです。何卒よろしくお願いします。


 眠気との激しい戦いをしているうちに授業が終わり、オレはマリアと海賊派のサロンに向かって歩いていた。あれから4日経った。あのあとは実に大変だった。マリアの質問攻めを必死に躱し続け、家には内緒にすることを約束させることに辛うじて成功した。そして、エリックをなんとか説得して、フランクに相談することを了承させた。疲れたよ。つーか、なんでオレが……。


 ともあれ、速攻でフランクに相談したんだが、フランクにもいい考えが思い浮かばないようだった。というか、借金返済の方法以前にエリックのバカを思いとどまらせるのにほとんど全ての労力を使ったようなもんだ。いや、マジで、なんで家名を捨てるという発想になるのか……。


 ホントに不思議だったので、こっそりフランクに訊いてみたところ、「エリックなりのケジメだろう」とのことだった。


 大前提として「もし自力で借金を返せなかったら、ヒュー家を追い出されるのは確定事項」だそうだ。「そんな器量無しは跡目がどうの以前に不要」ってことになるみたいだ。しかも、娼館のようなお楽しみの場での暴力沙汰はちょっと無粋過ぎるとされているらしい。まぁ、それは確かにオレも聞いたことがある。身分なんか関係ない男の嗜みってやつだわな。で、これもかなりのマイナスポイントだ。だから、他の海賊派の家にも雇って貰えない可能性が高いそうだ。いやいや、海賊派さん、厳し過ぎるだろ……。


 そのうえでだ、オレを巻き込んだことをエリックは後悔しているのだろうとのことだ。なんでも、エリックの母ちゃんは商家の出らしい。しかも、建築関係の現場なんかの人足を手配する口入屋だそうだ。で、そういう人足ってのは気の荒いのが多い。それを束ねる商家もまたしかり。そこからかどうか、どこの街でも、そういう商売の家は表社会と裏社会の橋渡し役をしていることが結構ある。いわゆる街の顔役ってやつだ。そんな橋渡し役にとって一番大事なものは信用だ。そして、その信用はたとえ自分が損をしようとも筋と義理を貫き通すことでしか得られないものだ。だから、今のヒュー家、特にエリックの母ちゃんは筋や義理というものをとても大事にするらしい。当然、エリックもそれは叩き込まれている。今回の件では、当初はテンパってたし、家にバレたくないから、わざわざ海賊派じゃないオレを呼んだんだろうけど、そもそもオレ、というか人を巻き込むこと自体が筋違いだし、リナの件で海賊派として恩のあるオレに不義理をかましたことになる。そのことに、エリックも気付いたのだろうとのことだった。


 とはいえ、フランクも今すぐに家名返上するのはいくらなんでも早すぎると言っていた。そもそも、借金すること自体は別にいいらしい。返せなかったら問題になるだけだ。そして、額の大きさから考えて、逆に数年くらいは猶予の時間はあると思うって言ってた。無利子・無期限だしね。だから、その間に、少なくとも返済の目途さえつければ、家を追放される事態にはならんらしい。オレだって、別にそれで構わない。


 大体、オレに対するケジメはヒュー家の宝物庫から金目の物をカッパらって来ることだと愚考する次第なのだが……。エリックのクソバカめ。


 はぁ。てゆうか、あのペーター・アビニョンの高位魔剣さえあれば、あんな借金なんか一撃で返せたものを……。


 ここのところ、何度もこのことを思う日々だ。どう考えても、あの魔剣はオレのモノだろう……。だが、今さらどうにもならん。はぁ、マジで、どうやってあんな金を返せばいいのか。ホントに20年くらいかけないと無理なんじゃね。おかげさまで、父上や母上の顔を見るたびに、オレの胃に穴が開きそうだわ。はぁ。最悪だ。マジでイラつく。


 この鬱々とした気持ちはサロンで誰か捕まえ、稽古と称して滅多突きのボコボコにしなければ晴れない。ホントはエリックのバカをそうしてやりたいが、あのバカはなぜか最近、サロンの一室に籠って瞑想にふけっていやがって、武道場に来ない。そのせいでか、リナには「何があったの?」と詰められるし、不審がられるしで、最悪だ。暗い気分がさらにドヨーンとしてきた。


 すると、ちょうど王家のサロンの前くらいのところでジョナサンたち王党派の集団に出会った。大勢の文官系の学生を引き連れていた。文官系の学生がなんか荷物を持たされている。


 ……おお、雑用に扱き使われてんのか。


 オレはすぐにそう察した。前の人生でオレもやらしたからな。


 学園において文官系の学生の立場は弱い。元々ウチの王国は武を貴ぶ気風があるうえに、学園生にしかない弱みもあるからだ。文官系が仕官する際、評価のポイントにされるのは主に二つ。一つは文官登用試験と呼ばれるペーパーテストであり、もう一つは学園の成績だ。文官登用試験は王宮主宰のものと大公家主宰のものの2種類がある――もともとは王家主宰のものだけだったが、例のゴタゴタのあと大公家も独自にやり始めた――が、ペーパーテストだから高得点を出せばいいだけで、学園での立場には関係しない。


 問題は学園の成績の方で、その中でも討伐評価こそが文官系の弱みだ。学園の授業は座学のほかに実技と呼ばれる分野がある。座学は年度末に行われるペーパーテストの結果が成績になるので、個人の努力の話だ。そして、実技は大きく分けて2種類あり、教官評価と討伐評価だ。教官評価は剣や魔法の腕を教官に見せるもので、座学と同じで個人の努力で何とでもなる。


 で、討伐評価だが、これはざっくり言えば魔獣の討伐記録だ。学園生とはいえ貴族の端くれだから、魔獣討伐をしなければならないことになっている。ちなみに、ノブレスオブリージュの一つとされているから、この記録がゼロだと卒業すらできない。そして、仕官先となる貴族家の数は限られているし、どっちかと言うと武官系が優先される。帝国とドンパチしなきゃいけないし、魔獣も出るしね。つまり、文官系の仕官の競争率は非常に高い。ペーパーテストの点数は満点以上は出ないから、結局、最後の最後に仕官の成否を決定づけるのは討伐評価だと言われるくらい重要だったりする。


 ところが、魔獣の討伐を文官系の学生がソロあるいは文官系だけのグループでなすのは難しいどころか普通に死ぬ。なぜなら、つまるところ文官になる騎士は身体強化術や攻性魔術をはじめとした魔力的な素質がない者が多いからだ。そうすると、特に武官系の協力が必須になる。技官系は詠唱の時間中は逆に守ってもらう立場なのでこの場合は役に立たないからね。


 ただでさえ、腕っぷしで勝てるうえに、そのことも分かっているから、武官系の学生は文官系の学生をパシったり等々軽ーいイジメをすることがあった。ただ、あんまりエゲツないイジメはない。仕官した後に報復される恐れがあるからだ。騎士団の補給関係の職には多くの文官系が就くし、騎士団の予算決定に大きな影響力を持つ財務系の文官になることもあるし、領内統治に手腕を発揮し領主の側近に取り立てられる文官も多い。ホントかウソかはわからないが、どっかの騎士団で、昔イジメられていた文官が会計監査の職に就いたとき、横領の罪を捏造してイジメてた奴を刑場に送ったとかなんとかって話もある。


 ただ、たまーに度を越したイジメをするバカもいる。思慮や想像力にかけるカスとか報復を恐れる必要がない大貴族の直系のアホとか……、うん、ジョナサンとか前のオレもやってた。パシるのは日常茶飯事、オレの専属荷物持ちとか言って木剣とか防具やら着替えの入ったカバン持たせてオレの後ろを付いて歩かせたり……、顔がムカつくとか言って蹴りを入れたことも有る様な無い様な……、他にもさまざまな……ってもういい、恥ずかしくて死ねるわ。とにかく、ちょっとした罪滅ぼしとあわよくばムシャクシャした気持ちが少しは解消できるかも、特に後者を期待してオレはジョナサンたちに声をかけた。


「おい、お前ら何してんだ?」


「……デレク、お前には関係ないだろ」


 オレの胸のあたりを見ながらジョナサンが言った。ちょっと声が震えている。ああ、あの時は昔を思い出しちゃって、ムカついてちょっとやり過ぎたんだよな。でも、今日のオレもムシャクシャしてるんすよねー。しかも、どうせもうコイツの家はウチの味方にはならんだろう。オレはゆっくりジョナサンの方に歩いて行った。


「誰を呼び捨てにしてんの?デレク様だろ」


 ジョナサンはオレの胸を見たまま答えない。


「んー?なんだ?また泣かされたいみたいだな」


 オレがそう言うと、ジョナサンは顔中にビッチョリと汗をかいて、「ハッハッハッ」と興奮した犬みたいな呼吸をし始めた。そのせいでオレは逆にビビった。


 大丈夫か、コイツ?


 前も思ったけどちょっとオレにビビり過ぎじゃねぇか。なんでだ?いや、まあ、確かにちょっと前回はやり過ぎたかもしれん。でも、その辺のチンピラでも目は合わせられないにしても、もうちょっと虚勢を張るくらいはすると思うんだけど。……あれっ?オレの基準がおかしくなってんのかな?……妖剣とかエリックのせいだな。アイツら無駄に暴力的だからな。


 ……それに、コイツって暴力耐性があんま無いような?


 いや、でも、剣の稽古で撃たれたりしてるはずだよな。うーん……、ああ、そういや、コイツは素の身体能力はもとより身体強化術も上手かったな。こういうタイプは小さい時からそこそこ強いから同年代の奴には負けないか。しかも、大貴族の嫡子だ。大人も少し遠慮したのかも。それに、やっぱり防具の上から撃たれるのと顔面をモロに殴られるのは大分違うような気もしてきた……。なんかジョナサンの呼吸がさらに早くなってきた。おい、過呼吸とか起こして死ぬなよ。


 てゆうか、困ったな……。


 終わらせ方がわからなくなっちゃった。ヤバい。予定では、ジョナサンがなんか言い返してきたところを、つまんねぇイジメしてんじゃねぇって、とりあえず一、二発ブン殴って立ち去る感じでいたのに……。どうしよう?このままじゃ、普通にオレが弱い者いじめしてるだけじゃねーか。クソダサい。内心で焦っていると、「勘弁して下さい」とジョナサンが蚊の鳴くような声で言った。おお、ナイス、助かった。そんな思いを隠して、オレは「チッ」とデカい舌打ちをして、「しょーもな」と聞こえよがしに言った。


 ……でも、なんだろうこの感じ?


 いまいちスッキリしない。オレのこの荒んだ気持ちが……。あっ、閃いた。古今東西の兵法に必ずある、「敵には己がされて嫌なことをせよ」だ。コイツらのお楽しみを一つ没収してやろう。ケケケ。


 オレは辛うじて名前を憶えていた文官系の学生のリーダー格の奴に言った。


「おい、ミッチェル、コイツらに何か舐めた真似をされたら、オレに言え」


 ほとんど接点のないオレに、突然、そんなことを言われたからだろう、ミッチェルがえらく戸惑っている。


「心配すんな。そんときは二度と学園に来る気も起きないくらいの地獄をコイツらに見せてやるから」


 クックック、これでジョナサンたちはもう文官系の学生で遊べなくなっただろう。ザマぁみさらせ。ちょっとすっきりした。


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