3-7
オレは逃げるように足早に校門に向かいながら思った。
……やっちまった。
はぁ、ため息が止まらない。自己嫌悪だ。
王国滅亡阻止のため、皆で仲良くって方向で行くんじゃなかったのかよ?あれじゃ間違いなく恨まれるわ。はぁ、アイツん家結構デカいのに……。
しかも今回の人生ではまだ起こってもいない出来事の仕返しって、最低だな。てゆうか、朝から虫の居所が悪かったってだけで、ただの憂さ晴らしの弱い者いじめじゃねーか。オレって小さいよね。人としての器が極小なのよ。はぁ、ホントにオレってカスのままだな。ちょっと強くなったからって、アレだよ。前よりクソさ加減が増してるかもしれん。
……いや、中の人としてあのクソ妖剣の所業を見続けて人格に悪影響が出たに違いない。そうだ、そうに違いない。あっ、エリックの影響もあるな。アイツ、クソ下品だからな。本当のオレはもう少しマシな人間だったはずだ。そうだ、そうだと思いたい。はぁ。
「あ、あの……、お、王家のサロンには……」
校門が見えてきたところで、それまで黙っていたマリアが困惑したように聞いてきた。
「えっ?……ああ、きょ、今日は験が悪いから、明日にする」
「験って何の験だよ」と自分にツッコミながら、このまま家に帰るのはナイなと思った。兄上に会ったら、「王女に挨拶に行ったか?」どうか絶対聞かれる。言い訳が全く思い浮かんでいない以上、どっか寄ってから帰るしかない。
オレたちが校門を出ると、横から声をかけられた。
「もう、遅い。何してたの?」
リナだった。……おお、神よ、信じる者は救われる。
「よう、リナ。ちょっと……人と話してて」
そして、オレが「えっ、待っててくれたの?」と聞くと、「そうだよ。テッドがデレクを見たって言ってたから、ここにいれば会えるかなって」とリナが言った。テッドとはスー家の奴だ。
オレのテンションは爆上がりだ。
「そうか。悪いことしたな」
「フフフ。だって、ホントに伯爵家の御子息様か確かめとかないといけないからね」
「なんだよ、それ?」
「貴族を騙る詐欺師の可能性があるし」
「そんな可能性ねーわ。高貴さがダダ漏れで貴族ってまるわかりだろ」
いよっふー。今日はいい日だ。そんなオレにさらなる天啓が降り注いだ。
「今から王都散策にでも行こうかと思ってたんだけど、付き合わねぇ。待たせた詫びじゃないけど、何か奢ってやるよ」
今のオレは小金持ちだ。ロウ家から貰った金が丸まる残っている。いや、天才だろ、オレ。完璧すぎるセリフだ。頼む、「うん」と言え。
「ホント?じゃ、おいしいもの奢って貰う」
「よし、決まりだ」
ヤベーよ、顔がニヤけ過ぎだ。でも、これはしょうがない。……ほら、一緒に死地を潜り抜けた戦友との久しぶりの再会だからな。……ただ、もうちょっと顔は引き締めようか。
すると、リナがチラッとオレの横にいるマリアを見た。あっ、忘れてた。
「この娘はオレの従者で、マリア・エルサロっていうんだ」
オレがそう紹介すると、「リナ・ロウです」とリナも自己紹介した。
「ちょっと、待ってて」とリナに断りを入れ、オレはマリアを少し離れたところに連れていく。
「そういうことになったから、帰っていいよ」
「えっ?……。いや、でも、従者として……」
「いやいや、従者の仕事は学園内だけだから」
そんなテキトーなことを言うと、「でも」とかマリアはまだ渋った。まったく、空気を読みなさい。「大丈夫、大丈夫」とか言って何とか説得した。もちろん、「今日のことはオレが直接報告するから何も言わなくていい」とも言い含めておいた。完璧だ。
というわけで、リナと二人で王都散策だ。最高過ぎる。まずはどっか小洒落たカフェに、と前回の記憶を必死に絞り出しながら歩いていると、「デレクに従者ぁ?」とか「あの子、強いの?」とか「幼馴染なの?」とかマリアのことをリナが聞いてきた。オレは「ウチはちょっと過保護でね」とか「結構強いよ」とか「いや、違うんだ」とか返しつつ、なんとか一軒のカフェを思い出した。確か評判は良かったはずだ。
その店に行ってみると、結構空いていて、すぐに席に案内された。それから、お茶を飲みながら、オレたちは色んな話をした。やっぱり、メインは学園の話だ。オレは前回の記憶から様々な有益な情報を披露し、「詳しいんだね」と感心された。すると、その流れで、リナが聞いてきた。
「そういえば、デレクは第三王女と班を組むの?」
班とは課外授業なんかのときのチームのことだ。学園では結構重要なものだったりする。
「ああ……、うーん、どうなんだろ?」
前の人生では最初の内はジュライフィールドの名をチラつかせ強引に同じ班に入ったけど、しばらくして外された。実力がないのがバレたんだろう。そして、今回はそもそもオレにその気がない。どうなるのか?オレにもわからない。オレのはっきりしない言葉にリナは訝しげな表情だ。
「ほら、別に王党派だからって王女と組まないといけないわけじゃないし。王女の取り巻きはウジャウジャいるし」
「ふーん、じゃあ私達と組まない?」
おお、その発想はなかった。……嘘です、ちょっとあった。でも、どうせ海賊派で組むだろうし。それにコッチから誘うより、向こうから誘われた方が……、ねぇ。
チラチラと父上や兄上の顔が思い浮かぶが……、会うたびに殴りたくなるような奴らと組むなんて、ストレスで胃に穴が開くと思われる。そんなオレのしばしの黙考をどう捉えたのか、リナが上目遣いに、「ダメ?」と聞いてきた。
あのクソ王女もお願いがあるときだけは上目遣いで袖なんか掴んできやがったけど、アレとは全く違う。何が違うかは言えないが……。ともあれ、これは断れない。男として、いや、命を預け合った戦友として断じて断れない。
「全然いいよ。むしろオレからお願いしたいくらいだよ」




