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55話 あたしかもよ?




「あたしかもよ。学校と住居地特定しようとした犯人」


登校中、梨々子が突然こう言い出したときは、一瞬びくりとした。


週明け、月曜日だ。

だが今日さえ行けば、明日はゴールデンウィーク初日である。うちの高校はまとまった休みが設けられていた。


しかし、晴れやかに迎えられるはずだったこの日。

俺はかなりヒヤヒヤとしていた。


理由はもちろん、生配信中に起きたあの事件である。


「それはありえないな。あれはどう考えても、他の視聴者さんだろうよ」

「あたし、悪女だけど? あえて身バレさせて、細川さんと引き離す算段だったらどうする? 勝手にキスする不埒ものに制裁加えたのかも」


「自分で悪だって名乗るやつは、そこまで悪いやつじゃないって、戦隊モノで相場は決まってるんだ。それに本当に人が困ることはしないだろ、りりは」

「ひなくん、買い被りすぎ」



事件の翌日、日曜日。

俺は、ほぼ丸一日、情報収集のためネットを漁り続けた。


それを見たところ、ネット上に学校名の候補などは上がってはいたが、特定まではされていなさそうだった。


アーカイブを上げなかったから、詳細を知るのは配信をリアルタイム視聴していたコア層だけである。



しかし一方で、クラスメイトたちが気づいたことだけはたしかだった。


美夜の元に、複数名からメッセージが届いたらしい。

影の薄すぎる俺だが、さすがに今回ばかりはそうはいかない。

『ひなた』という名前から、相方が俺であることも、ばっちりバレてしまっていた。



それが外に漏れていないのは、ひとえに美夜の人徳だ。

彼女が鶴の一声でみんなを説得して、言いふらさないようお願いしてくれたそう。


「…………なぁ、りり。いつもに増して、坂がきついんだけど、気のせい?」

「うん、きっと気のせい」


「気のせいだけで、こんなに足って重くなるのな。人間って不思議だ……ー

「あたしの気も重くなるから、やめて。ちゃんと前見て歩いて。あたしだって本当は落ち込みたいんだから」


意味が分からず、切り返す。


「なんで、りりが?」

「…………あのお邪魔虫、キスは反則」

「おいおい。その件なら、もうコメント欄で十分戦ってたろ。あれは、りりが煽るから細川さんも血迷ったんだよ」



幼馴染同士、二人。

思い思いの鬱屈した心を抱え、気は乗らない。


ついつい、ボサついた頭をかきむしる。


だが足は前へ進めているのだから、どうしても学校へはたどり着く。


クラスメイトに歓迎されるわけがないことは分かりきっていた。

だから、始業のチャイムが鳴る、本当ぎりぎりに登校していたのだけど…………



その魂胆は美夜も同じだったらしい。


俺が教室へ入るのに躊躇していたところ、美夜が後ろから息を切らして駆けてくる。


「…………おはよ、山名」

「あぁ。おはよう、細川さん」


昨日は会わなかったから、配信を行った土曜日以来の会話だった。

最近の行きすぎたくらいの関係を思うと、なんとも物足りない。だが、だからってなにも浮かんでこない。


「先入るから、後から来いよ。そしたら少しはマシだろ」

「あ、う、うん……」


まるで昔に戻ったみたいだ。

恋人の練習だとか言い出す前、本当にビジネスライクな関係だったあの頃みたい。


なんて思っていたら、校内放送のアナウンスが流れてくる。


『2年5組、山名、細川両名。すぐに職員室へ来るように』


迷い人のお知らせの時と、同じようなメロディだった。


…………しばらく、この音がトラウマになりそうだ。





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