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35話 委員長の推しはまさかの?



「ちなみに、その推しって誰なんだ?」


予定通りに入った喫茶にて、俺がこう尋ねたのは当然の流れだった。


普段ほぼ関わりがないとはいえ、今日は一日、同じ班で回るのだ。

いくら日陰者の俺とて、最低限度の交流はしておきかった。


気を遣いあったお通夜ムードでは、せっかくの校外学習が体力と気力を削るだけの地獄になってしまう。


それに、このカフェだってその推しとやらが訪れたという理由で入店した。委員長がここまで入れ込む推し。

まったく気にならないかといえば、嘘になる。


「あ、私も気になる。細かいことはよく知らないんだよね」


その意図を察してくれたのか、美夜も俺の質問に乗ってくれた。

抹茶ソフトで緑になった上唇を軽く舐めて、向かいの大内さんの方へ前のめりになる。


あの委員長が、ここまで熱くなれる相手だ。

超スーパーアイドルかなにかかと思えば、それは思ったより身近な存在だった。


「よく聞いてくれました! 私の推しは、『ゆりゆりチャンネル』なんだ。女の子同士のカップルチャンネルをやってるんですけど、知ってます?」


『ゆりゆり』チャンネルは、動画の参考に何度か見たことがある。というか、宣伝用のSNSでは、相互フォローでつながっていたりもする。


俺たちより数か月ほど前に投稿を開始した同世代で、登録者は約5万人、女子高生同士のカップルチャンネルだ。


女性同士という珍しさに加え、二人ならではのふわふわと現実離れした雰囲気の動画で安定した支持を得ている。


「えっと、なにやっぱり女性趣味……?」

「違いますよ。失敬な! 全方位に失礼です。うちは、全部いけるんです。とにかく仲睦まじそうにしてるカップルが全般好きなんです。いいえ、もっと言うなら愛とか恋の全てが!」


抹茶パフェのアイス部分に強くフォークを差し込むと、大内さんは両の手を結びうっとり天井を見上げる。


「す、全て……?」

「そうです、やっぱり愛とか恋って神聖じゃないですかぁ。憧れるんですよ、なんというか、一人一人にとっての、いわばひとつなぎの大秘宝って感じ!

 あ、そうだ。他にもハマってるチャンネルがあるんです! 見てください!」



世間話程度はしてておこう、と軽い気持ちで切り出したのがそもそも失敗だったのかもしれない。


趣味に関する話で饒舌になった大内さんは、止まらない。

四月下旬でもすでにからっと暑い京都の空気で、アイスがどろっと溶け始めるのも、気に留めてはいないようだった。


運動部らしいパワフルさも相まって、ついていくのが大変だ。


彼女はスマホを俺たちの方へ向け、なおも恍惚とした表情で語る。


「そうだ、最近一番ハマってるのはですね、『日夜カップルチャンネル』! このチャンネルは絶対、次に来ますよ! 美男美女で、しかも最近はより愛が深まった感じで超尊いんです。あと企画も結構凝ってて――」


こんなことがあるだろうか、普通。だんだんと、彼女の話が耳半分になっていく。

顔を横に向けると、美夜と目があった。


大内さんに不審に思われない程度の小さな笑いを共有するとともに、心が浮いた感触がする。


一応、3万人の方にチャンネル登録をしてもらっているとはいえ、国全体で見ればそれはごく一部の話だ。

まさかクラスメイトに視聴者さんがいるなんて、ほとんど奇跡的な確率と言えよう。


嬉しい思いはもちろんあったのだが、同時に不安にもなる。


これ、もしかしなくても身バレしてるんじゃ……………


額に汗を浮かべる俺に、大内さんはなおも興奮気味に熱弁を振るう。


「いやぁあんな格好いい人と可愛い人のカップル、どこにいるんでしょうね。光の国とかですかねぇ? 見てるだけで幸せになれますよ。最近はより親密な感じが出てきて、コメントもしまくりですもん。これとか!」


彼女がこちらへ向けたスマホを見ればそこには……


『ひなたくん、みやちゃんのスカートの中が見えないように、カバーしてあげてる。ほんと素敵なカップルだなぁ、この二人』

『今日の2人、甘すぎです。おかげで今日は3回見ちゃいました』


など、など。

どれもこれも見た覚えのあるコメントばかりであった。



まじでファンじゃん、この人……! 


だがしかし、だ。どうやら気づいてはいないらしかった。


考えてもみれば、化粧に髪型に服装、喋り方まで――。

俺たちは結構、バレないための工夫している。それが、うまくいってるみたいだった。


ほっと胸を撫で下ろしかけるが、


「そういえば……お二人の名前、推しと同じなんですよ! みやちゃんと、ひなたくん! しかも同い年……むむ、これって」


いや、撤回しよう。

名前のみならず年齢まできっちりと把握しているなんて、ガチだこの人……!





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