24話 ネタ会議!(表)
話し合いで、双方が納得したうえで決着させる――。
俺が思い描いていたのは、そんな平和的な解決だったのだけど、結果としてそうはならなかった。
「いい? ルールは単純ね。このネタ出し会議で、通過させたネタが多かった方が勝ち! そっちの意見が適用されるの」
「じゃあ俺が勝ったら、学校での恋人のフリは一時中止。細川さんが勝ったら、その逆、このまま継続ってことだよな」
「そーゆうこと! 馬鹿な私が考えた、単純なルールだよ。でも、綺麗に決着つきそうでしょ? 勝っても負けても恨みっこなしね。もちろん、ちゃんとネタの出来だけで公平に判断すること! あくまで動画が優先!」
場所をふたたび、彼女の部屋へと移して、俺たちはテーブルを挟んで向き合う。
動画の中では、いや最近では学校ですら、引っ付いている俺たちだが、こればかりは話が違う。
ばちばち火花を散らしあって、さながら真っ向勝負の様相だ。
明日からの学校生活が懸かっているから、というのはその主な理由ではない。
動画投稿者として撮影するネタの提案会議は、いわば決戦なのだ。
再生数や登録者が伸びるネタを必死で考えて、相手を納得させることで、やっと自分の希望を通すことができる。
ネタを考案するために使う時間は、場合によっては撮影や編集の時間をも凌駕するほど、莫大な時間だ。
それらを泡沫にせず、苦労を形にするには、ここで勝つしかない。
「じゃあ、今からネタ会議をはじめます! 先行は、私でいい?」
「おう、どんとこい」
「じゃあ、いくよ。一つ目は、これ! 『引きこもりがちな彼女をキャンプに連れ出してみた』。中身はタイトル通りだよ。最近流行ってるキャンプに二人で出かけるの。焼肉とか、変な食材を燻製するとか、動画配信者らしい投稿をやって、最後はキャンプファイアからの花火!」
美夜は、床を這うようにして、制かばんまで目いっぱい手を伸ばすと、少し息を詰まらせながらも膝上まで手繰り寄せる。
そして取り出したのは、教科書たちより一回り大きいスケッチブックだ。
「参考としては、こんな感じね!」
そうして見せてくれたのは、手書きのイラストだ。なにをしたいのか明白に分かるし、気合が入っていることも伝わってくる。
まあ、少しは話を進めてもいいかもしれない。と、俺が口を開きかけたとき、ふと最後のイラストが目に入った。
美夜は「やば」と言うと、すぐにページを一つ前のキャンプファイアへと戻すが、時すでに遅し、だ。
「なんで、ベッドの上……? なんで二人で同じ布団被ってるの」
「あは、見えたぁ? 気のせいだよ、きっと」
「……じゃあ、奪い取って見てもいいのか?」
「それは、あれじゃん、倫理的にダメでしょ。というから、ほら、こうしたら取れないでしょ。取れるものなら、取ってもいけど?」
彼女は、ズボンの役割を果たしているのかどうか怪しいくらい頼りない丈をしたショートパンツ姿だった。
靴下も、もう脱いでいた。指先まで無防備に曝け出した、危ないくらいに白い太ももの間に、横倒しにしたスケッチブックを挟む。
「取りたかったら、取ってもいいよ。その代わり、責任も取ってもらうけどね」
「なんの責任だよ……! というか、もういいから。その代わり、却下だよ、普通に」
「えぇ、なんでなんで!? 悪くないでしょ!? じゃあサプライズ要素を加えるのは? いつ、どのタイミングで連れていかれるか分からないの。それで突然のお泊り!」
「泊まるってのがなかったら、考えてもいいけど……」
「えー、そこは譲れないよー。お泊りしようよ。さっきの絵は、ただのイメージ図だよ。
朝のベッドから撮影を開始したら、みんな勝手に夜に何かあったって勘違いしてくれるんじゃないかな。あは、カップルチャンネルっぽいでしょ? はい、頷いて!」
彼女は俺の頭に手を伸ばす。
頭の前の部分に力をかけて頷かせんとしてくるが、大した力はないので、俺は頑として首を縦には振らず、ぐぐぐと押し返す。
その後、そもそも道具を用意するのにかかる費用のことや、高校生だけでは泊まれないこと、いくらなんでも付き合ってもない男女が二人で宿泊はまずいだろうとのことで、その案は結局棄却となった。
「むー、残念……! でも、まだまだ用意してるからね。仕方ないから、とりあえず一旦、山名のターン!」
「あぁ。じゃあ俺の方は『くじ引きで選んだテーマで、お互いのコーデを選んでみた』っていうの考えてみたんだけど。ただし、使える服は相手の家にあるものだけってことで、どう? ちょっとは、面白さとオリジナリティも出るだろ」
「……うー、コーデ選ぶだけなら安易かなって思ったけど、そうなるとちょっといいかも。なんか変な組み合わせにしたら笑いも生まれそうだしね。お金もかからない」
「そう。まだまだ駆け出しなんだし、そこまで費用はかけられないよな」
初手としては、会心の一撃と言えるのではなかろうか。
自分で出した案に自分で納得して、俺は思わず声が上ずる。
細川さんはどうにか反対意見を出そうとしているのか、頭をひねっていたが、最後には白旗を上げた。
無事に、まずは一つネタが通過する。
だからと言って、収益だとかどうのはきっちり二人で分けているから、直接的な利益にはならないが、やはり嬉しいものは嬉しい。
「やるなぁ。さすが、山名。授業中もずっと考えてるだけのことはあるよね」
「……テストで一桁の点数たたき出してる人がなにを言ってるんだよ」
「それは、ほら、女の子はいろいろ考えることがあるんだよ、他にも! 男子が踏み込めないようなことも、ね。とりあえず、次行くよ、次!」




