20話 超甘やかし弁当(リベンジ)
迎えた昼休み、俺は一人、体育館裏へと足を運んだ。
今日が弁当を作ってきてもらう日であることは、事前に聞かされていた。
正直、手紙をしたためてくるほどの熱意には大層驚かされたが、だからこそ彼女の思いを無駄にすることも俺にはできなかった。
より親密に振る舞えるようになって、動画の再生数、登録者をもっと伸ばしたいのは、俺も同じ気持ちだったからだ。
しかし、到着してみると彼女の姿はない。
どうやら俺が先についたらしかった。
小さな段差のあるところに座り込み、ぼうっと職員用の駐車場を眺める。
なんて野暮ったくて、つまらない景色だと思っていたら、
「やっ、早いね? ごめん、待たせたかな?」
揺れる濃紺色の髪が視界にカットインしてきて、一気に空気が華やいだ。
こんなどうしようもなく地味な光景さえも変えてしまえる稀有な美少女は、細川美夜。
クラスメイトにして、俺のビジネスパートナーでもある少女だ。
「私のお弁当、楽しみにしてくれてたって考えていいかな? だとしたら、ふふ。素直に嬉しいな。昨日の夜、夜更かししてお手紙書いた甲斐もあったかも」
「……そりゃあ、弁当作ってもらえるのが嬉しくないわけないよ」
「む、それ、日野さんにも言ってそう~。減点だよ、減点。私のお弁当だからって理由で喜んでくれないと減点!」
「悪かったな。というか前から思ってたけど、そもそも何の点数だよ、それ。減点されたらどうなるの」
「……んー、食べられるおかずが減ります! っていうのは?」
「今日集まった意味がなくなっちゃうな、それ。俺、減点稼ぎまくっちゃうから」
「おかずがなくなるまで減点されるつもり!?」
彼女は不満そうに口をとがらせつつも、スカートが舞わないよう膝裏から抑え込んで、俺の隣に座る。
よほど、気がはやっているらしかった。少し荒い息で、いそいそと鞄をあさりだす。
「はい、どーぞ! 真心をこめて詰めたんだよ?」
そして弁当箱を俺の膝上に置いてくれた。
ぶち模様、ピンク色の風呂敷で可愛く結ばれたそれは、サイズとしてはちょうど俺の手のひらに収まるくらいのサイズ。
ただし二段になっていて、ボリュームはそこそこありそうだった。
「……ありがとう」
俺はお礼を述べてから、まず風呂敷をほどきにかかる。
が、その手がついつい止まってしまったのは、無視できないような視線を感じたがゆえだ。
はじめはチラッと横目に、だがやがて、じーっと熱烈に。
「ふふん、私は今日も菓子パン! やっぱお昼は甘いものじゃなくちゃね」
言葉では、まったく気にしていないかのように振る舞っているが……。
菓子パンの袋をまともに開けられず、くしゃくしゃにしてしまうくらい、こちらに気が散っていた。
彼女は俺の反応がよほど気になるらしい。
やりにくいこと、このうえなし!
彼女に釣られて、こちらまでぎこちなくなってしまうが、俺はどうにか袋をほどき終え、弁当の蓋を開ける。
そこに待ち構えていたのは、肉だ。肉、肉、肉だ。
「肉、肉、肉だ……」
しょうがやきに、照り焼きチキン、さらには牛肉のしぐれ煮、さらにメンチカツ、それからチーズ乗せハンバーグまで。
全員が日によってはメインを張れるような超強力ラインナップが、ずらり勢ぞろいしている。
全員、四番バッターだ。
「あは、そうなの、お肉なの。とにかくお肉なの。でもでも、ケチャップソースのトマトは野菜だよー?」
「なけなしすぎるだろうよ、さすがに」
「まあ仕方ないよ。コンセプトはずばり『the・肉』だし! 多めにしてみたんだ。この間、お肉がもっとある弁当の方がいい、って言ってたからね」
そんな呟き一つを覚えてくれていたとは、正直思いがけなかった。
彼女は得意げな様子でもなかったから、本当にただ覚えてくれていたらしい。反映のさせ方が超極端なのを置いておくとすれば、うん、ありがたいことだ。
俺は、菓子パンをちぎってはリスのように少しずつ頬張る彼女の横顔を、つい見つめてしまう。
「なーに、肉いっぱいで呆れちゃった?」
「……いいや、ありがとうな。夢みたいな弁当だな、子供にとっての」
「最後の一言、余計だよ」
「そうでもないぞ。俺、まだまだ子供だから。好きな食べ物は肉、嫌いな食べ物はピーマンとキノコだ」
冗談で応じつつも、まずはハンバーグから口の中へと運ぶ。
少し焦げの苦みがしたけれど、そんな些細なことはどうでもいい。もちろん、文句を言うつもりも皆無だ。
「……これ、おかず全部手作りか?」
「お! よく分かったね。小さなサイズの奴も一応、手作り。メンチカツもちゃんと油使って揚げたの。どうよ、これくらいできるんだよ、私でもやれば」
そう言われて改めて見直してみると、どれもこれも手間がかかるものばかりだ。
普段、料理をしていないだろう彼女が作ったことを考えれば、かなり時間がかかったはずだ。下準備を含めれば、一時間では到底足りない。
三時間、いやもっと……
「すげーよ、本当。それに美味い!」
心の底から、そう思った。
いくら動画をよりよくするためとはいえ、撮影や編集以外で、ここまで労力をかけてくれるなんて尊敬しかない。
しかもさっき、手紙を書くために夜を徹したと言ったから、なおさらだ。
美夜は俺の言葉を受けて、拳を握ると、ぐーっと伸びをする。
「う~、やった! うー、頑張った甲斐あり、とはこのことだっ!」
それから、実に嬉しそうに声をあげた。
人気がなく、しんとした空気の中に、彼女の声が響く。端までいって、戻ってきて、二重に聞こえた。
嬉しそうなその声音には、こちらまで満足させる力があるらしい。
が、
「あ、待って。褒め言葉聞いたら脱力してきたかも」
彼女は途端にはんぺんみたく、へなへな崩れ、俺の肩へともたれかかってくる。
動画の中ではいつものじゃれつきだが、いくら恋人の練習をするためとはいえ、外ではまだ慣れない。
「おい、こんなところでやめろよ。学校だし、外だし」
「あは、大丈夫だよ。こんなところだから、お昼休みは誰もこないって――」
彼女はまったく悪い冗談だとばかり取り合わないが、その嫌なフラグは、すぐに回収されることとなる。
彼女がそう言ったすぐあと、近くから足音と話し声が聞えだしたのだ。
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の、残ってた〜!!!!
引き続きよろしくお願いします。
美夜さんに甘やかされろー!!!!
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