31 楽しい学校生活
そんな昔の夢を見て、私は目が覚めた。
薄暗い部屋の中、窓のカーテンからは陽の光が漏れ、小鳥の囀りが聞こえてくる。ぼんやりとしたまま上半身を起こし、なんとなく天井を見上げた。
「なんだろうあの夢……」
夢の内容を思い出し、私はボソッと呟いた。
本当に些細でどうでも良さそうな日常だった。なぜ今さらそれを思い出したのかわからない。人の夢というのは不思議なものだ。
私は覚醒してきた頭でそんなことを考えながら、大きく伸びをした。昨日の疲れがまだ残っているようだった。あちこち身体が痛い。だが二度寝するわけにもいかないいので、私は欠伸をしながらベッドを降り、寝巻きのままカーテンを開けた。
眩しさに目を細めながらも、窓を開けて外の空気に当たる。
「ふふ、今日も良い天気だわ」
顔を上げ、雲一つない青空を眺める。
どうやら昼過ぎまで寝ていたようだ。空高く登った太陽を見上げ、私は窓枠に肘を付いた。
ああ、本当に良い天気。晴れた日は気分が明るくなるから好きだ。何か良いことがあったら良いな。
私が決して階下を見ず、昼下がりの爽やかな空気に癒されていると、後ろから扉が開く音がした。
「おい、小娘、起きたのか。あいつらがうるさいから起きたならさっさと……何をしているんだ貴様は」
尊大な口調で声をかけてきたのは、ナブラだった。侍女服ではなく、ドレス型の制服を着ている彼女は、呆れた顔を私に向けていた。
「あら、ナブラ。おはよう。見ての通り、外の空気に癒されてるの。今日も良い天気ね」
私が挨拶をすると、ナブラはひくりと頬を引き攣らせた。
「現実逃避をしている場合か。下を見ろ、下を」
彼女は大股で私に近づき、窓の外を指差す。
「あれ、どうするつもりだ」
「………」
私はしばらく素知らぬふりをしていたが、ナブラに再度促され、観念して恐る恐る下を見た。
視線の先には——
「あっ! 姉御! お目覚めですか!? すみません、もう少し待っててください。今この気取ったドラゴンをしばいてしまいますので!」
「ギャ、ギャア! ギャア!」
「あぁ!? 誰が田舎育ちの犬っころだと!? 人語も喋れねえエセエリートドラゴン様が随分とイキるじゃねえか!」
「ガァアアアアアア!!」
「グルルルルル——!!」
白銀のドラゴンと、巨大な灰色の狼——フェンリルが、女子寮の中庭でいがみあっていた。
二匹の殺気に当てられたのか、木々から鳥が飛び立つ。周りには人どころか、虫一匹すら寄り付かない。
片や聖龍と崇められているクウロに、片や神殺しと恐れられているフェンリル。一生に一度お目にかかれるかどうかの伝説の二匹が、今にも殺し合いそうな雰囲気を醸し出している。その状況に、私は思わず遠い目になった。
「二匹ともすごく元気ね。是非とも仲良くなって欲しいわ」
「ふざけたこと言っている場合か。あの連中を早くどうにかしろ。貴様の子分だろう」
「違うわ。断じて、違うわ」
「貴様がいくら否定しても、あの駄犬がそう認識しているんだ。諦めてもう一匹飼ったらどうだ、ご主人様?」
ナブラはケラケラと意地悪く笑う。彼女に反論する気が起きず、私は頭を抱えた。
「なんで……なんで、どうして、こんな事に」
嘆いても隣の彼女は答えてくれない。私はちょっと泣きそうになりながら、こんな状況になった原因を思い出す。
始まりは、二ヶ月前。
今年で十六歳を迎える私達が、王立リーエンスト学校に入学した時のことだった。