わちゃわちゃする私 11
タダを待っている間ソワソワする。
委員会に行く前のハタナカさんが私に寄って来て、「私のクッキー、絶対に!帰りに二人で食べてよ」と耳打ちして来た。
「それとも、」と悪い顔をしたハタナカさん。「どっちかの部屋とかに行く気かしらぁ?ちょっと想像してみようかな。二人で部屋で何するのか?私のクッキーなんてほんとどうでもよくなるよね。哀しいわ私頑張って作ったのに信じらんない。帰るよ?委員会終わったら私は素直に帰るけどさ!」
一人残った教室がとても静かだ。ハタナカさんから預かったクッキーを出してみる。
パッケージも自分で考えて考えたんだろうな。中は茶色の光沢のある紙袋包んだのを、さらに白と水色の水玉模様のビニルパックでくるんで赤いリボンがおしゃれに巻いてある。
今日タダは他の子からの贈り物を、私の見た限りは全部断っていた。
嬉しかった。
私のマフラーはあんなに欲しがってくれたのにって思ってすごく嬉しかった。
誰かがタダにプレゼントをあげるのは仕方ないって思ってたのに。そしてタダが喜んでもらったりしたら嫌だって思ってたけど、誰からももらわないでいてくれたのがすごく嬉しかった。
「大島!」と教室の入り口で声がした。タダが委員会から戻って来たのだ。
「悪い。待たせて。…けど、なんかすげえうれしいな、ちゃんと待っててくれんの。ぶっちゃけちょっと帰ってるかもって思ったし」
ひど…そんな感じに思われてんのか私。
「待っててってわざわざ言ってくれてんのに、そんな事はしないよ」
そう言うと、ふっ、と笑ってタダが言った。「うん。嬉しい」
そんなに素直に言われると参る。赤くなる。どうしよう、またわちゃわちゃしてくる。
一緒に教室を出ながらタダが言う。「でも一緒に回るの嫌がってたじゃん」
「それはだから、…タダとそんな事したら目立つから」と答えるが、もう今日は十分目立ったよね。
明日、ヒロちゃんたちが来る時の事とか今日のいろいろな事とか、たわいもなく話しながら帰るのだけど、たわいもない事をつらつらしゃべっていないと、ソワソワして来てしょうがなくなるから結構頑張ってたわいもない事をしゃべり続ける私だ。こんなに普段立て続けにしゃべらないのに私。そしてタダもだ。いつもはこんなにしゃべらないのに。
昨日一緒に帰った時よりソワソワするんだけど変だよね。
そう思っていると私の家の方へタダも一緒に歩く。
あれ?家までマフラー取りに来てくれるって事?もしかして今日放課後用事あった?何の用事あるんだろ…
気になるな…気になる気になる…
「もしかして今日用事あった?」とつい聞いてしまった。
「…」キョトン、とするタダ。「何の話?」
「いや、…うちの方に一緒に来てくれてるからマフラー持って帰ってくれるって事だよね?私、タダの家に届ける、とか言ってたけど何か用事あったのかなって。だったら早く帰んないと…」
そこまで言いかけたらタダにいきなりほっぺたをつままれた。
「ひゃに?」
つままれたまま『なに?』って聞いたら、それをちょっと笑うタダだ。
「用事はないけどこのまま一緒に大島の家まで行ってもらって帰る」私の頬から手を放してタダが言った。
「…そうなの?」
「そう」
なんでかな。家に帰ってから私が訪ねたらめんどくさいとか?
いや…喜んでくれたよね?あげるって言ったら。もしかして誕生日だからヒロちゃんたちが遊びに来るとか?
それで忘れてはいけないハタナカさんから頼まれたクッキーを出す。私が預かったいきさつを話すとタダが聞いた。
「そういうの、嫌とは思わないん?オレが他のやつからもらったら嫌じゃねえの?オレは嫌だけど。大島が他のやつからもらったりしたら」
「うん。でもハタナカさんは二人で食べてって言ったし。今日ずっとハタナカさんと一緒だったんだよ。すごい絡まれたけど最後は嫌な感じには思えなくなってきたし」
「へ~~~」と言ったタダが包みを開けて、クッキーを一つ取り出し口に入れる。そして私にも袋を差し出した。
おいしい。ココアが入ってるのに甘過ぎなくていい感じだ。なんでも出来るんだねハタナカさん。羨ましい。
私の家の前まで来て、「じゃあ取って来て」とタダが言う。
急いで家に入って自分の部屋に上がり、タダにあげるラッピングされたマフラーを取るが、もしかしてうちに入ってもらった方が良かった?でも今、他に誰もいないし。もう少ししたらお母さん帰ってくるけど…。帰って来てタダがいたら騒ぐかもしれないし…。
迷いながら玄関を出たら、すぐタダが手を差し出すのでマフラーを渡すとその場でラッピングを開け始めた。
ここで開けるの?プレゼントってもらったらすぐ開けるのがいいって聞いた事あるけど、そっか、ここで開けるんだ。どうしよう。色、気に入らなかったら。ドキドキする。
タダはマフラーを包んでいた紙をぱさぱさっとまとめると自分の持っていたバッグに閉まった。そしてその私があげた深緑色のマフラーを嬉しそうに広げてくれた。
「うん。好きな色」と言いながらタダはそれを私の首に巻く。
え?
「まだちょっと早いよなマフラー」タダは言いながら私の首にグルっと巻く。「でもちょっと我慢して、このままうちまで送って」
「タダのうちに!?私が送るの?」
「そうそう。また帰りオレが送るから」
「なにそれ」
「いいじゃん。今日一緒に回れなかったんだから。その代わりだから」
「でもなんで私が巻いてんの?タダにあげたのに。…やっぱ気に入んないとか…」
「違う。好きな色だって言ったじゃん。大島もこれ、オレに合うって思ったんよな」
「…思ったけど」言いながら恥ずかしい。
タダの事を考えながら、タダのために買ったって言うのをその本人に確認されてるのが恥ずかしい。
「なあ、」とタダ。「オレんちまで巻いといて。それでソレ貰うわ」
「…」
「大島が巻いたやつ巻きたい」
わ~~~っ!
あ~~ダメだ心の中がボワン!て鳴った。熱い感じでボワン!と。赤くなるのはもちろんだし、なんか私のこの小さな胸がムボン!とDカップにでもなったような…
って何を思ってんだ私。
無言のままタダのうちまで歩く。タダも無言。でも私の心の中は最大級にわちゃわちゃしている。
タダが家の鍵を開けながら上がっていくかと聞く。「もうすぐカズミと母さんも帰ってくるはずだし」
わ~~どうしよ…「今日は止めとこうかな。え、と、うちのお母さんに何も言って来なかったし。ケイタイ置いて来ちゃったから」
だってこのままタダのうちで一時でも二人きりになったら、きっと私だけ焦り過ぎて変な感じになる。
「わかった。じゃあちょっと待ってて」
そういうとタダは中に入ってすぐに戻って来たけれど、その手には赤いマフラーを持っていた。
「これ、オレが買ったやつじゃないからアレだけど」
「誰にもらったの?」
「去年普通に母さんが買ってきたやつ。色はカズミが選んだらしいけど。目立つから学校にはしていってない」
言いながら私が巻いていたタダにあげるはずのマフラーを外し、今度は今持って来た赤いマフラーをまた私に巻く。
「大島はこれ使って。交換な」
言いながら私から外した深緑のマフラーを自分に巻くタダ。瞬間に胸がズギュっとブレた気がした。
タダが私に聞いた。「どう?似合ってる感じ?」
うん、と口には出さずにうなずく。ものすごく両頬が熱くなっている。
タダがニッコリと笑って言った。「大島も似合ってる」
恥ずかしい!!
「じゃあまあ送るわ」とタダは言いながら私があげたマフラーを外して家の中に置き、私に巻いてくれたマフラーも外して持ってくれる。
「なあ、これ、ちゃんと使うよな?」
うん、とまた、口には出さずにうなずいたが本当に恥ずかしい!
「なあ、なんかオレの事変態とか思ってねえ」
変態!?驚いた顔でタダを見てしまう。
「いや、だって大島が1回巻いたやつ欲しいとか言ったから」
「…」
「恥ずかしいついでだから言うけど、ちょっと手をつないでみるって言うのはどう」
どう、って言われても!
「無理無理無理無理」
ハハハ、とタダが笑った。「そんなに拒否んなくても!」
「違う!もういろいろ恥ずかしいから!」
なんでこの人、こんな恥ずかしい事次から次に普通の感じで言ってくんの?
「恥ずかしいん?」とタダが聞く。
「恥ずかしいよ。もういろいろ言わないで」
へへ~~、とタダが笑っている。
「なに!?なんで笑ってんの?私の事からかってんの?」
「違う。うれしいだけ」
もう!と思う。
落ちた夕日で私の顔が、すごく赤いのがバレませんように。