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地下室ダンジョン~貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ~  作者: 錆び匙
1章 貧乏兄妹は娯楽を求めて最強へ
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11.兄妹は魔法陣を描く

 今日もいつものように俺らは朝ごはんを食べながらその日の計画を決める。俺たちがステーキを食べた日から数日が経った。とはいっても料理の手法を変えながら毎日しっかりと肉を食べているわけだが。

 しかしそろそろ肉もそれなりに溜まり、腐らないように加工して保存するものも出てきているので、前ハルに言われ気になっていたことの実験をする。

 魔法陣を見て魔法の媒体になっているのではないか、という奴だ。

というわけで俺たちは前回ダンジョンに潜った時に魔法陣を描き写してきている。写真を撮ることができれば一発なのだが、中では電子機器を使えないので仕方がない。とはいえ、線をそのまま描き写すのは魔法陣に紙を重ねて写すとしても、太さなどの問題で難しいと考えたので薄い紙と濃い鉛筆を持っていった。

誰しもがやったことがある、のかは知らないが聞いたことはあるだろう。細かい凹凸のある面に薄い紙を当てて濃い鉛筆でこすると線が浮き出る例のあれだ。

それを使うことで俺たちは魔法陣の形どころか線の太さまでをしっかりと再現することができたのだ。

 そして現在。俺たちは作業を行なっている。鉄の板に、その魔法陣を彫っているのだ。

いや、俺はそういうのが苦手だから作業するのはハルだけなのだが。そして俺は猪の角をひたすら叩いている。俺の気が狂ったわけでは断じてない。

先日猪の角の強度実験と称してハルがバールで全力で殴ったところこの角には金属と同様に展性、延性があることが分かったのだ。なので俺は急遽庭に簡易的なかまどを作り鉄板と石でかな床を作って、金づちで鍛冶っぽいことをしているのだ。

ただ、念のために言うと火を使うのにコンロではなく庭にかまどを作ったのは高熱が欲しかったからではなくガス代がもったいなかったから。野外で火をくべるのであれば燃料は、家に置いてあったごみの残骸がたくさんあるから何も問題ない。

無くなれば林に入れば枯れ枝なんていくらでも取れる。というわけで俺は寒いはずの庭で、火による熱で汗をだらだらと流しながら金槌で角を叩いているのだった。

 それにしてもこの角の性質は面白かった。熱していないとダンジョンに入ってステータスで筋力が増した状態で全力で叩かないと曲がらないのに、焚火で限界まで熱すと軽くたたくだけで曲がるようになるのだ。

とはいえドロドロにはならないので融点はもっと高いのだろう。焚火の温度が千度ほどらしいのでそれぐらいまで上げれば加工ができるのだ。鉄に比べると断然加工がしやすい。

ただ、バールで殴ったことでへこんだことから鉄よりは強度が弱いことが分かった。ということでせっかくなのでたくさんあった角をつなげて大きくしておいた。イメージは西洋剣。

ちなみに叩くだけじゃ刃はできないので模造品です。

そもそも作ったら犯罪になるかもしれないから作らない。実際この家には何種類か砥石があったはずなので刃を作ることができるが、ハルを置いて刑務所には行きたくないのでやらない。

剣を作るのがどれくらいの罪になるのかは知らないけど。多分アウト。刃渡り50センチ以上あるから。


「おにいー、できたよ。頼んでたのできた?」


 ハルが庭に出てきたので頼まれていた2枚のものを渡す。とは言っても角を適度な大きさで切り落としてカードの形に固めただけのものなのだが。

ハル曰く、湾曲してるものに魔法陣を彫るのは難しいから平たくしてくれということらしい。湾曲したものに彫ることをできないではなくて難しいからと言ってしまうところがハルクオリティー。

というわけでハルにカードを渡し、かまどの火を調節して、上に網を置いてから家に入る。そろそろ昼ご飯なのでそれの準備をしようというわけだ。まずは猪の肉をブロック状に切って串にさす。

それをひたすら繰り返す。とは言ったって作る本数は10本だけだが。それに塩をまぶして庭に持っていくとかまどの網の上に横たわらせた。勿論たまに転がして全体的にきれいに焼いていく。


「おにいー終わったー。おー串焼きだ」


 再び庭に出てきたハルは串焼きを見てかまどによって来ると火に手をかざして体を温め始める。そろそろ肉も丁度いい焼き加減だろう。ハルに1本渡す。


「「いただきます」」


 片手に串焼きがあるので手は合わせられないので片手だけでいただきますをして、串焼きを食べ始める。よく分からないが体に染み渡るこの感覚。ダンジョンの猪の肉は正直もう慣れてきてしまったが、いつも通りおいしかった。



 昼ご飯を食べて少し休憩した後俺たちは装備を整えてダンジョンに入る準備をしている。今日は実験をかねての探索なので新しい階層にはいかない。現在7層攻略中なので既に地図が出来上がっている6層に行こうと決めた。

そして俺たちの装備にはいつもと少し違う点がある。それは二人とも鉄製と猪の角製のカードを持っているからだ。

当然そのカードには魔法陣が彫ってある。形から彫られた溝の深さまでが凹凸が肉眼で確認できないほどには正確に彫られている。ハルには芸術の道に進めよと言いたくなるが、残念ながらハルは工作は得意でも創作は苦手なのだ。

何かを真似たり、ありふれたものを作るのはできるのだが、新しいものを作るとそれが崩壊する。綺麗な曲線や角がある何か分からないものが完成するのだ。俺はこれを見て技術と芸術センスは異なるものであると理解した。俺にはどちらもないのだが。

 それはさておき俺たちはダンジョンに入ると入り口のすぐ近くにある小部屋の魔法陣の上に立つ。すると頭の中に文字が浮かぶ。何度も経験しているので今更驚くことは無い。


 転移

 5階層:入り口

 5階層:出口 


 この通り1層の転移の間からの限定的な転移が可能になったのだ。

限定的というのはこの転移が1日の間に、行きに1回帰りに1回しか使えないからだ。つまり再挑戦は不可能となるわけだ。再挑戦と言っても旨味が全くない1層近くをうろつくしかなくなる。

ただしこの転移回数には同じ階層での転移は含まれないらしい。5層の入り口と出口を行ったり来たりするのはいくらでもできたのだ。ちなみに転移回数のリセット時間は0時0分だと思われる。

俺たちが探索している時間内の更新が無かったことに加え、世界中でダンジョンが出現したのも、我が家のダンジョンが出現したのも夜中の0時だったからだ。当然のごとく世界には時差というものがあるわけで、ダンジョンは国々の間で順番に出現したということなのだ。

ということでダンジョンには0時で区切りをつけるものが多いと考えている。まぁ、それはさておき俺たちは、この6層にて実験を開始するというわけだ。



「じゃあ、おにい。まずは私が。『ボム』」


 ハルの魔法が前方にいた3匹の狼を吹き飛ばす。ただしダメージはそれほどでもない。少し休めば攻撃を再開できる程度だ。あれからも少しレベルが上がり、ボムも効果範囲が増しているように思える。

しかし、威力の増加はあまり感じない。敵が吹き飛ぶ距離から考えると威力も増しているがそれで敵を倒すには、あと一歩届かないといったところだろうか。


「とどめは貰うぞ。『スピード』」


 俺も必要はないが実験のため、魔法を使ってから狼にとどめを刺す。このスピードは基礎ステータスが上がるごとに効果も上がっている気がするので速さをもとの速さの何割かという計算で増加させる魔法なのだろう。


「じゃあ、次はこっちだな」


 次の狼を探して歩きながら、2枚のカードを取り出す。鉄製のカードと角製のカードだ。勿論魔法陣が描いてある。

 狼が向こうからやってきたのですぐにハルは鉄製のカードを前に向けて唱える。


「『ボム』」


 普通にカードを持つ手の先からは光の玉が出て、狼のうち1匹を吹き飛ばした。先程と比べて威力の変化は無し。


「使った魔力の量に変化はありそうか?」


「多分ない。このカードは効果なし」


 それではということでハルはカードを角製の物に持ち替えると再び魔法を唱えた。


「『ボム』、ん?」


 魔法を使うと同時にカードの魔法陣が薄く光り、光の玉が狼の方へ飛んでいく。そしてその光の玉はいつも通り、狼にぶつかり爆発を起こし。

 狼たちを、消し飛ばした。


「「まじか」」


 二人そろって驚愕の声をあげるほどには威力は変化していた。攻撃対象が一瞬で死亡したため威力は不明だが、2倍ほどまでは上がっていると思われる。


「その割に魔力の消費量は変わってない気がするんだよね」


 とハルが言ったように魔力の消費を変えずに威力がこれほどまでに膨れ上がるのだ。恐ろしいことこの上ない。


「次はおにい、狼来たよ」


「ここってほんとに入れ食い状態だよな」


 爆発の音で、狼が寄ってくるのが索敵に入った。数は1グループ。つまりは3匹。狼が襲ってくるのに合わせて狼の間に鉈を投げてこちらにヘイトを集中させる。案の定警戒した狼たちは、3匹同時にこちらに飛び込んできた。


「『スピード』」


 手に持った魔法陣が薄く光ると視界がいつも以上にゆっくりになり3方向からくる狼が簡単に把握できるようになった。3匹とも軽くいなしてやる。

するとどうなるか。当然のように、狼の爪はお互いを傷つけあった。防御力皆無の攻撃特化の狼同士がお互いにぶつかったことでその爪は互いに瀕死とはいかないまでも重傷を負わせた。動けなくなった狼たちの喉を鍬でつついて殺していく。


「なんというか。すごいな、この魔法陣」


「次回からは絶対持ってこよう。予備も作って」


 この日俺たちは新しい武器を手に入れたのだった。この情報が遥か先を探索している自衛隊ですら知ることのない技術であることを兄妹が知ることは、まだまだ先のことになるのだろう。


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