第8話 村に人が増え始め、ついに娼館ができる! もはや小さな町!?
【ユウタ視点】
赤目犬の討伐から数週間。
俺たちが暮らすセラ村は、劇的な変化を遂げていた。
俺が提案した水路のおかげで、畑にはラディカをはじめとする作物が豊富に実っている。
『聖女』として覚醒したアカリちゃんの癒しの力もあり、怪我や病気に苦しむ者もいなくなった。
そして何より、銀槍団が村の守りを固めてくれているおかげで、魔獣の脅威が完全に去ったという噂が近隣にまで広まっていたのだ。
「ユウタ様! 今日も村は活気に満ちておりますぞ!」
広場を歩いていると、村長が顔をほころばせて駆け寄ってきた。
「新しく移住してきた者たちで、家が足りないくらいです。マルクト町からやってくる行商人たちも、この村を中継地点にするようになりました!」
「あはは……すごいことになってきたね」
俺は苦笑いを浮かべた。
もともと五十人程度だった辺境の貧しい村は、流民や商人、さらには噂を聞きつけた冒険者たちまで集まり始め、今や人口が数百人規模に膨れ上がっている。
もはや村というより、立派な『小さな町』と呼んでいい規模だった。
人が増えれば、当然ながら新しい施設も次々と建てられる。
宿屋ができ、酒場ができ、小さな商店が並び始めた。
俺の固有スキル『万民魅了』の効果なのか、移住してきた新参者たちも、なぜか俺の顔を見るとすぐに熱烈な忠誠を誓ってくるため、治安の悪化はまったく起きていない。
しかし、俺の心を最も揺さぶったのは、村長からポロリとこぼれた『ある施設』の存在だった。
「そういえば若様。流れてきた商人たちが出資して、村の外れに娼館ができたようでしてな」
ピタッ。
俺の足が止まった。
「……え? 今、なんと?」
「はて? ですから、酒と女を出す娼館ができたと。血の気の多い傭兵や商人たちのガス抜きには、ちょうどいいかと思いまして」
ドクン、と俺の心臓が大きく跳ねた。
(キタキタキタァーーッ!)
俺は心の中で、渾身のガッツポーズを決めた。
娼館。それは異世界ファンタジーにおける、大人のロマンの結晶である。
前回の戦勝儀礼では、村人たちのガチすぎる忠誠心にビビって逃げ出してしまった。
だが、今回は違う。相手はお金でサービスを提供するプロフェッショナルなのだ。
童貞である俺でも、プロが相手なら優しくリードしてもらえるに違いない。
(今日こそ……俺は『純潔王』なんていう不名誉な称号を返上してやる!)
俺は固い決意を胸に秘め、夜が来るのを待った。
◇◆◇
その日の深夜。
俺はミリアやアカリちゃんに見つからないよう、こっそりと家を抜け出した。
村の外れに新しく建てられたその建物は、赤いランタンの光に照らされ、なんとも妖艶な雰囲気を醸し出していた。
入り口の扉をそっと開けると、甘い香水と酒の匂いが鼻をくすぐる。
「いらっしゃいませ……あら?」
奥から現れたのは、胸元が大きく開いたドレスを着た、妖艶で美しい女性だった。
彼女は俺の顔を見た瞬間、ハッと息を呑んでその場に膝をついた。
「ゆ、ユウタ様!? 我らが偉大なる純潔王が、なぜこのようなむさ苦しい場所へ!?」
「あ、いや……普通にお客として来たんだけど……」
俺がモゴモゴと答えると、女性の顔がパッと輝いた。
「おお……! わざわざ我々のような日陰者の様子まで、視察に来てくださったのですね! なんてお優しい……!」
(いや、視察じゃなくて遊びに来たんだけど!)
俺の心の叫びは届かず、女性は奥に向かって大声を上げた。
「みんな! ユウタ様がお見えよ! 最高のVIPルームへご案内して!」
あっという間に、ドレス姿の美しい女性たちが五、六人ほど集まってきた。
彼女たちは俺をふかふかの長椅子に座らせると、ぐるりと周囲を囲んだ。
右を見ても左を見ても、露出度の高い美女ばかりである。
(す、すごい……! これが大人の世界……!)
俺の心臓は早鐘のように鳴り響いていた。
ついに、俺の思い描いていた異世界ハーレムが実現する時が来たのだ。
「あの、ユウタ様……」
一人の女性が、熱っぽい瞳で俺を見つめながら、そっと顔を近づけてきた。
甘い吐息がかかりそうな距離。
俺はゴクリと唾を飲み込み、目を閉じてその時を待った。
「日々の激務、本当にお疲れ様でございます。さあ、こちらをどうぞ」
トンッ。
俺の目の前のテーブルに置かれたのは、湯気を立てる緑色のドロドロとした液体だった。
「……えっと、これは?」
「村で採れた新鮮な野菜をたっぷりすり潰した、特製の健康ジュースです! 若様の尊いお体を守るため、我々が真心を込めてお作りしました!」
「え?」
俺が戸惑っていると、別の女性が俺の後ろに回り込み、力強い手つきで肩を揉み始めた。
「さあユウタ様! 凝り固まった筋肉をほぐさせていただきます! 我らの守護者であるユウタ様に、もしものことがあっては村の損失ですからね!」
「我ら一同、ユウタ様の健康と長寿を心より祈願しております!」
(……あれ?)
女性たちは俺の肩や背中を健全な力加減でマッサージしながら、まるで神様に祈るかのような真剣な顔で、村の豊穣と俺の健康を称える歌を合唱し始めた。
「待って! 俺はそういう健康的なサービスじゃなくて、もっとこう……大人の男としてのサービスを……!」
俺が慌てて抗議すると、女性たちは感動の涙を流しながら深く頷いた。
「わかっております! 偉大なる純潔王であるユウタ様を、我々のような汚れた女が誘惑するなど、あってはならないこと!」
「ええ! ユウタ様の清らかな御身に触れるなど、恐れ多くてできません! 我々はただ、若様の健康を陰ながら支えるのみ!」
(違う! 俺が求めているのはそういうのじゃない!)
俺は涙目になりながら、健全すぎる野菜ジュースを一気に飲み干した。
プロの女性たちにまで『純潔王』として崇拝されてしまっては、もはや俺に逃げ道など存在しないのだ。
◇◆◇
翌朝。
俺がとぼとぼと広場を歩いていると、レナとアカリちゃんが揃って待ち構えていた。
「ユウタ様。昨晩は、あのような怪しい店にまで直接足を運ばれ、民の健康状態を視察してくださったと聞きました」
レナが、心底感服したという顔で深く頭を下げてくる。
「銀槍団一同、ユウタ様の果てなき慈愛の心に、改めて忠誠を誓う所存です」
「……うん。もう好きにして」
俺が力なく頷くと、隣にいたアカリちゃんが、ジト目で俺を睨んできた。
「ユウタくん。視察って言ってるけど、本当は遊びに行ったんでしょ?」
「ギクッ」
俺が肩を揺らすと、アカリちゃんはため息をついて、少しだけ呆れたように笑った。
「でも、結局何もされずに、肩もみだけされて帰ってきたって聞いたよ。ユウタくんらしいね」
(アカリちゃんにまでバレてる……! 俺の尊厳が……!)
俺がその場にしゃがみ込んで頭を抱えていると、無情にも目の前の空間に半透明のステータス画面が開いた。
【あなたを慕う者:二百三十八人】
【村が『町』の規模に発展しました】
【夜の街の清紀を保ちました】
【称号:清廉なる聖王の芽生え】を獲得しました。
「純潔から聖王に進化しちゃったああぁぁっ!」
俺は天を仰ぎ、声を限りに絶叫した。
もはや俺の童貞は、神聖な領域にまで達してしまったらしい。
『ユウタ。すべての民から汚れなき存在として崇められる……それもまた、極めて高尚なハーレムの形です』
「高尚すぎて俺には理解できないよ!」
俺の悲痛なツッコミに対し、女神様は今日も楽しそうにクスクスと笑っているのだった。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




