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童帝王、ハーレムを作る!~女神にモテスキルを授けられたはずが、なぜか国づくりを始めました~  作者: 塩野さち


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第1話 女神への切実な願い

 ハッキリ言って、俺はモテなかった。


 生まれてから十七年、彼女ができたことがないのはもちろんのこと、女の子とまともに会話をした記憶すらほとんどない。

 スポーツが得意なわけでもなく、勉強がずば抜けてできるわけでもない。

 顔立ちもごく平均的で、良く言えば普通、悪く言えば没個性だった。


 学校では常に教室の隅っこが定位置だ。

 休み時間は一人でスマートフォンのSNSを眺めるか、机に突っ伏して寝たふりをする毎日だった。

 バレンタインデーの収穫は毎年、母親からの義理チョコ一つのみ。

 クリスマスは家族とケーキを食べるか、自室にこもってネットサーフィンをして過ごすのがお決まりのパターンである。

 青春という言葉には無縁の、いわゆる(いん)キャというやつだ。


 しかし、そんなパッとしない俺にも、密かに思いを寄せる女の子がいた。


 クラスメイトのアカリちゃんだ。

 肩まで伸びたサラサラの黒髪に、パッチリとした大きな瞳。

 太陽みたいに明るくて、誰にでも分け隔てなく接する、まさにクラスの中心的存在だった。

 目立たない俺なんかにも、朝は必ず笑顔で挨拶をしてくれるし、授業でプリントを回す時も優しく声をかけてくれる。

 たったそれだけのことなのに、俺は彼女の優しさに完全に心を奪われていたのだ。


 運命の日。

 それは夏休みの真っ最中、クラスの男女数人で川遊びに来ていた時のことだった。

 もちろん、俺がそのグループに誘われたわけではない。

 たまたま同じ川の上流で、一人寂しく石切りをして遊んでいただけなのだ。


 バシャアァッ!


 突然、下流の方から大きな水しぶきの音と、悲鳴が響いた。

 何事かと顔を向けると、川の流れが急に深くなっている場所で、アカリちゃんが溺れてもがいているのが見えた。

 一緒に来ていた連中はパニックに陥り、岸辺でオロオロとするばかりで、誰も助けに行こうとしない。


(アカリちゃんが危ない……!)


 考えるよりも先に、俺の体は動いていた。

 服を着たまま川に飛び込み、無我夢中で水をかき分ける。

 泳ぎが得意だったわけではないが、火事場の馬鹿力というやつだろう。

 あっという間にアカリちゃんのそばにたどり着いた。


「アカリちゃん、つかまって!」


 俺は彼女の腕を力いっぱい掴むと、必死に浅瀬の方向へと押しやった。

 なんとかアカリちゃんが岩場にしがみつき、安全な場所へと引き上げられたのを確認した。


「あ、ありがとう!」

「ユウタ! アンタ、見直したわよ!」

「かっこいい~っ!」


 クラスの女子たちが駆け寄り、アカリちゃんにタオルを差し出す。


 その瞬間、全身の力が抜け、ホッと息を吐き出した。

 ――しかし、悲劇は直後に起きた。


 ピキッ。


 右足のふくらはぎに、筋肉が裂けるような強烈な痛みが走った。

 足をつったのだ。

 急激に冷たい川の水に入り、慣れない激しい運動をしたせいかもしれない。


「あ、やば……」


 声を出そうとしたが、口の中に大量の冷たい水が流れ込んでくる。

 足が動かず、水面に顔を出すことができない。

 ブクブクと泡を立てながら、俺の体はあっという間に暗い川底へと沈んでいった。

 肺の中の空気がなくなり、本能が酸素を求めてもがくが、手足は鉛のように重く、ピクリとも動かない。

 息が続かない。胸が苦しい。

 薄れゆく意識の中で、俺は自分の人生を振り返り、強く、強く後悔していた。


(嘘だろ……。俺、このまま一度も女の子と付き合えずに死ぬのか……?)


 それは、十七歳の童貞(どうてい)男子にとって、あまりにも悲しすぎる最期だった。


◇◆◇


 気がつくと、俺は真っ白な空間に立っていた。

 上下も左右もわからない、果てしなく広がる不思議な場所だ。

 足元には水面のように波紋が広がり、動くたびに微かな光が舞い散る。

 先ほどまでの息苦しさや、足の痛みは完全に消え去っていた。


「ここは……天国、なのか?」


 俺がポツリとつぶやくと、どこからともなく透き通るような、美しい声が響いた。


「目を覚ましましたね、勇敢なる魂よ」


 声の主を探して振り返った俺は、思わず息を呑んだ。

 そこには、これまで生きてきた中で見たこともないほど、美しい女性が立っていた。

 輝くような金色の長い髪に、空よりも深く青い瞳。

 背中には純白の大きな羽が生えており、体全体が淡く神聖な光に包まれている。


「あ、あなたは……?」


「私は女神のティア。この世界と、あなたのいた世界を管理し、魂を導く者です」


 女神様。

 その言葉に、俺はなぜかスッと納得できた。

 これほど神々しく、圧倒的なオーラを放っている存在が、ただの人間であるはずがない。


「ユウタ。あなたはあの川で、自らの危険を顧みず、見事に少女の命を救いました。しかし、その尊い行動の代償として、あなた自身の命を落としてしまったのです」


 女神ティア様は、悲しそうに伏し目がちにして言った。

 どうやら、俺は本当に死んでしまったらしい。


(まあ、アカリちゃんが無事だったなら、俺の人生にも少しは意味があったのかな……)


 俺は心の中で、そう自分を納得させようとした。

 しかし、女神様はふわりと優しく微笑みながら、俺に向かってそっと手を差し伸べた。


「あなたのその尊い自己犠牲(じこぎせい)の精神に敬意を表し、特別な計らいをしましょう。あなたを、剣と魔法が存在する異世界へと転生させてあげます」


異世界転生(いせかいてんせい)……!」


 俺は思わず大声を上げ、目を輝かせた。

 ライトノベルや漫画で何度も読んだ、あの憧れのシチュエーションが、まさか自分の身に起きるなんて。


「ええ。そして、新しい世界で生きていくあなたに、一つだけ私の力で願いを叶えてあげましょう」


「一つだけ……願いを?」


「はい。魔王を倒すための強力な魔法の力でも、万軍をなぎ倒す無敵の剣術でも、一生遊んで暮らせる莫大な財宝でも構いません。あなたが望むものを、何でも一つだけ授けます」


 女神様の言葉を聞いて、俺の胸の奥底で、熱い炎が勢いよく燃え上がった。

 強力な魔法? 無敵の剣術? 莫大な財宝?

 ――そんなものは、一切必要ない。

 俺が求めているのは、もっと根源的で、切実で、切迫した問題なのだ。


 前世の俺は、ハッキリ言って全くモテなかった。

 女の子と手をつないだこともなければ、一緒に帰ったこともない。

 誰からも愛されることなく、溺れて死んでいったのだ。

 もし、もう一度人生をやり直せるというのなら。

 もし、どんな願いでも叶えてもらえるというのなら。

 俺の願いは、最初からただ一つしか決まっていない。


「女神様。俺の願いは……決まりました」


 俺は両手でギュッと拳を握りしめ、ティア様の青い瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

 顔は真剣そのものだ。


「教えてください。あなたの望みは何ですか?」


 ティア様が、期待に満ちた表情で優しく微笑みかけてくる。

 きっと、世界を救う力を望むとでも思っているのだろう。

 俺は大きく息を吸い込み、魂の底からの叫びを、大声で口にした。


「来世はモテたい!」


 静寂。

 真っ白な空間に、俺の切実すぎる声だけが空しく響き渡った。


「…………え?」


 ティア様は、目をパチクリとさせて完全に固まっていた。

 無理もない。

 命を懸けて人命救助をした勇敢な魂が、まさかそんな煩悩(ぼんのう)まみれの願いを口にするとは、神様であっても夢にも思わなかったのだろう。


「あの……ユウタ? 今、なんと……」


「モテたいんです! とにかく女の子にチヤホヤされて、可愛い子たちといっぱい仲良くなって、最高のハーレムを作りたいんです! 前世では一度も女の子と付き合えなかったので、来世では死ぬほどモテモテの人生を送りたいんです!」


 俺は一歩前に詰め寄り、さらに熱弁を振るった。

 顔は興奮で赤くなっていたかもしれないが、恥ずかしがっている場合ではない。

 これは、俺の今後の人生――いや、来世のすべてを左右する、もっとも重大な選択なのだ。


「あの、ですから……魔王を倒す勇者になるための特別なスキルとか、伝説の聖剣とかではなく……?」


「はい! 魔王なんてどうでもいいので、女の子にモテるスキルをお願いします!」


 俺が元気よく即答すると、ティア様は困ったように眉を下げ、その美しい顔を引きつらせた。


「はぁ……。わかりました。そこまで強い思いがあるのなら、あなたに究極の『モテスキル』を授けましょう」


「本当ですか! ありがとうございます、女神様!」


 俺は歓喜のあまり、その場でピョンピョンと飛び跳ねた。

 これで来世は、夢のハーレム生活が確定したようなものだ。

 可愛いエルフや、動物の耳が生えた獣人の女の子たちに囲まれて、毎日ウハウハな生活を送るんだ。


「それではユウタ。新しい世界でのあなたの健闘を祈ります。どうか、授けた力を正しい方向に使ってくださいね……?」


 ティア様が呆れたような深いため息をつきながら手を振ると、俺の体はまばゆい光に包み込まれた。


(待ってろよ、異世界! 俺は絶対に、最高のハーレムを作ってやるからな!)


 希望に胸を大きく膨らませながら、俺の意識は再び真っ白な光の中へと溶けていった。

 この時の俺はまだ、自分が女神様から授かった『モテスキル』が、なぜか壮大な国づくりへと発展していくことなど、知る由もなかったのだ――。


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