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欠片たち   作者: siki


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1 白い霧の中で

 目の前には真っ白な霧。


 手をその中にいれても、指先すら見えなくなるほどの濃い霧だ。


「……そんなに私はいらなかったのかな……。だめだったのかな」


 ぽろりと、意識をしないままに、言葉がこぼれ落ちた。


「……頑張ったんだけど、な」


 今度こそ、一番になりたい、必要とされたいと頑張ったのにな。




 目を開けられないほどの光につつまれて、気がつくと、見知らぬ場所だった。

 石畳の上だった。靴を履いていても、その冷たさが足に伝わった。


『ようこそ、お越しくださいました。異界の方』


 耳に聞こえる音としては全く知らない言葉の響き。

 意味だけは、頭の中に伝わった。


 まぶしさに、せわしなく瞬きする私の前に、ひざまずいて見上げていたのは、あなただった。



『どうか、私と共に――』




「嘘つき」


 それ以外に言いようがない。


「いらなくなるなら、はじめから、呼ばなければよかったのに……。

それとも、あの人たちのいうように、間違いだったから、捨てたの?」



『間違いだったんだよ。マガイモノだ』

『本物に成り代わろうとしたんだろうが、あの程度の魔法しか使えないのでは、それもむりだろう』

『噂をきいたか? 辺境に現れた御方の話を。

――ああ、そうだ。異界から呼ばずとも、この世界にはじめからいたのだ』



 間違い? 間違ったのは私じゃない。

 呼んだのも、私じゃない。

 望んできたわけじゃない。


 なのに、全部、私が悪いのだという。



『すまない。きみは違ったんだ。きみをこのままここにおいておくわけにはいかない。だから……』



 ――そして、私は捨てられた。



 還すことはできないと……

  

 ……処分、殺すこともできないからと……この、白い霧に覆われた場所に、私は捨てられた。


 この真っ白な霧に囲まれた、かつての封印の地だという場所に――。




 あれから、時が過ぎても、何度も思い出す。消せない記憶。


 間違いだった。マガイモノだと、言われた記憶。



 だけど……



 ここに来たときは、一人だった。



 だけど、もう、一人じゃない。



「また、ここにいたんだ」


ふいにかけられた言葉に、ゆっくりとふりむく。


「こんな境界、眺めも白いだけでつまらないだろ?  な、おまえもそう思うよな」

「あう」


 同意を求める言葉に、赤ちゃんが返事をするかのように声を上げた。

 ふわふわと浮いている。浮遊魔法だ。


「う」


 私のほうにふっくらとした手を伸ばす。

 私はその手にそっと触れて、それから笑った。

 


──もう、私は一人じゃない。


 きみがいるから、みんながいるから、生きていける。



「ほら、戻ろう。することありまくりだよ。なにせ、こいつがまたひろってきたからさ」

「あぅ」

「またなの?」

「そ。住むとこ、寝るとこ、急いで増やさないと」

「ずっと、床に、雑魚寝してもらうわけにはいかないよね」

「だろ」




『本当にあなたはなにも特別なことはできないんですね。期待はずれだ』




「今度は、どこに作る? また、土地広げなきゃ。はじめから、家は広めで作ろう」

「だな。そのまえに、食糧も残り少ないから、肉、狩りに行かないと」

「ん? なぜ肉限定? 肉ばかりっていうのもあれなんで、お魚も食べたいと思う」

「あう」

「へいへい、……川、行くか」


「おーい! 北の沼地になんか、でかいのがでたって! みんな、むかってる!」


 遠くからの呼び声。ざわめきと、駆け出す複数の足音。


「わかった。急ごう」

「今日はハードな日になりそう。でも、退屈よりいいね」

「あう」

「退屈って、……あのな、緊張感ねーな」

「大丈夫。油断はしないよ」

「あー」

「へいへい。……さっきまで、うじうじモードしてたくせに」

「ん?なにかいった?」

「なんも」



 マガイモノ、聖女、そんな肩書なんて、いらない。


 私は私として、生きてくよ。



───あなたといたときになかった力が今の私にはある。



 もう誰にも、私を否定させない。


 














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