秘密の集落編③
「もういい頃でしょう。皆さん、飛び込んでください」
村長の言葉に、男の周りに居た村人たちが燃え上がった炎に手を伸ばした。炎は伸ばされた手を伝わって、村人たちの体を燃やしていく。
五分も経たない内に、半数以上の村人たちが燃え上がった。村長はニコニコしながらその様子を見守っている。
どのくらい経っただろうか、村人たちの全身を焼いた炎が消えていき、辺りには焦げ臭い匂いが漂い、地面には無数の灰が落ちていた。半数以上居た村人たちは、肉体も服もすっかり燃え尽きてしまったのだ。
村長は燃えた村人たちが全員灰になった事を確認すると、パチンと指を鳴らした。
「【破壊と再生】。焦げ落ちた古き肉よ、新たな肉体と化して蘇れ」
その瞬間、地面に落ちた灰が蠢き始めた。蠢いた灰は辺りの土を取り込んで独りでに渦巻き、少しずつ人の姿を形成していく。
人の形が出来ると、褐色の土は肌色に徐々に変色を始めた。灰は土の中を骨のように通り抜け、やがて数本の棒のようになっていく。
ニコニコする村長の眼前で、土は肉に、灰は骨へと変わり、人の体が出来上がっていく。程なくして、全裸の若い男女が出来上がった。
村長は目を細める。
「それでは、今日の儀式はこれにて終了とさせていただきます。ああ、そう言えば昼間生き埋めになった人たちがいましたね。あの人達も蘇らせましょうか」
まるで散歩でもしに行くかのような口ぶりで、村長はそう告げた。
「何だよ、あれ……」
建物の陰から様子を窺っていた金髪の男は、目の前のあり得ない光景に身震いしていた。彼の手の中には、金属製の小さな箱のような物がある。
「人間が燃えて…生き返る? 何だよ、何なんだよ」
空いた片手で、思わず髪を掻き毟る。今まで二十年余り生きてきたが、こんな現象は今まで一度も見たことがない。
「で、でも、ここまでの情報なら高く売れるはずだ……」
金髪の男はグッ、と手に持った金属製の箱を握りしめる。これは『カメラ』と言う物らしく、目の前の光景を絵にして保存できるという優れものだそうだ。
「アイツら、ビビッて帰りやがって…………でも、俺は違う。この情報を高値で売って認めてもらうんだ…」
普段なら、ここで帰っていたかもしれない。だが彼には引けない理由があった。この『カメラ』なる摩訶不思議な物をくれた人間、それがとんでもない人物なのだ。
「『女王蜂』……『三狂人』の人間から直接頼まれた依頼なんだ、引くわけにはいかないんだよ」
『三狂人』、特に『女王蜂』は世界に対して大きな影響力を持っている。そんな彼女との繋がりが作れれば、後はどうにでもなる。金に女、権力……様々な物が同時に手に入るだろう。
「へ、へへへ…これで逃げたアイツらにも、地元の奴らも見返せるぜ。今まで俺に対して散々働けだの遊び歩いてるだけの極潰しとか言いやがって……」
今の時代、いつ魔物に殺されてもおかしくない状況だ。ひょっとすると明日死んでいるかもしれない。何なら次の瞬間、死角から魔物に襲われて殺されるかもしれないのだ。ならば今を楽しんで何が悪いというのか。
「へへ……俺は『女王蜂』の人脈を使って成り上がるぜ。そしてあわよくばその地位から引きずり下ろしてやるよ」
その時、金髪の男はふと例の青年を思い出した。何故だかは分からない。分からないが、突然頭に浮かんできたのだ。
「あの黒いコートを着たアイツ……アイツも来ればよかったにな。アイツとコンビを組んで成り上がりたかったぜ。上手く行くと思うんだけどな、俺達」
まあいい。自分が『女王蜂』の傘下に下った日にはあの男を推薦しよう。あの雰囲気と言い目つきといい、きっと気に入られる事だろう。
「さて、この『カメラ』って奴、ちゃんと機能してるかな……」
手元の『カメラ』の様子を確認しようと目線を向けたその時ーーーー
「……おや、まさか外の人が残っていたとは」
背後から声が聞こえ、金髪の男は振り返る。そこには相変わらずニコニコとした笑みを浮かべた村長が居た。
「確か夜の祭りは部外者禁止なので、夕刻まではお引き取りくださいと言ったはずですが……」
怒りや悲しみ、驚きと言った一切の感情を見せる事なく、張り付いたような笑顔と淡々とした口調で村長は一歩、一歩と近づいてくる。
「お、おぉ⁉」
膝が笑い、その場に尻餅を突いてしまう。村長は金髪の男の手から『カメラ』を取る。奪う訳でもなく、流れるような仕草。それでも金髪の男に抵抗する気力はなかった。
「こんな物を用意するとは……随分と用意周到ですね。驚きました」
バキッ、と言う音と共に村長が『カメラ』を平然と真っ二つに割る。そして、金髪の男の瞳を覗き込んだ。
「この儀式を見られたからには、申し訳ありませんが生かしておくわけにはいきません。大変心苦しいのですがーーーー」
瞬間、金髪の男は逃げ出していた。震える足で立ち上がり、手をバタバタと動かしながらもどうにか村長に背を向けて走る。
「は、はあっ、はあっ!」
心臓がバクバクと鳴っていた。これ程までの興奮、一体いつ振りであろうか。
「おっと、逃がしませんよ」
村長の声が、後ろから聞こえてくる。直後、右足に激痛が走った。
「う、うああああっ!」
勢いを殺し切れず、その場に倒れ込んでしまう。恐る恐る痛みの走った右足に触れてみると、ヌメッとした生暖かい感触が手に伝わってきた。
「何だ、何だよ、何なんだよーーー」
その時、右手が硬い物に触れた気がした。恐らくこれが足に刺さったのだろう。
「鍬で足を差されてしまったみたいですね、大丈夫ですか?」
村長の声が近づいてくる。逃げようとするも足が動いてくれない。
「それにしても残念です。外の人を殺してしまう事になるなんて」
村長の声が、頭上から聞こえてくる。金髪の男は顔を上げようとするが、頭を踏みつけられて地面に顔面を押し付けられた。
「しかし、この村の蘇生の秘密について知られてしまう事は大きなリスクになりますからね。殺すしかないでしょう」
「こ、殺…い、生きかっ、生き返っーーーーー」
「ああ、ひょっとしてこの村の人達同様、殺しても生き返るのではないかと考えているんですか?」
頭を踏みつけている事を意に介さず、村長はのんびりと言う。
「それはあり得ませんよ。何せ【蘇生】はこの村の住人のみに許された能力なのですから」
「の、能力…」
「はい。能力です。実はこの村の人間は皆、大地の恩恵を受けていましてね。いわゆる『龍脈』と言う奴です。我々はこの力の恩恵を受ける事で、老いることも死ぬこともなく過ごせているんですよ」
その言葉が差す物はすぐに分かった。
すなわち、不老不死。
「最も、村から一歩でも出てしまえばただの人間と変わらないんですけどね。ですが村の中に居る間は大抵の怪我は治せますし、常に健康な状態でいられるんですけどね」
村長の足が踏みつける力が増す。頬を地面に押し付けられ、金髪の男はますます喋りにくくなった。
「で、でも、むりゃには爺しゃんも…」
「……ですが、例外はあります。例えば昼間のように事故で死んでしまったり、自分の容姿に飽きてしまったり。稀有ですが病気になってしまった例もありましたかね。とにかくそうなった時の為、定期的に『祭り』を行っているんです」
それが、今日行われた『祭り』と言う物か。
「人間の体を土に還し、『再構築』させる。これにより、健康かつ若々しい肉体を手に入れる事が出来るんです。まあ、中には老人の体を気に入って『再構築』を頑なに断る奇特な人も居ますけどね」
村長はそこまで告げると、金髪の男に問いかけた。
「ここまでで、何か質問はありますか? 冥土の土産に一つくらい答えますが」
「た、たしゅ……け………い…だ……い……」
『助けて。痛い』。そんな単純な言葉すら発せなくなった声をどう曲解したのか、村長は首をコキリと鳴らした。
「困る事ですか? そうですね、強いて言うなら痛みに鈍感になる事ですかね。『再構築』を繰り返せば繰り返すほど、生と死の境界線が薄れていきますし。痛みだけならまだいいんですけど、危機感も鈍ってくると大変なんですよ。ですからこうして村長たる自分が目を光らせている訳です」
あと、と村長は告げる。
「退屈なんですよね、色々と。長く生きているというのも、別段面白い物ではありませんしね。ですから実は、殺人も一種の享楽だったりするんです」
その時、金髪の男は四方八方から嫌な気配を感じた。殺意と好奇心が入り混じった、複雑な気配だ。
「できるだけ、長く生き延びて下さいね。この村の人間みんな、貴方の事を痛めつけて殺したくてたまらないみたいですから」
「い、嫌だ…」
それが最期の言葉だった。
肉を打つ音が、村中に響き渡った。
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