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無能詐欺編

「アレンよ。よくぞこの世界に参った」


 その言葉に、アレンは目を覚ました。周りを見回すと、煌びやかな服を着た年配の男達が並んでいる。


「ここは・・・」


「ここはランゴバルモ王国。お主はこの国に、勇者として召喚されたんじゃよ」


 目の前から声が聞こえ、アレンは正面を見る。するとそこには、頭に冠を付けたいかにも王様と思わしき人物が座っていた。


「勇者・・・」


「そうだ、勇者だ。お主には今、とんでもなく強い力が宿っているのだ。その力で、この国を救ってもらいたい」


 王様の言葉に、アレンは素早く一言「はい」と返事をした。自分の力で誰かが救えると言うのなら救ってみせようではないか。


「あ、ただ・・・僕は自分の力をまだ把握していません。その為、しばらく練習する時間をもらってもいいですか?」


「ん? ああ、構わんぞ。好きに練習するとよい」


 王様の言葉にアレンは「ありがとうございます」と言うと、侍従に連れられて割り当てられた部屋に入っていった。


 この世界に来てまずアレンがやった事は、知識の収集だった。前の世界から自分での勉強が好きだったアレンは、あらゆる知識の収集を一人で行った。


 図書館にある書物を読み、実際に詠唱してみて、確認した。


 そんな独学が始まってから三週間が経過した頃、王様から呼び出しが掛かって来た。


「アレンよ。魔法の調子はどうだ?」


「あまり良くありません」


 アレンは正直に答えた。勇者として祭り上げられたはいいが、自分の実力はそこまで高くはなかったらしい。


「そうか。それは困ったな。どれ、一つ我らに見せてはくれないか?」


「すみません。まだ駄目です」


 王様を失望させたくなかったため、アレンはきっぱり断った。すると、王様は「そうか」と返事をした。


「それならば仕方ないな。だが、せっかく呼び出した勇者に何のフォローもしてやれないのは申し訳ない。本来であれば武具や魔法の能力を上げる道具を渡したいところだが、弱いと言うのならーーー」


 そこまで言うと、王様は言葉を切った。


「そんなに弱いと言うのなら、資金を提供しよう。金は何かと必要になるだろう。本来なら勇者であっても金銭的な支援をすることはないのだが、お主が実力に不安があるのであればと言う特別措置だ」


「ありがとうございます」


「加えて、特別に魔法学校への入学も許可しよう。本来なら難しい入学試験を突破した者しか入れないのだが、お主は弱いと言う自己申告だからな。勇者が嘘を吐くわけもないし、優遇措置じゃ」


「ありがとうございます」


 王様が資金を提供したと言う話は広まり、諸大臣や金持ち達も資金提供の話に乗ってきた。勇者に資金を提供したと言うのは名誉なことだからだ。誰も、勇者が嘘を吐くとは思わないので疑うことなくすんなりと金を出した。


 そして、アレンが魔法学校に入って数ヵ月した頃。


「それでは、魔法の定期テストを始める。アレン、君もこの学校に来て二ヶ月経つ。そろそろ魔法の力を見せてもらうぞ」


「はい」


 アレンは頷くと、魔法を撃つ態勢に入った。大丈夫だ、二ヶ月も鍛えたのだからきっと出来る。もし酷くても、笑う人は居ないはず。


 それでも不安だったので、アレンは最弱の魔法を唱えることにした。詠唱は面倒なので省き、魔法だけを撃ち放つ。


「【ファイア】」


 瞬間、アレンの手から豪快な音と共に何メートルもある炎が迸った。炎はうねるように進んで校庭に大きな焦げ跡を残し、最後に爆発してから消滅する。


「ど、どうですか教官」


 アレンは少し緊張しながら教官を見る。しかし、教官はポカンと口を開けたまま返事をしなかった。


 教官だけではない。クラスメイトも皆、口を開けたまま動かない。


「・・・え?」





「では、開廷します。起立」


 裁判長の言葉に、席に着いていた全員が立ち上がった。アレンも慌てて立ち上がる。


「着席。では、これより【無能詐欺】裁判を始めます」


 裁判長の言葉に、アレンはビクッ! と身を強張らせた。今回の被告人、それはアレンなのだ。


「被告人、前へ」


 言われた通り証言台に出る。名前を読み上げさせられ、一連の状況を確認すると、検察が起訴状を読み上げた。


「被告、アレン・ホークナーは外の世界からこの世界に勇者として期待をもって召喚されたにも関わらず、『自分は大して強くない』と宣い、国王及び諸大臣から金貨800枚を騙し取った疑いがあります。これはランゴバルモ王国刑法第246法【詐欺罪】に当たります」


「被告、以下の控訴事実に間違いはありますか?」


 裁判長の言葉に、アレンは強く答えた。


「違います。僕はやってません」


「弁護人から何か補足はありますか?」


 弁護士は問い掛けられると、「はい」と立ち上がる。


「アレン君はこの世界に来てまだ日が浅く、更に彼が昔居た世界はこの世界よりも強さの基準が低く、彼が自分の力を誤認する事もおかしくはない。つまり騙すつもりはなかったんです。従ってこれは不慮の事故だと考えられます。よって被告人は無罪であると主張します」


 弁護士がそう言って座ると、裁判長は検察に声を掛けた。


「検察から何か反論はありますか?」


 裁判長の言葉に検察の男は立ち上がった。


「裁判長、被告が騙した人数を知っていますか? 20人ですよ20人。彼は多くの人間を騙し、挙げ句には無詠唱でかつ凄まじい火力の魔法を放っておきながら『俺の魔法がヤバイ? それって弱い方でだよな?』とこの国の魔法使いを侮辱するような事を言い出したのです。彼のような人間を野放しにする訳にはいきません。是非とも法の裁きを受けてもらいたいものです」


「異議あり! 本件とは無関係の内容です。彼が国の魔法使いを侮辱した事に関しては彼の倫理観を疑いますが、本件とは何の関係もありません!」


 検察に対して弁護士が反論したその時、傍聴席の椅子から一人の青年が転がり落ちるのが見えた。彼の周りに居た人が心配そうな顔をするが、青年は腹を押さえたまま踞って動かない。


「ハ、ハハハ」


 その口から、声が漏れる。青年の隣に座っていた少女が冷ややかな目を向けたその時、青年が笑い出した。


「ハ、ハハハハハ!」


 青年は爆笑していた。高らかに、とんでもなく楽しそうに。


「【無能詐欺】! マジでこんな馬鹿な裁判があるのかよ! 冗談だろ、なあ! ああ腹痛い! ハハハハハハハハハハ!」


「傍聴人は静かに! 次同じことをしたら退廷させますよ!」


 裁判長の言葉にも耳を貸さず、青年は床をバンバン叩いて爆笑していた。やがてひとしきり笑い終えると、スッと立って裁判長に頭を下げる。


「法廷内の秩序を乱してしまい、大変申し訳ございませんでした」


 そう言って座る。しかしまだ面白いのか、クックッと口から笑いが漏れていた。


「・・・ねえ、笑いすぎ。私が恥ずかしくなってくる」


「ご、ごめん。でもなぁ・・・マジで見られるとは思ってなかったんからさ、無能裁判」


 そんな声が聞こえてくる。その間にも、裁判は再開していた。


「弁護人は先ほど被告人の倫理観に疑う余地がある事に関しては認めました。ならば、なぜ被告人が詐欺をする事には否定的なのですか? 著しく倫理観が欠如しているのなら、国を相手取って詐欺を起こしてもおかしくはないのでは?」


「被告人の倫理観と詐欺行為に関しては無関係であります」


 どうやらやや弁護士が不利なようだ。それにしても倫理観が欠如しているだの何だのと、酷い発言だ。


「先ほど弁護士先生は被告人がこの世界に来てから日が浅いと仰られましたかな?」


「ええ。それが何か?」


 検察の嫌みな質問に、弁護士はムッとして答える。


「我々の調査によれば、彼がこの世界に来てから既に90日弱が経過しています。赤子ならとにかく、一般的な青年ならば常識を覚えていて当然の時間では?」


 検察の追及に、弁護士は口ごもる。検察は水を得た魚のように生き生きと、そして鋭く追撃を始めた。


「そもそも、周りの人間の魔法を見ていれば一目でいかに自分が異常であるか察することは出来るはずです。それほど被告の能力は異常なのですから。にも関わらず『知らなかった』で済ませるのはいささか不可解なのでは?」


「それはーーー仰る通りです」


「更に、我々の調査によれば被告人は幾度となく人間と戦っていますね。魔物とではなく、人間と。ならば自分の強さに気がつくはずなのではありませんか? 実力差が露骨に離れているのに、気が付かない方が異常だ!」


「・・・・・・」


 弁護士はとうとう何も言えなくなってしまった。このままではまずいと思い、アレンは立ち上がる。


「ぼ、僕はまさか自分の魔法がここまで強いだなんて本当に知らなくてーーー」

 

 その言葉に、返事は来なかった。


「被告人、静粛に。それでは次に証人尋問に入ります。被告が魔法を放ったときに近くに居た人物に話をーーー」


 その時、ガタッ! と大きな音がした。見ると、先ほどの青年が椅子から倒れて苦しそうに喘いでいた。


「ヤバイ・・・腹痛い。面白すぎる! さっさと死刑になれよ、チート持ち!」


「傍聴人! 退廷しなさい!」


 裁判長が叫ぶ。その時、検察の男が何かに気が付いたように青年を指差した。


「お、おいあれ『黑百鬼の死神』じゃないか!?」


 その言葉に、アレンは青年を見る。確かに、手配書で見た『黑百鬼の死神』とよく似ている。真っ黒なコート、修羅場を幾度となく潜ってきた者特有の殺気だった目、そしてコートからチラリと見える工具の数々。


 あらゆる国から手配され、それでも平然と生存している化け物。


 そんな化け物がこんな場所にいるなんて。


「警備員!」


 裁判長が叫ぶよりも速く、二人の警備員が青年を捕らえようと動いていた。向かってくる巨体に対して、青年は腰のベルトからノコギリを取り出す事で迎え撃つ。


「法廷の秩序を乱しちまったのは悪いと思ってる。だから今から退廷しようと思ったんだがーーー退廷させる態度じゃないよな、これ」


 そう言って、掴み掛かってきた警備員の腕を回避する。そして返り討ちとばかりにノコギリで警備員の体を切り裂いた。


「グァァ!」


 警備員の体から、少なくない血が流れる。青年は続けざまにベルトから金槌を取り出そうとしてーーー動きを止めた。


「来る・・・」


「動くなぁッ!」


 無事な方の警備員が手を青年に向けて翳し、魔法【ウィンドボール】を放つ。青年は咄嗟に回避するが、続け様に飛んできた【ボルト・ショット】を見て顔を歪める。


「チィッ!」


 青年が素早くノコギリを振り、【ボルト・ショット】を防ごうと試みた。しかしこの魔法は素早い速度で敵に電撃を食らわせる魔法であり、防ぐのはそう容易ではない。現に、青年は電撃を半端に防いだものの全てを防ぐことはできず、電撃を食らってしまい膝を突く。


「・・・大丈夫?」


「心配するな。そんな事よりーーー分かってるな?」


 青年の質問に、少女は頷いた。そしてどこかに向かって走っていってしまう。青年がそれを見て笑った直後、警備員によって取り押さえられた。


「『黒百鬼の死神』。殺人未遂で逮捕だ」


「殺人未遂だと? 随分とチンケな罪で捕まるんだな」


 青年が警備員に連れられていく。アレンはそれをどこか遠い世界の出来事のように見ていた。


「きゅ、休廷にします。次回の期日はーーー」


 裁判長の動揺した声が、アレンの耳に響いた。




 


 



 

この作品は、あくまでも『勘違い無双系』のキャラクターをモチーフにしており、特定の作品に対して悪意を持って書いたわけでは一切ありません。

ご了承ください。


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