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新たなる仲間編①

 一組の男女が、草原を歩いていた。


 青年の方は鋭い目付きに目元まで伸びた黒い髪。どす黒いコートを着込み、頬に点々とした赤い血を付けている。


 一方で少女は誰もが羨むような美しい銀髪を携え、無機質な目で前の空間を見ていた。どちらも人混みに紛れてもすぐに分かるほどの存在感のある風貌だった。


「・・・回服薬は基本的に一定以上の火を与えると爆発する」


「マジかよ。今度試してみるか」


 いつもの如く少女の知識を青年が楽しそうに聞いていると、隣の街が見えてきた。街並みこそ中世らしさがあるが、それを除けば何の変哲もない街だ。


「まあ、中世の時点で大分おかしいんだけどな。この街は?」


「・・・何もない、普通の街」


 驚くべき答えが返ってきた。ここまで一度たりとも『普通の街』と言うものに遭遇したことがなかった青年からすれば驚きの事態だ。


「普通の街、か。ちょっとこの世界のテクノロジーについて聞いてみるか・・・」


 むしろ普通の街に興味津々である。そんな青年の変人ぶりに少女が若干引いていると、何やら前方に人混みが出来ているのが見えた。どこか張り詰めた空気を孕んでいる。


「何だありゃ?」


 気になった青年は少女の手を掴むと人混みを掻き分け、騒動の中心になっている人物を見た。するとそこにはいかにも荒くれ者と言った感じの巨漢と、細身の体型をした眼帯男が対峙している。


「テメェ、この俺様の言うことが聞けねえって言うのか!」


「有り金を全て寄越せと言う脅迫の事か? そんな物を聞く意味はない」


 眼帯男は極めて冷静に言い放つと、クルリと踵を返した。もう話をすることはない、と言わんばかりのその態度に巨漢は怒りを露にする。


「俺が誰だか分かって言ってんのか? 俺は28人を殺して指名手配を食らってるお尋ね者、ジョー様だぞ! そんな俺の命令を聞けねえとどうなるかーーー」


「28人か。意外と少ないな」


 その様子を見ていた青年が呟く。少女はそんな悪ふざけ気味の青年の背中を叩いた。


「28人か。意外と少ないんだな」


 眼帯男も同じ事を言い始め、少女は驚いたように眼帯男を見た。まさか全く同じ事を言うとは思わなかったのだろう。


「な、何だと!?」


 当然だが、相手はいきり立ってきた。背中に装備していた棍棒を振り抜く。


「思ったんだが、何で武器を背中に装着するんだろうな。あれだと武器抜くときに片手を背中に回さなくちゃならないよな。非効率すぎるだろ」


「・・・それは言ったら駄目な奴」


 ツッコミを入れる青年に少女は厳しい目を向けた。


「俺を怒らせたらどうなるか、思い知れよクソ野郎」


「そうか。是非思い知らせてくれ」


 煽る口調でもなく、眼帯男は淡々と告げる。その真面目に受け取っていないような反応がまた癪に触るのだろう、巨漢は背中から棍棒を振り上げると眼帯男に飛び掛かった。


「ウルァァァァァ!」


 体格が大きいにも関わらず、意外にも巨漢の動きは素早い。あっという間に眼帯男に距離を詰めてきた。眼帯男はそれに対して一瞬腰の鞘から刀を抜こうと手を置きーーーやめる。


「・・・え?」


 少女が瞠目するが、巨漢は止まらない。眼帯男目掛けて棍棒を振り下ろそうとしてーーー



 両腕が宙に舞った。



「・・・・・・」


 突如として腕を失った巨漢は、両肩から血飛沫を噴き出しながら地面に倒れ込む。そんな巨漢の頭を眼帯男が踏みつけた。


「どうした? オレに思い知らせてくれるんだろ? お前を怒らせたらどうなるのかを」


「あ、グアアッ!」


 そこに来てようやく巨漢が自分の両腕を失ったことに気が付いたらしく、苦痛の悲鳴を上げた。しかし眼帯男はその叫び声に一切の同情を見せない。


「指名手配犯とは言えこんな物か。じゃあな」


 刹那、巨漢の体に起こったことは誰もが目を疑うような事態だった。


 巨漢の両足が根本から切断され、背中に無数の切り傷が付けられる。そして眼帯男が頭から足を離すと同時に、首にも切断面が出現して巨漢の頭と胴が泣き別れた。


「・・・嘘」


 眼帯男が鞘から刀を抜いたのは見られなかった。にも関わらず、彼は目の前の巨漢の五体を切断し、更に背中にまで傷を付けたのだ。


 まさに神業の領域。誰もが驚きの眼差しを浮かべ眼帯男を見る中、巨漢は静かに息絶えていた。人が死んでいるが、誰も眼帯男に突っ掛かっていく者は居ないだろう。むしろ一人、また一人と巨漢から目を背け去っていく。


 しかし、どこにでも異端児はいる物。眼帯男に近付く無謀な者がいた。青年である。


「・・・ちょ、ちょっと?!」


 これにはさしもの少女も驚く。慌てて青年を止めようとするも、青年は既に臨戦態勢に入っていた。こうなった彼を止めることは誰にも出来ない。


 眼帯男も近付いてくる青年の姿に気が付いたのか、刀の柄に手を掛けた。一方青年も、ベルトからノコギリと金槌を抜いて構える。


 野次馬にすら緊張が走る中、一陣の風が吹いた。風に乗せられた冷たい殺意に、少女は身を強張らせる。


「・・・ほう」


 眼帯男は何がおかしかったのか口の端を歪めると、鞘から刀を抜いて青年に斬りかかった。それに対し青年も金槌を合わせることで迎え撃つ。


 そしてーーー互いの武器は喉の所で寸止めされていた。


「・・・え?」


「いやー、まさかこんな所に居たとはな。驚いたよ」


「それはこっちの台詞だ。オレの方から会いに行こうと思っていたのに、まさかこんな所で出会えるとは思わなかった」


 先程までの殺意はどこへやら、青年と眼帯男は軽く笑い合う。二人の間に渦巻いていた殺意は、一瞬にして霧散していた。


「・・・え、え?」


 いつもの無表情からは珍しいくらいの狼狽具合を見せる少女に、青年は眼帯男を紹介した。


「ああ、そう言えば紹介するのが遅れたな。コイツは俺の知り合いのアラギだ。一緒に『魔族戦争』を戦った仲間だよ」


「オレは仲間だと思いたくないがな。コイツの無茶振りに付き合わされるのはもう御免だ」


 アラギがそっぽを向く。少女は何かを察したかのように頷いた。


「・・・じゃあ、貴方がよく話してた強い仲間ってこの人の事?」


「ああ。コイツが居なきゃ俺はあの戦争でくたばってたかもしれない」


「嘘をつけよ。罠をしっかり張った上で戦っていればお前は一人で奴らを皆殺しに出来ただろ」


 カラカラと笑う青年に、アラギは厳しい目を向ける。少女はそんな青年を驚きの目で見つめた。普段不景気な顔をしている青年が笑う事も十分驚きだし、何より彼が敵意を向けた敵への攻撃を中断するなんて非常に珍しい。


「そんな事より、そこに居る女は誰なんだ。お前は前から外見主義だったが、まさか旅に連れ回す程だったとはな」


「拾ったんだよ。それに実力だって折り紙つきだ。ま、そこら辺の事も踏まえてどこか別の場所に行こうぜ」


 青年はそう言うと我先にと歩き出した。少女は小走りでその隣に立つ。そして、手を繋ごうと小さな手を伸ばした。


 だがーーー


「悪い。ちょっと今繋ぎたくない気分なんだ」


「・・・え?」


 彼にしては珍しい拒絶に、少女は三度動揺する。そして青年の右手を見て息を呑んだ。彼の手の甲が微かに傷付き、血が流れている。対して怪我ではないが、血は止まらない。


「一撃目は音速並みの速度で、二擊目はそれを上回る速度で。やっぱりアラギは強えよ」


 青年は溜め息を吐き、ノコギリを振った。ノコギリは空を切った瞬間にバラバラの破片となって宙に舞う。


 初めに二人が構え、風が吹いた時。あの瞬間に互いは続けざまに二撃を繰り出していたのだ。少女含む通行人が見たのは三擊目からだ。


 抜いたことすら悟らせない速度で二擊を放ったアラギと、そんな不可視の残擊をかすり傷で済ませた青年。どちらも化け物の領域だ。


「と言うわけで手が痛い。悪いが手を繋ぐのは遠慮してくれ」


「・・・じゃあ、治す」


 少女はそう言うと、青年の手を両手で包んだ。青年はそれに対して眉を潜めるも、諦めたように歩き続ける。


「そうかよ」


 一向が向かった先は酒場だった。昼間だと言うのに席の半分近くが埋まっている。三人は一番端の席にひっそりと腰かけ、軽く飲み物を注文した。


「それにしても、まさか生きていたとはな。てっきりどこかで命を落とした物だと思っていたぞ」


「俺がそう簡単に死ぬわけねえだろ?」


 笑いながら、青年はコップに入った水をグッと飲む。アラギはそんな相変わらずな青年を見て息を吐くと、唐突に少女をギロリと睨んだ。


「そんなに警戒するな。・・・いや、警戒とは少し違うか。何にせよ、不要な悪意を向けるのは辞めてくれ。反射的に斬ってしまいそうになる」


「・・・ふん」


 少女は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、青年の腕を掴んだ。まるで『彼は私の物だから渡さない』と言うかのような仕草に、青年が軽く笑った。


「心配しなくても、コイツは男だぞ」


「そういう問題じゃないと思うがな。今晩はこの街に泊まるのか?」


「ああ、色々買い込みたい物もあるしな。ちょっと宿取ってくる。戻ってきたら語り合おうぜ。お互い色々あっただろ」




 

 その後は、日が暮れるまで二人は語り合った。


 とは言っても基本的には青年が自分の話をして、アラギがそれに相槌を打つと言う形であった。少女は初めの方は青年の独占アピールをしながら青年の話に補足をしていたが、だんだん疲れてきたのか青年の膝の上で寝てしまった。


 揺すっても起きない事を確認すると、青年は頭を掻いた。


「人の膝の上で寝るなよ・・・膝枕って言うのは短時間の睡眠だから良いのであって、ぐっすり寝るための物じゃねえぞ」


「それだけ好かれてると言う事だろう。良かったじゃないか」


 アラギはコップに注がれた酒を一杯飲む。


「それにしても、噂じゃ人類の国全てから指名手配されてるらしいじゃないか。最近では街には入るのも一苦労だとか。何があったんだよ」


「あー、うん。色々あったんだよ」


 青年が言うと、アラギは溜め息を吐きながら首を振った。


「指名手配されるレベルのものを『色々』と一言でまとめるな。で、何があったんだ?」


「別に。クズな連中とやり合ったり協力したりしてたら国を三つ滅ぼしてただけだ」


「滅茶苦茶アバウトだな。まあ、お前ならやりかねんとは思うが」


 アラギの言葉に青年は軽く笑った。しかし、その目は笑っていない。


「で、どうだったんだ?」


 唐突に、青年はアラギの目を見た。その目には好戦的な色が宿っている。何が、と聞くまでもない。『魔族戦争』終了後に、アラギが挑みに言った相手との戦いの事を聞いているのだとアラギは察していた。


 あえて少女が寝るまで待ったのは、この場に部外者を挟みたくなかったからだ。青年は少女を仲間として扱っているが、せっかく楽しみにしていた結果発表を聞くには状況を知らなすぎる。


「いやーーー」


 首を振る彼の動きを見て青年は瞠目した。


「嘘だろ? お前が負けるなんて」


「本当だ。一撃も当てられなかった。ーーーどころか、恐らく遊ばれていた」 


 悔しそうに歯噛みするアラギに、青年は無言で茶を呷る。


 アラギの実力は、共に戦った青年だからこそよく知っていた。故に、そんな彼が負けたと言う事実は信じられないものだ。


 音速の抜刀術を持ちながら、大陸で3本の指に入る結界術師としての技術を持つ怪物。


 純然たる戦闘力だけで言えば、青年は絶対にアラギに勝つことは出来ない。彼の音速の抜刀術は見極めることすら困難であり、高速の詠唱によって構築される結界は攻撃、防御ともに絶大な力をもたらす。


 そんな彼が、戦闘で負けるとは到底思えないものだった。


「お前も、いつか戦うことになるかもな。奴は『三狂人』に興味津々だった」


「・・・そうか」


 二人の間に沈黙が流れる。しかしそれも僅かの事。アラギが指を三本立て、青年に向けて来た。


「三人だ」


「マジで? 人気者は辛いねえ」


 青年はそこまで言うと、少女を膝から下ろし大きく伸びをした。


「それにしても、最近は平坦な日々が続いてたな。たまには女遊びでもしたいもんだな」


「そこの女はいいのか?」


「たまには一夜限りの関係がいいんだよ。あーあ、どこかにいい女居ないもんかなぁ」


 青年が再度大きく伸びをした時、少し離れたテーブルから二人の少女がこちらに向かって歩いてきた。どちらも露出度の高い服を着こなしており、彼女達の金髪と赤髪を映えさせていた。


 青年達の座っているテーブルまで来ると、金髪の方が青年に声を掛けた。


「ねえ、お兄さん。お兄さん格好いいね。暇なら私達と遊ばない?」


「誰だお前?」


 青年が目を細めると、赤髪の方が数歩距離を詰めてきた。


「私はアンナ、こっちの子がナディよ。実は私達、お洒落な服を買ってたらお金なくなっちゃって困ってるの。ねえ、一緒に遊んで一晩明かさない? たっぷりサービスするわよ」


「それはいい考えだな。なあアラギ、お前はどうする?」


 顔が緩むのを感じながら、青年はアラギに聞く。しかしアラギは首を振った。


「片付けなければならない案件がある。そんな事より、コイツの事はいいのか?」


「気にすることはねぇよ。部屋で寝かせておいてやれ」


 青年はそう言って笑うと、アンナとナディを連れて近くの宿屋に入った。料金を払い、部屋に入る。


「お兄さんは、二人一緒が好みかしら? それとも一人ずつがいい?」


 ナディが上目遣いで聞いてくる。「どっちも嫌いじゃないぜ」と青年が言うと、「じゃあ二人同時に相手してあげる」と笑顔を向けられた。青年はニヤッと笑う。


「それは嬉しいな。ああ、先に体を洗って来いよ。俺は後でいいからさ」


 青年の言葉にナディとアンナは何か言いたげだったが、「俺は一人で風呂に入るのが好きなんだよ」と青年が言うと、渋々浴場へと向かっていった。


「さて、と・・・」


 青年は着ていた黒いコートを脱ぐと、ベッドに寝転がった。するのは久しぶりだ。上手く出来るだろうか。


 寝転がったまま傷だらけの右手を眺めていると、「ね、ねえ・・・」と横合いから声を掛けられた。起き上がると、そこにはアンナが下着姿で立っていた。


「もう出たのか。早いな」


「う、うん。それでね、ナディがもう少し掛かりそうなんだって」


 その言葉の言わんとすることは、青年にもよく分かる。


「そうか。じゃあ、先に始めるか?」


「いいの? 二人同時って言ってたのに」


 良いんだよ、と青年は手をヒラヒラと振った。


「一人ずつの方がやりやすくていいからな。俺は別に気にしない」


「そうなの? じゃ、じゃあ始めようか」


 アンナはそう言うなり、下着に手を掛けた。


「ごめん。ちょっと恥ずかしいからさ・・・目、閉じててくれる?」


「ん? ああ、ごめんな配慮が足りなくて」


 青年は目を閉じる。少しの間衣擦れの音が聞こえた後、アンナがこちらに近付いてきた。


「今そっちに行くけど・・・恥ずかしいからもうちょっと目を閉じてて。あとちょっとでいいからさ」


「別に構わないぞ。あ、でも一つだけいいか?」


「うん。なあに?」


 アンナがピタリと止まる。青年はこれから始まる楽しみに頬が緩むのを感じながら、アンナに言い放った。




「とりあえず、背中に隠し持ってるナイフを捨ててもらってもいいか?」




 直後、何かを貫くような音が二度響き渡った。

 



 






 




 



 



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