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不戦の外套〜臆病者と蔑まれた騎士の英雄譚〜  作者: nyancos


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最終話 不戦の外套

 帝国との大戦が幕を閉じてから、ベリルの生活は一変した。


 ベリル・ガストの名は王国全土に轟き、王都へ招かれての勲章授与、そしてこれまでの功績を鑑みての子爵位の叙爵。さらには辺境伯家から、元の領地のリンツ村に加えて辺境伯領内に新たな土地を加増された。


 かつての親衛隊「ガスト隊」は、今や小規模ながらも精鋭揃いの「ガスト子爵騎士団」へと昇格。騎士団長にはマルクが、副団長にはミラが就任し、その結束はより強固なものとなっていた。


 弟のカイルは無事騎士学校へ入れることができた。一時はバレン・ガルドス騎士団長の従騎士になると言い出して説得するのが大変だった。


 さらに生活に彩りを添えたのは、周囲の変化だった。


「ベリル兄さん、またエリス様がいらしてるわよ。今、母さんとお茶を飲んでいるわ。ミーナ姉さんがあんなに張り切ってお見合い相手を探したのが無駄骨になっちゃったわね」


 妹のリナが呆れたように、だが嬉しそうにこぼすほど、エリスが頻繁に家へ遊びに来るようになった。



---


 ある日の夕暮れ。ベリルはふらりと馴染みの店、『跳ね馬亭』の暖簾をくぐった。


「あら、いらっしゃい! みんなー『救国の英雄』様のお出ましよー!」


 看板娘のエルザが茶目っ気たっぷりに声を張り上げると、店内にいた馴染みの面々が一斉にこちらを振り返る。


「おいおい、どこまでも先を見通す『千里眼の英雄』様の間違いじゃないか?」

 セドリックがニヤリと笑えば、

「閣下といえば『鉄壁のベリル』 これをおいて他にないだろう」とマルクが腕を組んで頷きながら言う。

 

「ああ、俺たちの盾は最強だ」とヨハンが言うと、「そうだ」「その通りだ」多くの者が賛同する。


 ミラがすかさず口を挟む。

「マルク団長!何言ってるの、ベリル閣下といえば『山崩し』でしょ。あの時は本当に神がかっていたわ」


「副団長、それも良いけど、なんと言っても『龍尾斬り』ですよ。目の前でワイバーンの尻尾を斬り落としたのには痺れたなぁ」

 デニスが誇らしげに言えば、

「デニスはあの時、腰抜かしてたもんねー。目を瞑ってて本当は見てないんじゃないのー?」

 ニコがいたずらっぽく言う。

「腰は抜かしたけど、見てましたよ!!」


「いいえ『大鷲斬り』よ!すごく格好良かったんだから」と、ミラがうっとりする。


 カウンターの隅でエールを煽っていたバルト爺さんが鼻を鳴らす。

「ふん、奴は『大地の怒り』じゃ。あの平原の地響きを忘れんぞ」

「違いない」グレンが同調すると多くの者が頷く。


「俺は沈黙の谷での『轟雷』が一番かっこいいと思うね!」 巨漢のガラムが拳を叩き、


 ヘルガが骨付き肉をくわえながら。

「隊長は『いつも美味いものをくれる人』だぜぇ」


「「「そんな二つ名、恥ずかしいからやめてくれ!!」 」」

「それと隊長じゃなくて閣下なー」

 一同がツッコむが、お祭り騒ぎは止まらない。


「『斬鉄剣』、だ」

 アルノーがボソリと呟く。


「確かに!!!帝国兵の鋼鉄の盾を斬り裂いた神業は凄まじかったあんなこと出来るのは過去にも先にも閣下以外にいるまい鋼鉄を斬り裂くなんて並の剣速ではできないしそれも盾に対して寸分違わず刃を当てないと剣が折れるそれを可能にするのが閣下の踏み込みと…………あれ……」

 シオンが興奮して早口で語り出すが、周囲がニヤつくのに気付いて黙る。


「いやいや、『豪剣のベリル』だぜ!」とガストンとライアンがバルカスとの一騎打ちを真似ながら言う。


「待て待て待て! 我が師は『神速の勇者』に相違ないはずだ!」

 最後はヴァルターが身を乗り出して力説する。




「あなたたち!!何を勝手なことを言っているの!!」


 その時、店の扉が勢いよく開き、エリスが凛々しく、そして少し頬を上気させて入ってきた。


「ベリル様は、大魔法だって薙ぎ払う『滅炎の剣聖』様において他にないんだから!」


 凛とした声に店中が静まり返るが、すぐにまた

「あれは人間業ではないな!」

「俺は目を疑いましたよ」

「うむ、あれは、さすがは我が師だと感動したものだ」

「いや、エリス様はあれで骨抜きになったもんだから……」

 と議論が再燃した。



「もぅ閣下! 結局どれがいいんですか!」


 ルルに詰め寄られ、ベリルは弱り果てたように眉を下げた。そして、使い込まれた自分の外套の裾をそっと撫で、一番安心する言葉を口にする。


「いや……俺は『不戦の外套』が、一番しっくりくるかな……」


 英雄と称えられ、数多の名を贈られても、彼の本質は変わらない。

 平和を愛し、守るべきもののために静かに剣を振るう。

 その外套はもうボロボロだったが、ベリルの表情は、かつてないほど穏やかだった。


(完)

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