第ニ十四話 一閃
「おい!!どうすんだ!!このままじゃデニスの奴が!!」
「バルト爺さん!!あれは!あの光るヤツはねぇのか!」
「閃光爆薬なら、あれひとつきりじゃ、試作品だったもんでの」
「………クッ……全員散開しろッ! ワイバーンへ放てッ! 手に付くものはすべて投げろ!」
マルクの絶叫が、岩場に響き渡った。
規律を重んじるはずの第五小隊が、その時ばかりは形振り構わなかった。
「「「うぉぉぉぉぉお!!」」」
「うぉぉぉぉぉ、おりゃぁ!!これでもくらえ!!」
「全部投げろ!!石ころ何でもあのトカゲ野郎にぶん投げろ!!」
「おい!トカゲ野郎!食うんなら俺を食え!!!」
「鉄蓋」を解いた隊員たちが雄叫びを上げ、手にしていた予備の短剣、拾い上げた石、果ては自身の命綱であるはずの盾までもを、急降下するワイバーン目掛けて次々と投げつけた。
――硬質な鱗に弾かれる金属音。 一発一発は無力でも、三十人分、数百の異物が視界を埋め尽くす異常事態に、空の捕食者は一瞬の困惑を見せた。降下速度がわずかに落ち、鋭い鉤爪がデニスの頭上をかすめて空を切りワイバーンは着地した。
「今だ! デニスを引けッ!」
ガラムとヨハンが斜面を滑り降り、硬直したデニスの両脇を抱え上げる。
だが、ワイバーンは即座に態勢を立て直した。邪魔をされた怒りに首を振るい、巨大な翼を広げて岩場を薙ぎ払う。デニスを抱える二人の背に、死を告げる影が覆い被さった。
「くっ、来るな…」
「畜生!!!」
誰もが、間に合わないと確信したその時だった。
「……下がっていろ」
低く、温度のない声がした。
影よりも速く、ベリルが地を這うような歩法で距離を詰めていた。これまでの「小隊長」としての振る舞いからは想像もつかない、研ぎ澄まされた刃のような殺気。
ワイバーンが二人を仕留めんと、猛毒を宿した尾を鞭のようにしならせた、その刹那。
銀光が、空を裂いた。
「――っ!?」
ヴァルターは目撃した。
ベリルが自身の重心を極限まで低く保ち、全身のバネを剣先に集中させ、すれ違いざまに横一文字へ振り抜くのを。 鋼が肉を断ち、骨を砕く、嫌なほどに鮮明な手応えの音が岩場に木霊する。
ドサリ、という重い音と共に、神経を焼く猛毒を湛えたワイバーンの尾が、岩肌に転がった。
「…………」
一瞬、山全体が静寂に包まれた。 空の強者が、たった一人の人間によって、その最大の武器を奪われたのだ。
―――ギャァァァァァア!!!
尾を失い、断末魔のような悲鳴を上げてのけ反るワイバーン。
その背後で、剣を正眼に構え直したベリルの背中は、三十人の小隊員たちの目に、これまでのどの指揮官よりも巨大で、峻烈な英雄の姿として焼き付いていた。




