50.ようこそ、私たちの地獄へ
夢を一通り見せたことを確認して、私は拳を握った。
「……」
意図せずして笑みがこぼれる。
一ヶ月間、ユエと共に練習を重ねてきた魔法。
リーネに……奈々に、かつての私たちの苦しみを夢として追体験させる魔法。
それが、ようやく実を結んだのだ。
「うまくいったね……ふふ」
私はユエを見、笑い合う。
彼女もまた、私と同じ気持ちになっているに違いない。
「私たちの実体験を、奈々に夢として見せる作戦……大成功ね!」
「ええ。ようやく、やり返せたって感じがする……!」
思わず手を取り合い、喜びの声を上げた。
一ヶ月前のあの日、ユエが私に展開したアイデア。
それは、「奈々に夢の中で私たちの経験を追体験させよう」というものだった。
今回新たに教わった魔法は、好きな夢を相手に見せることができる魔法。
そして実際に先生や奈々がやっていた通り、自分の経験をそのまま見せることもできる。
奈々にとっては、前世の……最後まで生きた幸せな人生が、夢で他人に見せられるものだったのだろう。
でも、私たちにとっては……かつて奴らにいじめられ、苦しめられたあの日々こそが、奈々に見せたいものだったのだ。
「これで、少しは私たちの気持ちがわかったかな」
「どうだかね。まだまだ、こんなものじゃ足りないと思う。こういう奴は、徹底的に痛い思いをしないとわからないもんだから」
ユエはそう言って、今も夢の中で苦しんでいる奈々を見、また心から喜んでいるような笑みを浮かべた。
やはりユエは、私と同等かそれ以上に奈々を恨んでいたようだ。
この魔法はあくまでも夢、つまり眠っている間に見る映像としてしか経験を見せられない。だが、むしろそれは都合が良い。
毎日見せることができるし、内容は見せる側である私たちが完全に決定できる。
つまり、今見せたような逃げ場のない苦しみを最後まで見せることができる。
ついでに言うと、現実の肉体にはまったくダメージがない。
夢なのだから当然ではあるが、これはすなわち精神的にだけダメージを与えることができるという意味になる。
奈々への復讐方法としては、これ以上ないくらいのものだろう。
あいつが私たちに身体的暴力を振るってきたことの逆……いや、同じ暴力だ。
形が違うだけで。
「いやー、今日から夜が楽しみになるわ。今日で終わりじゃないでしょ?」
「もちろん。まだまだ、私たちの復讐は始まったばかりよ」
この後、一晩中奈々に私たちの経験の追体験という悪夢を見せ続けるわけだが、それはなにも今日だけのことではない。
これから毎晩、この女が眠りにつくたびに同じような悪夢を見せ続けてやるのだ。
さぞかし辛いだろうし、そのうち夜が怖くなるだろう。でも、絶対に逃さない。
かつてこいつが私たちにそうしたように、私たちもこいつを絶対に逃さず、悪夢を見せ続ける。
それでいて、次の平日の朝には何食わぬ顔をして学院に行き、リーネに会う。
その時、どんな反応をするのだろうか。
もしかしたら、まだそこまで露骨な反応はしないかもしれない。
でも、それも最初だけ。そのうち、私たちを見るのも嫌になるだろう。
……それもまた、かつての私たちと同じだ。
「でも、ちょっと気になるね……最後、奈々がどうなるのか」
それは、夢の結末がどうなるのかということではない。
悪夢を見せ続ける、私たちの復讐の最後に奈々がどうなるのか、ということだ。
「さあねえ。ただ少なくとも、正気を保っていられなくなるのは確かだろうね。もしかしたら、それこそ自殺するかも」
「あー、あり得るかもね。でもまあ……それならそれで、むしろお似合いの末路ね。かつての私たちと同じ、悲惨な末路を辿る……長生きしても、転生しても何も変わってないクズ女にはぴったり」
せめてノエルのように反省しているのならまだ違ったのだが、こいつはそうではない。
だからこそ、許す余地はない……というか、心置きなく仕返しができる。
仮にこいつが自殺したところで、私たちは別に困らない。
もう友人でも何でもない、むしろ思いっきり苦しんでから死んでほしいくらいの人間なのだから。
「それはそうと、そろそろ私たちも戻らない?」
「……そうだね。せっかく夢を見てるんだもの、楽しい夢を見なきゃ。いや、今の夢は十分スッキリするけどね」
他者の夢に入る魔法は、その副作用的な影響として、夢を見せている側は好きな夢を見られる。
他人を苦しめておいて、自分はいい夢を見る……というなかなかのクズムーブだが、まあいいだろう。
「毒をもって毒を制す」というやつである。
そもそも奈々は、元々まさしくそれをやっていたわけで、自分のしたことが自分に返ってきているだけであり、因果応報、然るべき報いだ。
「それじゃ、私先に戻るね。……また明日」
私はユエと別れ、自分の世界……自分だけが見ている本来の夢に戻っていった。
次の平日、リーネにまた会う時を楽しみにしながら。




