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DECIDE YOUR DESTINY2  作者: 北村タマオ
第3章 拡大する混沌
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0026 3つのカオス

 ミラ・クラックスは、自分が「魔女」としてイラストリラ合衆国に仕える人間である事に、何ら不満を覚えては居なかった。しかし、不安は抱いていた。このままでは、国は割れてしまう。その兆候が以前より見えていたものの、今回は決定的だ。ゲーテル・デバイ大統領が任期切れで、戦時特例処置として、3期目、4期目に立候補できる法案を提出しようとしたが、支持率がついに20%を下回り、議会の中では任期前に如何にか辞めさせられないか、と言う議論が本気で行われ始めていた。

 今までは、思想とイデオロギーの分断であったが、今度は物理的な分断だ。ゲーテル大統領は、火付け役ではない。元々火種が仕込まれていたところに、無邪気に火を付けただけである。分断を治める為に政務に励む筈が、逆に分断を煽って自分の政治的立場を強化する様な男だ。そんな男が大統領になれた理由は、その社会不安につけ込んだからに過ぎない。

 ミラ・クラックスは、これから先、予測値ではまだ8年ほど残っている戦争が、何処で戦われるのか、想像するのにも恐ろしかった。メルートリア大陸で終わりとは思えない。いや、その前に全てが覆ってしまう可能性だってある。しかし、2分されるのは何としても避けなければならない。それこそ、イラストリラ合衆国の歴史が終焉を迎えてしまう。

 分断国と言うのは、それだけで恥辱になり、屈辱であり、そして最悪な状況である。それこそ、独立戦争時代の混沌に逆戻りである。いや、革命直後のソラージュ連邦の様な地獄の混沌に叩き落とされるに違いない。

 それで、分割直後のイラストリラ合衆国を分割支配する2つの政治団体、どちらが国を奪ったとしても、良い結果が残らない。各地で軍閥が結成されて、あるいは外国が派遣した軍が土地と、法と、秩序を狂わせ続けるに違いない。

 そうなった時、イラストリラ合衆国にて正統な政治団体が居ると言う事実が必要であった。そのイラストリラ合衆国の東部都市を守る魔女軍のリーダーに、この国最強の魔女である自分以外に、誰が適任であろうか。


 メルートリア大陸の第1・第2艦隊は、なかなか発せられない命令について、一抹の不安と不満を、そして焦燥感を抱いていた。指揮系統がどうにかなってしまって、混乱しているでは無いか。何故に混乱しているのか。それは即ち、本土で何かあったと言うことである。その何かとは、何なのか。あまり想像したくは無いが、それしか思いつかなかった。

 世界中に散らばっている合衆国軍は、瞬く間に混乱に陥っていた。本部からの命令が届く前に、自分で判断しても良いと言うのでは、統率が取れていない状態を指す。自分達に向けて武器を向ける敵が居ればこそ、最悪の事態は避けられていたが、それも何時までも続くとは限らない。後方で指揮系統が混乱していると言う事は、補給体制ももれなく機能停止に陥るからだ。今すぐでも無くとも、それは即ち合衆国軍の崩壊を示していた。


 ゲーテル・デバイ大統領は、その日、人生最大のピンチを迎えていた。いや、この男についてはそこまでピンチではない。広大なイラストリラ合衆国各地にて、特に南部と北部にて州兵の中でも重装備の部隊が次々と武装蜂起、唯一無事なのは、政治特区である首都や、その近隣大都市だけであり、他の地域では武装蜂起に加わらなかった正規軍に対する攻撃が行われている。どれだけ無線で呼びかけても、返ってくるのは「合衆国よ永遠なれ」と言う言葉だけである。

 この瞬間を持って、イラストリラ合衆国は2度目の国家分断、内戦の状態に陥ったとみなされていた。ゲーテル・デバイ大統領は、その中で一人、執務机の椅子に腰を下ろしたまま、動けなかった。もう誰も彼の命令は聞かないし、もう誰も彼を尊敬しないだろう。既に人々の気持ちも心も、そこにはもう無い。分断国に武力介入して全世界をぐちゃぐちゃにかき回した国が、今度は自分が分断国となってぐちゃぐちゃにされる側に立つと、誰が信じられたであろうか。


「より強い国に、我が国を蘇らせるのだ。その為には、現在全世界にて進行中の戦争の即時停戦と、分裂した国家統一を成し遂げなければならない。弱い合衆国など、世界から求められていない、弱ければ消えるべきだ」

 「南部イラストリラ同盟」。通称「南部同盟」と呼ばれる事になる、「RSIA」が組織した分断国の主力は、主に南部の州の州軍であったが、意見が同調する正規軍の中からも賛同者が相次いで、急速にその勢力を伸ばし続けていた。

マックス・マクシミリアルは、「南部同盟」の初代表として登壇した就任演説兼建国記念式典にて、叫ぶ。

「負けるならば消えるべきだ。消えるのならばすぐに消えるべきだ。北だろうと東だろうと、そしてこの南だろうと、すぐに消えるべきだ! 王も皇帝も要らない! 民主主義を取り戻せ!」

 満場一致の拍手万雷、しかし、マックス代表は内心、「どうしてこうなった」と思っていた。政治団体として政府に圧力をかけるだけではなかったのか。いつの間にか、担がれて政治家になってしまった。世の独裁者も、こんな感じで担がれて言ったのでは無いかと思うと、心臓が氷の指で掴まれる様な感覚を覚える。世の独裁者が、一体その後どの様に歴史の中に葬られてきたか。知らないまでも無い。


 アレックス・ファンケル北部連盟大統領は、眼前に居並ぶ青い制服を着た北部連盟軍兵士達を前にして、建国記念式典の演説を行う。

「不幸な事に、我が国は今政治的のみならず物理的に分断もしています。直前まで、「南部同盟」との交渉は試みられましたが、結局、現実にはなりませんでした。1度始まってしまった以上は、最後までやり遂げなければなりません。プレイボールの笛が鳴った今、試合終了の笛が鳴るまで、戦い抜かなければならないのです。同じゴールに向けて、同じ未来に向けて、皆さんの力をお借り頂きます」

 青い制服の軍人達が一斉に敬礼を施す。静かだ。静かであるが、そこに込められた感情は、濃くて厚い。積年の分断により蓄積された感情に加えて、近年の苛税と政治不信に対する感情は、その場を支配していた。それをアレックス大統領は100%支配して、コントロールしなければならない。


「合衆国よ永遠なれ」

 東部に僅かに残されたイラストリラ合衆国に返ってくる返信は、全てそれであった。その字面とは裏腹に、この現象はイラストリラ合衆国に置いて法の支配が終わり、より巨大な混沌への入り口となったのである。


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