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甘味を求めて

 俺は銀屏の甘味めぐりに付き合うため、江陵の市場に来ていた。港に隣接された市場は盛況で、人がごった返している。関羽ボディの俺には、この人混みは少し窮屈だ。


「どこかなぁ、前はこの辺にあったんだけど」


 道中で聞いた話では、お目当ての甘味は南国の果実を北国の氷で凍らせて砕く、現代でいうかき氷に近い代物らしい。古今東西の代物が集まる、この場所だからこそ作ることができるのだとか。


「もっと先だったかな」

「おい!」


 甘味のことで頭がいっぱいなのか、俺を置いてどんどんと先に進んでいく。追いかけようとしても、身体が大きく思うように動けない。気がつけば一人になっていた。

 銀屏を追いかけようにも、この群衆を掻き分けて進むのは少々骨が折れる。どうするか悩んでいると、何処からともなく、野太い男の声が聞こえた。


「どけどけ!」


 男の一声で、さっきまでの人混みが嘘のように消えていた。往来には自分と武装した兵士達だけが残っている。おそらく、あの兵士達の誰かが声の出所なのだろう。

 何はともあれ、人が捌けたのは運がいい。道も広く進路も兵士達と交差しない。これで心置きなく、銀屏を追いかけることができる。

 

「おい、貴様!ここのルールを知らんようだな」


 因縁をつけてきたのは、唯一羽根のような飾りを付けた兵士だ。一目で一番位が上なのだと分かる。

 目立ちたく無かったので、早々に立ち去ろうとしたが、わざわざこちらの進行方向を塞ぐように立ちはだかってきた。どうしても見逃す気はないようだ。渋々対応してやることにした。


「るーる?」

「よそ者はこれだから…ここでは我らに道を譲るんだよ」

「だから避けただろ」

「なにぃ、口答えをするつもりか?」


 荒事は避けたかったが、羽根付きの手がこっそりと刃物に手が伸びているのに気がついた。鞘から抜かれてしまったら手加減できない。

 仕方ないので抜かれる前に制圧してしまおうと、身構えたその時だった。


「あー待って待って!」


 野次馬の中から、大きな声と共に一人の女の子が飛び出してきた。活発そうな短髪に身動きが取りやすそうな、半袖に短パンを履いている。

 状況が変化したことで、羽根付きは獲物に手をかけるのをやめた。予想外の出来事だったが、これで彼らを痛めつける必要はなさそうだ。


「何だお前は」

「ごめんなさい。私のおじさんちょっと頭がおかしくて」

「こいつのことか?」

「そう!お願いだから許して」


 謂れもない悪口を言われた気がしたが、ここは静観することにした。何故なら羽根付きの、表情が面白いように変化しているからだ。

 だが、いつの間にか隣に来ていた女の子がそれを許してくれなかった。膝で小突かれ、小声で「面白いことやって」と言ってくる。


「お、俺は関羽さまだぞ」


 咄嗟に出てきた言葉に絶望した。関羽が自分のことを関羽様なんて呼ぶわけない。終わったと内心諦めかけていた。


「おいおい、本当に頭おかしいぜこいつ」

「関羽は死んだんだぞ?」


 おかしい、何故だか取り巻きの兵士から憐れみの視線を感じる。


「どうやら俺達が悪かったようだ」


 挙げ句の果てに羽根付きからも同情される始末、ここまでくると心にくるものがある。俺はそんなにおかしなことを言ったのか。


「分かってくれて、ありがとう」

「この江陵で関羽を名乗る輩なんて普通じゃねえわ。今回は見逃してやるよ」


 そう言い残した羽根付きは、他の兵士を連れて何処に消えていった。どうやら荒事は避けられたようだが、なんだか釈然としない。


「もう、信じられない!糜芳の兵士と揉めるなんて…おじさん、私が助けなかったら今頃死んでたよ」


 俺があいつらより弱いと思われたのだろう。刃物を抜かれる前に制圧する自信はあったが、この子に助けられたことには違いない。ここは素直に感謝を述べるところだろう。


「いやあ、助かったよ…えっと、何て呼べばいいのかな?」

世鈴(せいりん)…張商会の世鈴よ」


 この出会いが、世鈴との長い付き合いの始まりだった。

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