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戸惑うバッツ

「え?やだよ。付けたくない」


夕方やっと目を覚ましたバッツは口をへの字にさせてそっぽを向いている。

それを見守る三人は皆一様に呆れた顔で二人のやり取りを見ていた。


「バッツ?わがままを言ってはいけないわ。この制御装置は貴方に必要な物よ?ステラは素直に付けたのに貴方は付けられないの?」


「だって俺ちゃんと魔力制御出来てるし。そんなの付けてたらいざという時すぐに反撃出来ないかもしれないし」


「それを出来るよう訓練するの!貴方ならやろうとすれば出来るでしょう?」


「いーやーだー!」


駄々をこねる子供に言い聞かせる母親という構図が目の前でありありと繰り広げられている。しかし見た目は同じ歳の男女が言い合っているので何とも言い難い光景である。

枕を抱きしめ嫌がるバッツにロゼは暫く思考しネオンを見る。急に視線を向けられネオンは思わずロゼとバッツを交互に見た。


「ネオンだって困っているのよ?バッツ」


ピクリとバッツが反応する。ロゼはそれを見逃さなかった。


「貴方。夜の記憶が無いんじゃない?貴方がネオンに何をしているか分かってるの?」


それに今度はホネットとネオンが反応した。

一体何を言う気だろう。


「え?どう言う事?ネオンに何かした?」


バッツがネオンに目を向ける。ネオンは何故か恥ずかしくなって顔が赤くなってしまった。

それを見てバッツはパカリと口を開けて持っている枕を手放した。


「え?え!?な、何?もしかして何か酷いことしたの?」


彼のあまりの動揺の仕方にネオンは可哀想になって否定しようとしてそれをロゼが遮った。


「貴方は気づいてないけど、起きている時ではなく寝ている時に魔力の暴走を起こしかけてるわ。それをネオンが何度も阻止してる。彼女、寝不足よ?」


ロゼはネオンの目の下を人差し指でチョンチョンと触った。薄っすら隈が出来ている。ネオンは慌てて目元を手で隠した。


「ずっと付けているのが嫌なら夜だけでも付けなさい。

貴方の為ではなくネオンの平穏な睡眠の為に」


「ロゼ!」


余計な事を言ったロゼに避難の声を上げるネオンにロゼは何やら耳打ちする。

バッツは何も言えずじっとネオンを見ている。


「後はネオンに任せるわ。バッツ。この制御装置はネオンに付けてもらいなさい」


そう言ってネオンに渡すとさっさと部屋を出て行ってしまう。他の二人もそれに続いて出て行った。


残された二人は微妙な空気でそこに立っていた。


「もしかして物凄く迷惑かけてた?」


バッツが困った顔でネオンを上目遣いで見ている。彼女は思わず目を逸らしてしまった。


「迷惑だなんて、そんな事ないわ。ただ、心配ではあったけど」


なんだろう。

急に今までしてきた事が恥ずかしく感じられてきたのはネオンだけだろうか?顔の火照りが静まらない。


「ごめん。俺何も気付かなくて。付けるよ制御装置」


バッツが素直に手を出したのでネオンは笑ってバッツに近づいて行く。そしてバッツの両耳に手をかけた。


「私が付けてあげる」


ネオンがそう囁いた時。バッツは背中から何かゾクゾクとした物がこみ上げるのを感じた。

無意識に目が距離の近い彼女の唇に吸い寄せられる。

そしてそのままゆっくり首筋を辿り胸元まで落ちかけて、慌てて視線を上にあげた。すると耳に触れた彼女の指の感触が気になってしまって、また落ち着かない。


「あ、あの。ネオン・・・・」


「少し痛いけど我慢してね?」


なんだろう。別にそこには何の含みは無いはずなのだが訳もわからず興奮してしまっている自分にバッツは大変混乱した。しかもベッドの上である。

バッツはベッドのシーツをギュと握りしめて固定した。

彼女の顔が凄く近い。バッツが身体を起こせばくっついてしまいそうだ。キツく目を閉じた瞬間に両耳がチリっと痛んだ。ゆっくり目を開くとネオンの金色の瞳と目が合った。


「大丈夫?痛く無かった?」


彼女の指がバッツの両耳を優しくさすっている。

制御装置が耳に押し当てられた瞬間バッツの頭はやけにすっきりとした。そしてその欲求を解消しようと身体が素早く反応した。


「・・・・・・え?」


ネオンは気がつくとベッドに寝かされバッツを見上げていた。バッツはネオンに覆いかぶさっている。

バッツはじっとネオンを見つめた。


(触りたいな)


バッツはシーツに投げ出されているネオンの三つ編みになっている深緑の髪の毛を解いた。もう片方も解くと驚いて固まっているネオンを改めて見る。

髪を解いた彼女の姿は普段よりもっと大人びて見える。

肌は白くてモチモチしていそうだ。エルフ特有の長い耳に緑色の髪がかかり妙に色っぽい。バッツは耳にかかった髪を払おうと指で耳を撫でた。


「あっ!!いゃん!」


耳を触った瞬間ネオンはびくりと身体をくねらせた。

ネオンの可愛い鳴き声にバッツは驚いてガバリと身体を起こした。自分の下でプルプル震えて赤くなっているネオンを見て自分も真っ赤になる。

しかもそのタイミングでドアがノックされる。


「二人とも〜まだ終わらないのー?」


遅い二人に業を煮やしてホネットが様子を見に来たらしい。バッツは慌ててベッドから降りてワタワタと色々な方向を見てからネオンに目を戻す。


「ごめん。俺変だ・・・俺、俺」


ネオンはゆっくり身体を起こして首を傾げている。

その仕草がまた色っぽくてバッツは目を閉じた。


「反省する為に走って来る!!!」


「え?バッツ!?」


バッツはドアではなく窓に足をかけるとそのまま飛び降りた。ネオンは慌てて窓に駆け寄ると外に出たバッツが村を爆走していくのが見えた。何やら叫んでいる。


(な、な、何その反応・・・)


「ネオン?どうしたの?」


窓際でしゃがんでいるネオンにホネットが心配して近寄って来る。


「バッツが。窓から出てっちゃった」


ホネットの後から入って来たロゼとエルディは目で何やら合図をするとエルディが部屋を出て行く。ロゼはネオンに駆け寄ると彼女の肩にポンと手を置き呆れた声を出した。


「ネオン。あまりお子に刺激を与えては駄目よ?」


ロゼの言いようにネオンは口をパクパクさせて抗議しようとしたがバッツの様子を思い出してしまい、さらに顔を赤くしたのだった。


一方エルディはバッツが走って行ったであろう方向を見てやれやれと吐息をもらしていた。


「全く。世話がやける奴等だな」


そう言って足を踏み込むとエルディの身体は物凄い速度でバッツに向かって走り出した。

恐らく普通の人間の目では追えないであろう速さで進み、あっと言う間にバッツの姿をとらえる。

気配に気がついたバッツは驚いて振り向き、その後笑った。

エルディは嫌な予感がした。


「あんた凄いね!俺に追いついて来る奴なんて初めて見た!」


「バッツ。ふざけてないで帰るぞ」


「いいよ?あんたが俺を捕まえられたらね!!」


(やはりそうなるか)


バッツは目をキラキラさせて楽しんでいる。これは口で言っても言う事を聞かなそうだ。エルディは苦笑いして走る速度を上げていく。バッツは慌てて自分も速度を上げた。

二人はすでに村から出てしまい。深い森の中に差しかかろうとしている。これ以上奥に行ったら帰るのが遅れそうで

ある。

エルディの手がバッツに届きそうになった時、空から巨大な何かが二人目掛けて降って来た。

二人は瞬時に身体を翻してそれを避ける。


「え?何?」


それは巨大な鳥の形をした魔物だった。

その魔物は地面に着地するとゆっくりと身体を起こし三つある目玉をギョロギョロと動かしバッツに目を止めた。


[オルゴールを持っているな?それを渡せ]


魔物から人語が発せられバッツは驚いた。

今まで人と話せる魔物と会ったことがないからだ。


「突然襲いかかられ、物を要求されて素直に渡すとでも思っているのか?」


エルディが淡々と魔物に話かけている。彼はどうやら慣れているようだ。


[大人しく渡せば命だけは助けてやる。渡さなければ殺すだけだ]


二人は上を見上げた。するといつの間にか空には沢山の魔物が集まっていた。


「オルゴールがあろうが無かろうが関係なさそうだがな?」


バッツは耳を触って耳飾りを外そうか悩んだ。エルディは笑ってバッツの頭を軽く叩く。


「外すなよ。ロゼが作る装飾品は性能がいい。付けていても今までと同じ様に魔術は使えるはずだ」


エルディは剣を抜くとそれに、と付け加えた。


「この程度の数なら俺一人で充分事足りる」


エルディはそう言うと襲いかかって来た魔物を目にも止まらぬ速さで斬り裂いた。それを合図に魔物に向かって飛び出して行く。


「・・・・・・・・凄い・・」


バッツはその様子を見てパァーッと表情を輝かせる。


「めちゃくちゃ強いじゃん!」


笑顔のバッツは嬉しそうに自らも魔物たちに突っ込んで行ったのだった。

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