エルディとロゼ
エルディとロゼが少しだけイチャイチャします。
「エルディ俺と遊ぼうよ!」
「断る。俺は忙しい」
魔物に襲われた日からバッツはすっかりエルディに懐いた。強いカッコいい物に憧れる少年の心理であろう。
「まったく。朝から元気な奴だねー」
ホネットはだるそうにホットミルクをすすっている。
ネオンは内心複雑な気持ちでその光景を見ていた。
あの日からバッツは夜うなされる事が無くなった。
とても平和である。しかしネオンは素直に喜べなかった。
(きっとあれね。親離れされて寂しがる親の心理よ)
ネオンは旅の間ずっとバッツに付きっきりだった。
それがいきなり解消されて物足りなく感じていたのだ。
そんな考えに浸っていると正面にドカリとロゼが座った。
ネオンとホネットはチラリと目配せする。
何故だろう。ロゼの機嫌が悪い気がする。
「あの、おはよう?ロゼ」
「おはよう。今日も暑苦しい限りだわ」
いや、気温はむしろ低いので寒い、という突っ込みは誰も口にしなかった。
あの二人の事を言っているのだ。
「本当にすぐ懐かれるんだから困ったものだわ。天然垂らしなのかしらね?」
エルディの事だとわかってホネットは恐る恐る聞いてみた。
「そんなに慕われてるの?エルディって」
「ええ、昔はある国で兵士達を纏める兵士長を務めてたしあの人弟がいるんだけどそいつも重度のブラコンよ」
忌々しげにロゼは目の前のお茶を飲みほした。
まぁ強いものに憧れる心理はわからないでもない。
「じゃあ鍛錬でもいいよ!俺の相手をしてよ」
諦めないバッツが何とかエルディを動かそうと奮闘し、最終手段に出始めた。エルディが毎日剣が鈍らぬよう鍛錬を怠らないのをバッツはすでに知っている。
これにエルディはしばし考え口を開こうとしてロゼがそれを遮った。
「駄目よ。その時間は私と約束しているから。別の日にしなさい」
えー?と不満そうなバッツだったが先約ならしょうがないかと素直に引き下がる。ホネットはそれを見てロゼとエルディはバッツの親なのでは?と錯覚しそうになる。
「ロゼ?そんな約束は・・・・」
エルディが微かに眉を上げてロゼを見上げその表情を見て口を閉じた。何だろう。顔は笑ってないのになんとなく笑っているように感じた。
「それよりも貴方はネオンの仕事について行ってあげなさい。ホネットは強いけど、この国でも人種差別をする人間は多い。貴方がリーダーなんだからしっかり仲間をまとめなさいよ?」
リーダーという言葉にバッツは反応した。
ネオンとホネットは苦笑いをし合いながら朝ごはんに手をつける。話はこれで切りが付きそうだ。
「俺頑張って皆んなを守るよ!」
ロゼは数日過ごしただけで彼の操作方法を熟知した。
流石、百戦錬磨のベテラン冒険者だけある。
ネオンはあの後二人がとんでもなく有名人である事を知った。ロゼの冒険者ランクは今年S10になり最高ランク保持者になったらしい。そしてエルディなのだが・・・・。
「化け物の巣窟」
ホネットは小さな声で囁いた。
ネオンも口にはしなかったが軽く頷く。
冒険者達には査定というものが存在している。
それはギルドで仕事を請け負ったり頼んだりする際に必要になるものだ。そして依頼内容にもランクがありランクが高ければ高いほど報酬金額が上がる。
戦闘能力値が記号のA〜Sまで。ギルドでの依頼をこなした経験値や実績が数字の1〜10までである。
ネオンはD3ホネットはJ5である。
ホネットはかなり強い部類に入る筈だ、だが。
「SSってなんだ。SSって」
あのエルディというロゼの相棒はそれを遥かに凌駕した強さを持っていた。未だかつてそんな戦闘数値を出した者は・・・・・いない。
「あまり深く考えないようにしよう?」
ネオンの言葉にホネットは賛成し朝食を食べることに集中した。
****
朝食後。皆一旦解散した。
ネオンは村の売店で身体を冷やさない為に飲み物に入れるハッカソウという実を買いに来ていた。
「貴方達東に向かうのかい?」
売店のおばさんがネオンに話しかけてくる。ネオンは珍しいなと思いながらもその世間話に乗っかった。
「まだ分からないわ。もしかしたら立ち寄るかも知れないけれど」
「悪い事は言わない。東側には向かわない方がいいよ」
店主は暗い顔で商品を包んでいる。
やはり東側からこの国は傾いているのだ。
「もしかして人が住めない土地になっている?」
「そうさね。寒いだけなら何とか暮らしていけていたが作物が全く育たなくなってからは移住せざる得なくなってねぇ。あんな氷の張る大地に物資の運び手もいないしねぇ」
そう言った彼女の顔はとても暗い。ネオンはもしやと思い彼女の手を握って尋ねた。
「身内の方が彼方に住んでいるの?」
彼女は暗い顔で苦笑いした。
どうやら勘は当たったらしい。
「気にしないでおくれ。ちょっと聞いてみただけだよお客さん。はい、これ。分量には気をつけるようにね」
「はい。・・・・あの、一応お名前を聞いても?」
「名前?」
「行くかは分からないし、会えるかも分からないけど、もし会うことがあれば貴方の事を伝えておけばいいかしら?」
ネオンがそう言うと彼女は微かに笑みを浮かべて頷いた。
ネオンが買い物を終えて歩いていると向こうからバッツが歩いて来るのが見えた。
ネオンはどうしようか考え通り過ぎるのもどうかと思い声をかけた。
「バッツ?何してるの?何か買い物?」
ネオンが駆け寄るとバッツは一拍おいてからいつもの様に笑った。
「ううん。時間があったから見て回ってただけだよ」
怪しい。これは諦めきれずエルディを探していたな、とネオンは勘付いた。
「バッツ・・・・あんまりエルディを追いかけ回してるとロゼに怒られるわよ?あまり二人の邪魔をしない方がいいと思うわ」
「二人の邪魔?ロゼは仲間はずれにされて怒ってるの?」
違う。そうじゃない。ネオンはどこから突っ込んでいいか悩んだ。
「バッツ、もしかしてあの二人が恋人同士だって気付いてないの?」
呆れ顔のネオンにバッツは首を傾げている。
「恋人同士だと邪魔になるの?ん?何でだろ」
バッツは一生懸命考えている。ネオンは心の中でバッツを応援した。しかしやはり分からなかったようで。
「分かんないからエルディ達に直接聞こう!」
とんでもない事を言い出した。
二人を探し出したバッツにネオンは慌てて引き止めるが人の話を聞かずどんどん歩いて行ってしまう。
ネオンは冷や汗をかきながらどうか二人が見つかりません様にと願った。
一方そんな事も知らずロゼとエルディは村はずれの人気の少ない放牧場の藁の上に座り景色を眺めていた。
「やっぱり外は冷えるわね」
「それで?俺との約束とは何だ?」
エルディは揶揄い半分で聞いてきた。ロゼはそれにそっぽを向いてむくれている。
「いいじゃない少しくらい。最近二人でのんびりする時間も無かったし」
「別に、夜俺の部屋に来たらいいじゃないか」
そう言われてロゼは真っ赤な実のように赤くなった。
「エルディ・・・」
「すまん。冗談だ」
エルディはロゼを自分に抱き寄せるとそのまま瞼にキスをした。ロゼも抵抗せず為すがままになっている。
「だが、いい加減待てない」
エルディはロゼの耳元で囁いてそのままロゼの耳を舐めた。ロゼはびくりと身体を揺らして慌てて顔を上げた。
「ちょっ!ここ外・・・・」
「大丈夫。少しだけだ」
そう言ってエルディは強引にロゼに口付けた。何が大丈夫なんだとロゼは思うが抵抗出来ない。ロゼだって嫌じゃない。しかし。
「んぁ・・・ちょっ・・・エル、まっ・・て」
外でするには深すぎる口付けにロゼは焦ってしまう。このまま続けたら流されてしまいそうだ。焦って離れようとすると首に吸い付かれた。ロゼは思わず腰が浮いてしまい、その隙にまた引き寄せられてキスされる。
(こんな所で我慢出来なくなったらどうするのよ)
エルディにはかなり我慢させているのだろうなとロゼは自覚している。恋人同士なのに二人は実はまだ一線を越えていないのだ。
知り合ってから二年以上たっているにも関わらず。
散々キスしてロゼから唇を離すとエルディはチラリと林の向こう側に目を向けてから惚けてボーとエルディを見ているロゼに目を向け、ハァと溜息をもらした。
「まぁ、死ぬ前までには俺の部屋に入って来て欲しいな」
よく分からない事を言うエルディに抱き締められ、惚けた頭のロゼは気が付かなかった。
二人がそんなやり取りをしている所を途中から覗いている者が居たことに。




