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不自由な歌姫

「ネオン。貴方の歌声は誰よりも優れています。しかしそれ故にとても危険でもあります。」


エルフ族の王女アスターシェはネオンが小さい頃からネオンの母のような姉のような存在であった。

この一族の使命を一身に背負い導く尊い存在である。


「貴方が望む望まない関係なく間違って使えばこの世界が傾いてしまうほどの威力を持っています。よって貴方はこの国以外で歌を歌ってはいけません」


「はい。アスターシェ様」


「そんな貴方に、こんな危険な役割を与える私を許して欲しい。しかし、それもまた貴方の役割を果たす為、必要不可欠な事なのです」


アスターシェはその顔に憂いを浮かべネオンの頭上に手をかざした。ネオンは膝をついて頭を下げたままそれを受け取った。


「貴方に私の"加護"を与えましょう。ネオン。どんな事があっても自分の心を失ってはなりませんよ。そして無事ここに帰って来るのです」


ネオンは目を閉じてそれを受け取った。しかし彼女の心の内は複雑であった。


(別に好きで歌い手に生まれたわけじゃないわ。歌えって言ったり歌うなって言ったり皆んな勝手な事ばかり)


内心はらわたが煮え返っていた。

彼女は確かに歌い手として優秀であったがそれは彼女が望んだものでは無かった。彼女が歌えば大地が芽吹くがそれは一時的なものに過ぎず何度も行わなければならない。しかし間違えば取り返しがつかないという本人にしてみれば対して役に立たない面倒な能力だった。

国の者もネオンに過剰に期待し思うようにならなければ勝手に失望された。勝手だと思う。それなのに今度は出たこともない外界に放り出されるのだ。たった一人で。


エルフは普段から精霊や妖精の力を借りて能力を発揮するのを得意とし、生活にも活かしている。

実は妖精や精霊は歌をとても好む。歌で気持ちを高め魔力をエネルギーにして力を増幅させると通常以上の力を発揮できるのだ。これは攻撃魔法より防御魔法や浄化魔法、治癒魔法などに向いている方法である。


勿論、歌い手の方にも才能がなければならない。

ネオンはその才能が他の者より飛び抜けて高かった。

ネオンの両親はこれを喜び幼いネオンをアスターシェに与えた。ソルフィアナの聖なる歌い手として献上したのである。自分の子供を。ネオンはそれにより普通のエルフ族の子供として過ごす機会を失った。

大人は皆自分に頭を下げ唯一ネオンを子供扱いするのは女王のアスターシェのみである。しかしアスターシェはこの国の王。気安く接する訳にはいかなかった。たとえアスターシェが許そうと周りの大人は許さなかった。

エルフの者たちは皆人間の事を悪く言う。しかしネオンは心の中で悪態をついていた。


(貴方達だって同じよ。人を差別し嘲り都合のいいものしか見ていない。何が違うというの)


その彼女の怒りは誰にも届かなかった。ただ彼女の中で燻っていた。ネオンは分かっていた自分の思考は他の者達と何ら変わりない同じものだと。決して特別ではなく平凡で普通に喜怒哀楽を持っている生き物だと。だが誰一人認めてくれないのだ。


(何故。私を放っておいてくれないの)


そんな国を出て一年少し、彼女はある人間の青年に助けられた。

彼は最初からネオンに優しかった。

下敷きになった彼女を助けエルフのネオンが困らないよう気を配り見返りを求めなかった。

まるでそれが当たり前の様に無償で助けて仲間にまで誘ってくれた。こんな面倒なお荷物を。

バッツと会ってネオンの世界は変わった。

まず、朝、目覚めるのが楽しみになった。バッツが今日は何を言い出すのかハラハラしつつ楽しみでしょうがなかった。

彼の子供の様な仕草や発言が可愛くてしょうがなくて目が離せない。夜、不安定になる彼を宥める内にそれさえ自分から望んでやっているのだと気付くとそれが生きがいになった。

ホネットが加わってその旅は益々楽しくなった。

ホネットも話してみると、とてもいい青年で一緒にいて気を張る必要がなくネオンは正直ソルフィアナにいた時より今の方がずっと幸せだった。帰りたくない。そう、思ってしまう程に。


[ネオン。ソルフィアナに戻って来なさい。貴方が神の御子と出会った事は知っています。大輪の花を咲かせなければなりません]


ネオンは朝。窓から告げられたアスターシェの伝言をただ見上げながら聞いていた。


[貴方が花を咲かせる役目に選ばれました。仲間に別れを告げ貴方だけこの国に戻るのです]


「・・・・・・・・・・・はっ」


ネオンは笑った。

その顔には何の感情もなかった。

全て、全ては、おままごとだ。子供のする。そう思った。

ロゼは言った。

伝えたい事はちゃんと伝えておけと。でも無理だ。


「それでバッツの助けになるなら本望でしょう?」


ネオンはそう自分に言い聞かせた。




****




「パーティーを抜ける?」


ホネットは素っ頓狂な声を上げた。

ネオンはシーと口元に指を立てた。


「まだホネット以外には言ってないの。まだ黙ってて」


ネオンの慌てた様子にホネットは呆れた顔で訳が分からない様子だ。


「どうせ言うならいいんじゃないの?」


「いや、もし言ったら付いてくるとか言いそうだから言いづらいの。国王に一人で帰って来るように言われてるから」


確かにバッツもロゼも付いて行きそうである。

ホネットはそうだねぇと溜息をついた。


「で?いつ頃戻ってくるわけ?」


当たり前の様に聞いて来たホネットにネオンは目を見開いた。ホネットはネオンがまた戻って来ると思っている。

ん?と顔を向けたホネットに慌ててネオンは顔を伏せた。


「まだ・・・分からないの。一度帰ってみないと」


「ふぅん?でもなるべく早く帰って来てよね。僕一人でバッツの面倒なんて見きれないよ?」


ネオンは嬉しくて泣きそうになってしまう。

自分は誰かに、普通に待たれる存在になれたのだ。


「そうね。帰ったらアスターシェ様にお願いしてみるわ」


ネオンは心から笑った。種族なんて関係ない。どの種族にだって心温かい人はいる。


「で?いつ出発するの?」


「今日の夜よ。迎えが来るの」


「・・・は?」


それにはホネットはあからさまに顔を顰めた。


「早朝に連絡が来て。すぐに帰って来いって」


ホネットはそれを聞いてバンッとテーブルを叩いた。

ネオンはそれにビックリしてびくりと身体を縮めた。


「何それ。もしかして無理矢理連れて行かれるの?」


その今まで見たこと無いようなホネットの様子にネオンは驚いて動けなくなった。ホネットは明らかに怒っている。ネオンにではない。恐らくこんな急にネオンを連れて行くと言うネオンの一族に対してだ。


「行っちゃダメだネオン。きっとロクな事じゃない!アイツらはきっとネオンの事道具としか見てない」


「ホネット・・・・」


ホネットは本気で心配している。恐らくネオンからも何かを感じとっていたに違いないが迎えが来ると聞いた途端に顔色が変わった。


「ホネット。ありがとう」


ネオンはテーブルに打ち付けられたホネットの手を握った。その手にぎゅーと力を込める。


「ありがとう・・・・・ほんとうに・・」


「ネオン・・・・・」


「少しは私、役に立ってたかな?」


ネオンは顔を伏せたままホネットに尋ねた。


「わたしでも皆んなの役に立てたかな?足手まといじゃなかったかな?」


「当たり前だよ!っていうか居ないと困るから!」


ホネットはネオンの重ねられた手にさらに自分の手を重ねた。そして僅かに手に力を入れる。


「ネオン。お願いだから一人で抱え込まないで。僕に言えないのなら他の誰でもいいから絶対馬鹿な事考えないでよ?」


そのホネットの台詞でネオンはもしかしたらホネットはネオンがこれからどうなるのか知っているのかもと、あり得ない事を考えた。ドワーフである彼が知るはずないのに。


「大丈夫よ。国の役目で各地を回ってるって言ったでしょ?その報告をしに帰るだけ。でも一度帰ると中々国から出してもらえないから暫くしても帰らなければ迎えに来てくれる?」


「・・・・本当に帰るの?」


「うん。バッツとも仲直りしてくる。ロゼとエルデイにも私から伝えるからまだ黙っててくれる?ホネットには一番先に伝えたかったの」


何だよそれ。とホネットは少し顔を赤くした。

その間際、ガシャンと食器が落ちる音がして二人はすぐ横を振り返った。


「・・・・・・何、してるの?二人共」


バッツは目をまんまるに開いて口を開け固まっていた。

二人は同時に首を傾げる。


「あら?何よ。二人ってそういう仲だったの?」


「「え?」」


後から来たロゼが二人を見てにやにやしている。そんなロゼをエルディは軽く小突いた。

二人は同時に握り合っている手に目を落とし、そして慌ててその手を外した。


「ち、ちがっ!!」


ネオンは顔を赤くしてホネットを見た。それを見て何故かホネットも頬を染める。


「ちょっとロゼ!!変な言いがかりはやめてほしいんだけど?僕はもっと小柄な女の子が好みだし!」


そのホネットの言いようにネオンはカチンときた。何だそれは。でかくて悪かったな。


「わ、私だって好きで背が高い訳じゃないわ!!悪かったわね!可愛らしくなくて!!」


ネオンはどちらかと言えば背が高くスラッとしている。エルフ族は皆そのような体型が多い。だがネオンはそれがコンプレックスだった。小柄で可愛いい女性に憧れているのだ。皆ネオンの発言にギョッとした。ホネットは真っ赤になってネオンを見ている。


「何よ!私だって本当は小柄で可愛いく生まれたかった!エルフになんか、なりたく無かったのに!!」


ネオンの叫びにホネットは目を見開いた。

ドワーフ族は背が低い。その為、子供みたいだと嘲りの対象にされることが多い。特にエルフと並ぶとその差がはっきりする為、恥ずかしいのだ。だからエルフ族の人間が背が低くくなりたいと思うなど考えたこともなかった。

怒って出て行くネオンをホネットが慌てて追いかける。

バッツはそれを何も言えぬままただ呆然と眺めていた。

ロゼはそのバッツの様子を見て深く眉を顰めた。



「ネオン!!」


ネオンは背後から追いかけてくるホネットに構わずスタスタ歩いて行く。ホネットはそんなネオンの手を取って無理矢理足を止めさせた。


「ごめんネオン!誤解しないで欲しい!」


ホネットの言葉にネオンはピタリと足を止めた。ホネットは少し息をついてネオンの正面に回った。ネオンの顔は・・・酷かった。


「君に向けた言葉じゃない。あれは、その。誤解されると困ると思って・・・つい。ああ言えば皆納得すると思ったし。まさか君が容姿を気にしてるとは思わなかったものだから、だって」


「だって?」


ネオンはブンむくれている。ホネットは真っ赤になって下を向いた。


「君は、とても綺麗な容姿をしているから」


恥ずかしい。途轍もなく。でもホネットは頑張った。もしかしたらネオンと今日限り会えなくなる可能性だってある。こんな下らない事で喧嘩別れなんて嫌だった。

ホネットが恐る恐る顔を上げると複雑な顔で真っ赤になっているネオンがいた。ホネットは苦笑いをしてネオンの手を離す。


「駄目だよネオン。そんな顔したらそりゃあ誤解される」


「誤解?」


「もしかしたら僕に気があるのかも?とか」


ホネットが揶揄うとネオンは目を見開いてえ?っと頬を触った。自分がどんな顔をしているのか気になるらしい。


「帰ろう。多分バッツが誤解した可能性がある。そんなの嫌だろ?」


そう言ってホネットは笑った。それにつられてネオンも微笑んだ。二人はこの時点でまだ把握していなかった。その誤解が事態を悪化させていた事に。


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