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笑いの形‐WARAKATA‐  作者: らい
第一部『彼らの日常は日常とは程遠い』
9/16

第八輪:『トラウマの先に待つものとは』

寒いですね!

最近は電車移動が増えたので以前より創作活動が進んでおります~。

突然寒くなって身体壊しそうな今日この頃ですが、笑形の季節はまだ夏前くらいですw

では、本編どうぞ。

みき「いや! 来ないで! 助けて!」

 未來(みき)は追われていた。

 周りから見たら何もないのに逃げているように見えるが、未來は確かに“それ”に追われていた。

 未來の目に映る“それ”は例えればとてもピエロのような見た目で、とても真っ黒で普通のピエロよりも異質だった。

 そんな“それ”に追われれば誰でも怖いに決まっているが、未來の“それ”に対する怯え方はトラウマというべきか、とても深くに根付いてるような、普通の恐怖ではなかった。

みき「いや! やだ! お父さん! お父さん!!!」

 ピエロは追いかけていたかと思いきや目の前へと突然現れ、未來の父であろう“それ”を目の前で引き裂く。

みき「いやーーー!!!」

 引き裂かれた“それ”は黒くもやがかかっていて鮮明には見えないが、黒く粒子の様に消えていく。

みき「やだ、やめてっ、やめて……」

 走る力をなくし、止めどなく涙をこぼしながら未來はその場へと座り込んでしまった。



一夜「やめろ! やめてくれ! 仁歌(にか)!!! 仁歌ああぁあぁぁ!!!!!」

 一夜(いちや)の瞳だけにうつっている“それ”。

 “それ”は炎に包まれ、悲鳴をあげている。なんとか近づこうと走り手を伸ばすが、走っても走っても近づけず、力尽きその場へと座り込む。

 目を瞑り耳を塞ぐも、その悲鳴と炎の燃える音は一夜の耳をつんざくほどに響き、恐怖に包まれトラウマのように一夜の脳裏に鮮明に焼き付いていく。

一夜「あいつらが、あいつが悪いんだ! 仁歌はあいつらのせいでっ──」

?「そうだ、一夜。君があいつを殺せばこの憎しみの連鎖も断ち切れるんだよ」

 一夜の横にははっきりとは映し出されていないが黒いスーツの男が立っていた。そして一夜に囁く。

一夜「そうだ、オレがこの苦しみからあいつを解放してやらなきゃいけねぇんだ」

 先程までは悲しみに暮れていた一夜の瞳には憤怒の感情で満ちていた。

しかし

?「一夜!」

一夜「? ……お前、は……」



紅龍「一体なんなんだこの空間は」

 紅龍(こうりゅう)は一人ここから出られないかと周りを探索していた。途方もなく続くこの暗闇をひたすらに歩いてみるがどこもかしこも暗闇。いい加減嫌になってきて立ち止まり、また考える。

紅龍「やはりあのチビ女を探さねば話にならんな。何処へ消えたというのだあいつらは」

 眉間にしわを寄せながら周りを睨み付けるが、誰もおらず視線だけが虚しく落ちる。

紅龍「誰だ?」

 どうしたものかと考えているとふと後ろに視線を感じる。恐る恐る振り返ると、やはり傍からは見えていない“それ”が紅龍にも見えていた。

紅龍「俺?」

 そう、紅龍の目の前には全く紅龍と同じ“それ”が立っていた。

紅龍「なんの真似だ? 貴様は誰だ?」

 紅龍が一歩“それ”へと近づくと、“それ”もまた紅龍へと近づく。

紅龍「ふざけた真似を! はぁっ!」

 拳を一つ顔を掠めるように突き出すと、やはり“それ”も一寸も違わぬ様に紅龍の左頬を掠めるように拳を突き出してきた。まるで鏡のように。

紅龍「……」

 一瞬の静止。

紅龍「くそ! なんだというのだ! 胸くそ悪い! は!!!」

 そして次々に紅龍は拳を繰り出すが、“それ”も全く同じように、同じ回数同じ箇所に攻撃をしてくる。まるで己自信にトラウマでも感じているかの様に。

紅龍「俺は強い! 貴様などには負けん!」

 同じだけ拳を躱し、同じだけ掠め、同じだけ当たる。感覚だけで言えばそれをもう数十分は繰り返していた。

紅龍「俺は、俺は誰にも指図されん! 俺は誰でもない俺だ! 俺の生き方は俺が決める!!!」

 怒りに満ちた表情で拳を交える紅龍の表情には何処か悲しみが混ざっていた。



礼「ふざけんなよ!!!」

礼央「どうしたの礼? オレたちのこと見えてる?」

 やはり(れい)にも“それ”が見えていた。礼央(れお)莎子(さこ)には見えていない“それ”。

 礼の目に見える“それ”はとても大きく、二メートルはあるように感じるが、黒くもやがかかっていてよくは見えない。

?「礼よ、お前の為にしてやったことだ。あんな娘はお前に不必要だ」

礼「お前には関係ないだろ!」

?「何故分からない? あの娘はお前に悪影響を与える」

礼「リアはどこ行ったんだ!? 家に行ったけど何もかもなくなってた! 何もかもだ! リアも、リアの家族も、家すらも!!!」

?「全て消したまでだ」

礼「ーっ!? ふざけんなよ!!! 」

 “それ”は礼の心をとても抉る言葉を次から次へと口に出す。それはとてもトラウマになるような程に。しかしその“声”は莎子にも礼央にも聞こえていないのだ。


礼央「何か幻覚を見てる? これも闇のリレパの影響なのか? さっつんにも見えてないよね?──」

さこ「……」

礼央「え?」

 礼の様子にどうしたものかさっつんに相談しよう、そう思い振り返るとそこには横たわっている無数の莎子。

 そう、“無数のさっつん”。

 礼央は目を疑い、一度目を閉じもう一度ゆっくり目を開く。しかしそこにはやはり無数の莎子が横たわっていた。椅子に座り眠る莎子、布団の上に眠る莎子、ベッドの上に眠る莎子、雑に下に寝転ぶ莎子など、色々な莎子がいるが、全ての莎子は意識がないようで眠っている。

礼央「ど、どういうこと!? さっつんが沢山!? こんな素敵なことが……じゃなかった、こんな不思議なことが起こるなんて、これも闇のリレパの影響?」

 にやける顔をパチンと両手で叩きながらすぐに真剣な顔に戻す礼央。

礼央「この中に本当のさっつんがいるのかな?」

 とりあえず一番近くに横たわっている莎子を起こし、膝の上に頭を乗せる。

礼央「さっつん、さっつん起きて?」

さこ「んー? 礼央?」

礼央「さっつん良かった! 意識があるんだね! だったら本物を探すのは簡単──」

さこ「礼央すきぃー」

礼央「へ!!?」

 莎子であろう“それ”はまさかの礼央に抱きついた。それが本物の莎子なのか偽物の莎子なのかは分からないが、礼央にとってそれよりも“もしかしたらさっつん”という存在に抱きつかれ、“好き”などと言われ困惑も困惑、どうしたらいいかわからず言葉にならない「え、あ、う」などと口にしている。

礼央「ま、待ってさっつん! い、一旦離れよう! ね! お願いだから!」

 顔を真っ赤にしながらどうにか莎子を引き離そうとするが、莎子はぎゅうーっと礼央に抱き着き離さない。

 するとそのやり取りを感じ取ったのか、周りにいる無数の莎子が次から次へと起き上がり、礼央に近づいて来た。

さこ「礼央~」

さこ「礼央すきすきー」

さこ「ずるーい! 礼央はあたしのだよー!」

さこ「違うよあたしのだよー!」

礼央「さ、さっつんがいっぱい、さっつんがいっぱいオレに抱きついて、わわわわわ~」

 四方八方莎子に塞がれて礼央は幸せそうではあるが、心臓が破裂しそうで困惑もしている。このまま夢うつつの中にいても良いような気さえしてきた礼央だったが──


さこ『礼央……礼央助けて……』


礼央「さっつん?」

 不意に莎子が助けを求める声がした気がした。

 その時過去のことをふと思い出す。あれは確か小学校高学年位だったような。


 放課後五、六人の女の子達に校舎裏へと無理矢理引っ張られていき謎の論争が始まったのだ。

「礼央君はあたしのものよ!」

「何言ってるのよあたしのよ!」

礼央「ちょ、ちょっと待ってよ皆、喧嘩はよくないよ? それにオレはものじゃないから」

 礼央の周りには複数の女の子が群がり、礼央の服や腕を引っ張ったりしている。礼央は痛がっているが女の子達はそんなことお構い無しで、女の子には優しくと教えられてきている礼央はそれを無下に振り払うことも出来ないでいる。

「礼央君は黙ってて! ってか莎子が悪いのよ!」

「そうよ! あいついつも礼央君の周りうろうろして邪魔なのよ!」

「今日こそわからせてやるんだから!」

礼央「さ、さっつんは関係ないよね!? そもそもオレがさっつんと一緒にいたくて──」

「いいの! 何がなんでもあいつをこらしめてやるんだから!」

礼央「そんなの無茶苦茶だよ!」

 言いがかりで莎子へと怒りを向け、今にも殴りかかりそうな勢いの女の子達にある意味狂気を感じる礼央。

 絶対に莎子と会わせたくない、会わせちゃいけないと心に思った時だった。

さこ「……」

 基本的に何か、本当に何か稀な用がない限りは訪れない校舎裏なのだが、偶然そこに莎子が通りかかってしまった。

礼央「!?(ダメだよさっつん! オレのことは無視して、こっちに来ちゃダメだよ!)」

 幸いまだ礼央としか目が合っておらず誰も気づいていないようなので、目で来るなと合図する。

礼央「いたたたたた! ちょ! 痛いよ! さすがに引っ張りすぎだよ!」

 その合図と同時に女の子達同士の論争がヒートアップし、礼央の腕を思いっきり引っ張りあっている。

「あんた礼央君にくっつきすぎなのよ!」

「あんたこそ離れなさいよ!」

──ぺちんっ──

「!?」

 莎子は女の子達の頬を叩いた。

 状況をみかねた莎子は、礼央の忠告を無視して、礼央達の方へとやってきて次々に女の子達の頬を叩いていく。

「いったー!!! 何するのよ莎子!!!」

 手加減はして叩いているのだが、女の子達は大袈裟に痛がり、莎子を睨み付ける。

「あんたいい加減にしなさいよ!!!」

さこ「いい加減にするのはあんた達でしょ?」

「はぁ? 言いがかりはやめなさいよね! 礼央君だってあんたに近寄られてうんざりしてるんだから!」

さこ「その礼央が痛がってるけど?」

「へ?」

 女の子達は振り返り礼央を見ると、痛そうな顔をした礼央がいた。

さこ「あんた達礼央なら何しても怒らないって思ってるんだろうし、礼央は優しいから怒らないんだろうけど、痛がってるし嫌がってる礼央をほっとけない」

礼央「!?」

 女の子達はみるみるうちに顔を真っ赤にしていく。

「お、覚えておきなさいよ!」

「うわあああん! 礼央君に嫌われたー!」

 怒りながら立ち去る子、泣きながら立ち去る子様々な子がいたが、皆その場から去って行った。

さこ「全く、わけわかんない。礼央大丈夫? あーゆー時は女の子にも容赦なく言って良いんだよ?」

礼央「うん、わかった。ごめんね、ありがとう」

 その時礼央は胸が熱くなるのを感じた。


礼央「……本物のさっつんを探さなきゃ」

 そう決意した礼央は、莎子に囲まれながら周りを見渡す。

さこ「……」

 すると一人の莎子と目が合う。その“さっつん”だけは礼央に群がる“さっつん”とは違った。

 こちらをちらちらと気にしてはいるが、なんだか心配そうな困惑した顔をしている。

礼央「皆ごめんね」

 そう言って礼央は周りの莎子達を優しく退かし、その“さっつん”の前へと行く。

礼央「ごめんね、さっつん。迎えに来たよ?」

さこ「礼央……。よくわかったね」

礼央「最初は困惑したけどすぐに分かったよ。オレがさっつんを分からないと思う?」

さこ「ふふ、何それ」

 莎子は少し頬を染めて笑った。

 その瞬間周りの暗闇が溶け出し始めた。

礼央「これは……」

さこ「暗闇が……」

礼「ん? オレは何してたんだ?」

礼央「礼! 良かった、正気に戻ったんだね!」

礼「なんかすげー悪い夢を見てた気がする」

みき「皆!」

紅龍「なんだ? 元に戻ったのか?」

一夜「……」

 暗闇が完全になくなった頃、周りの景色も、皆も元通りになった。


さこ「あたしのせいで皆を嫌な目に合わせてごめん」

紅龍「貴様だけのせいではない。元はと言えば礼が──」

礼「わーーー!!! 何はともあれ皆無事で良かったじゃん! な!? 一件落着!」

みき「はぐらかそうとしてもダメだよ、礼?」

さこ「何? なんの話?」

礼「いや、あの、えっとー」

一夜「リレパの集中をそいつが邪魔したんだよ」

さこ「は?」

礼「いや! だってさ! さっつんが反応しないなんて滅多にないから面白くなっちゃって……ごめん」

さこ「……」

礼「わー! ごめんね! 殴るなら体にして! 顔はマジやめて!」

さこ「別に殴らないし」

礼「え?」

 絶対に何発か拳をお見舞いすると思ってた一同はどよめく。

さこ「今回はあたしの修行不足って所もあるから、礼だけのせいじゃないし。だから殴らないけど、次回やったら殺す」

 その時の莎子の眼差しはとても鋭く、皆ごくりと生唾を飲んだのだった。


一夜「……」

?『一夜!』

 あのあと一人自室に戻った一夜は考えていた。恐ろしい思いをしたあの時、自分を救ってくれるかの様な声。

一夜「あの時俺を呼んだのは……」

みき『一夜!』

一夜「なんであいつが……」

 訳がわからずそのまま一夜は眠りにつくのだった。


礼央「ふふっ」

さこ「礼央?」

礼央「いや、ごめん。今日懐かしいこと思い出してね」

 皆が各々自室へと戻った後、莎子と礼央は二人テラスのベンチに座って話をしていた。

礼央「小学生の時オレが女の子に囲まれて腕を皆に引っ張られてさ。痛かったんだけど、でも強く怒れなくて、さっつんが助けてくれたことあったよね。それ以外にも色々助けてもらったけど」

さこ「そうだっけ? あんまり覚えてない」

礼央「ふふっ、さっつんらしいね」

さこ「……あたしは礼央に助けてもらった覚えしかないけど」

礼央「ん? 何?」

さこ「なんでもない。おうち入ろ?」

礼央「そうだね」

 そう言って二人は家へと戻って行った。

 二人はなんだかどちらも微笑んでいた気がした。


 ─続く─


次回予告

みき「シリアス終わったねー!」

さこ「笑形にシリアスなんて似合わないのにね」

みき「まぁまぁそんなこと言わず~。次回は日常回らしいよ!」

さこ「いつも日常じゃない?」

みき「次回笑形第九輪!『お化けと不審者は同じくらい怖い』」

さこ「お、ば、け?」

みき「なんだか楽しそう! 次回もお楽しみに~!」


2018,09,12

2024/06/04(最終加筆)

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