スカーレット姉妹
[紅魔館地下牢]
薄暗く、物という物はない。壁にはヒビがあるはずなのに、とても強固で何人たりとも壊し脱出するのは不可能と云われているここ地下牢には、今の幻想郷の頂点であるスカーレット伯爵の娘2人がいた。
ナイトキャップを被り、青銀髪のウェーブのかかったセミロング、ピンクを主体としたワンピースの様なドレスの様な、赤いレースの入った服装。背中には悪魔羽が生えている。まだ幼さ残る顔立ち、人で言えば齢9歳ぐらいにしか見えないがもう何百年も生きてる長女の【レミリア・スカーレット】
同じくナイトキャップを被り、黄色い髪のサイドテール、赤を主体とした半袖とミニスカート、背中からは七色に光る羽根の生えている。童顔で、人で言えばまだ6歳ぐらいにしか見えないが姉とは5歳しか変わらない。次女の【フランドール・スカーレット】
この姉妹は父スカーレット伯爵の命令で幽閉されていた。幽閉は大戦中に幼い2人を敵襲から守る為、強固な地下牢に隠したのが当初の理由だった。だが、大戦が終わった今もなぜか幽閉生活は続いていた。
ガチャガチャ。・・キィー。扉が開いた。
『レミリア様。時間でございます。図書館までご同行願います』
赤髪のロングヘアー、頭と背中に羽根の生えたメイド服の若い女性が深々と頭を下げた。彼女は、紅魔館に仕える魔法使いパチュリー・ノーレッジの使い魔の、【小悪魔】だ。
ここ最近になって、レミリアは毎日パチュリーに呼ばれていた。そしてそこでパチュリーの創りだした魔方陣に乗り、変化を伝える。それの繰り返しだった。妹フランがいつもの様に心配していた。
『お姉様?またいなくなるの?』
『大丈夫よ。いつものようにすぐ戻るわ』
『うん!早く帰ってきて一緒に遊ぼう?』
『分かってるわ。また帰ったら一緒に遊びましょう?』
いつものやりとり、いつもの様に笑顔でレミリアは牢を後にした。今日もいつもと同じ、すぐに終わらせフランと2人、狭い地下牢で遊ぶ・・・・はずだった。
ガチャ。・・・ッ!?
いつもと同じと思い入ったその場所はいつもと違った。
『・・魔女!?これはなに?・・それに』
レミリアの目の前には、長い紫の髪、ナイトキャップを被り、白を主体にした寝巻きの様な服を着た女【パチュリー・ノーレッジ】がいた。
しかし、問題はここからだった。いつもの魔方陣の上に魔力を帯びたであろう拘束具に加え、普段いないはずの主でもあり父でもあるスカーレット伯爵がいた。父に久しぶりに会った喜びより、周りの不穏な空気に怯え、レミリアは父に聞いてみた。
『お父様?これはいったいなんですか?』
主は嬉しそうに笑みを浮かべた
『レミリアよ。喜べ。出来損ないのおまえが、ついに父の為になる日が来たのだ。』
『え?』
主の声と同時に瞬く間に周りにいた兵に取り押さえられ、レミリアは拘束具をつけられた。
『ちょっと!?なにするの!?』
『・・レミリア様、私が説明しますわ。』
パチュリーが周りの兵を下げレミリアに近づく、レミリアは藻掻いて拘束具をガチャガチャしている。
『くっ!魔女!?これはどういうことなの!?』
『レミリア様、貴女様にはこれから偉大なスカーレット家の為、主様の悲願を叶える為、ある実験をさせて頂きます。ご理解を。』
『ちょっと!?だから、どういう意味よ!?』
『今までレミリア様の協力でデータは揃いました。ですが、不確定要素が多く、より確実な実験が必要になります。ですが、実験体にはスカーレット家の吸血鬼が必要。となればと、主様が選ん・・』
ガンッ!!
・・・・・ッ!!?
『レミリア!貴様、主である私の命に背くならば、即刻この場で血祭りにあげるぞ!?パチュリー!貴様は、いちいち話が回りくどい!御託は良い!さっさと始めよ!』
主がイラついた様子で怒号する。レミリアとパチュリーは硬直した。
・・・・・・・・。
『・・かしこまりました・・レミリア様・・お許しを』
パチュリーが詠唱を始めるとレミリアの周りに無数の光が集まった。その瞬間
『きゃああああぁぁ!!』
無数の刃で抉られ、灼熱の業火で焼かれ、巨大な岩で押し潰される。そんな痛みが同時に来るような感覚がレミリアを襲った。
『あああぁぁ!!』
まさに死を超える苦痛。今までのどんな痛みさえもが撫でられていたと感じる激痛。・・・レミリアは薄れる意識の中、自分を見ながら満足そうに微笑んでる主の姿が見えた。
『主様・・これ以上はレミリアの命に関わるかと、一度中止を。』
『ならぬ!急ぎ成功させねばならん!それに替えならまだある。続けよ。』
『し、しかし。』
『くどい!・・貴様も十六夜の様になりたいのか?』
『・・・かしこまりました』
『あああぁ・・?え?おかあ、、さ、ま?・・あぁぁぁ!!!』
(も、もう駄目だ。フ、フラン、ごめ、ん、ね・・・。)
・・・・レミリアの奇声が止んだ・・。
パチュリーが近寄り、心臓の音を聞き、脈を調べる・・・・・・・
『・・主様、レミリア様は絶命しております。』
『して、実験は?』
『・・失敗でございます。』
『チッ。やはり出来損ないでは無理であったか。スカーレット家の恥曝しめ。くだらん。母親に似て最後まで使えぬ奴であったわ。パチュリーよ、準備が出来次第、本命で行え。やつは、そこのゴミより役にたつであろう。ただし、次はないぞ?失敗したら、わかるな?』
『申し訳ございませんでした。次は必ず。・・・・主様。レミリア様の遺体、此方で処分してもよろしいでしょうか?』
『好きにせよ。そんなゴミクズ貴様にくれてやるわ!解剖なり実験なり好きに使え!』
『ありがとうございます。』
主は、兵を連れ図書館を後にした。ガチャ・・バタン!
『・・・・・。こあ!』
『はい?』
パチュリーは小悪魔のことを【こあ】と呼んでいた。
『早く!レミリア様に治癒魔法を!』
『いいから!早く!』
『わかりました!・・・・あーあ、これ、ばれたら私達殺されちゃいますね?』
小悪魔は苦笑いしながら治癒魔法をかけた。パチュリーは、そんな小悪魔には目もくれず治癒魔法を掛け続けていた。
(・・フ、フラン?)
・・えさまー!・ねえさまー!
(フ、フランどこ?何も見えない・・それに体も動か・・あ、そうだ。私、死んだんだ・・・。ごめんね、フラン、そっちには行けないわ・・・)
・・えさまー!お姉様ー!帰ってきてー!
(・・フラン。そうだ。私、帰るって・・約束・・・あ、姉だから・・・妹との約束は死んでも守らないと・・ね。・・・・動け!・・・私の体!・・動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!)
・・・・・・
『フラン!!』
バッ!!
レミリアは起き上がった。そこには自分を殺そうとしてたはずの2人が治癒魔法を掛けていた。
『良かった。間に合ったわ。』
パチュリーがホッとしている。小悪魔は魔力の限界が来てたようで、顔がやつれていた。そして、そのまま倒れ込んだ。
『・・良かったじゃないわよ!殺そうとした後は回復?色々わけわからないから、ちゃんと説明してもらうわよ!魔女!』
『あの状態から起きてすぐにその元気、流石吸血鬼。脅威的な回復力ですね・・・・・分かりました。私の知る全てをお話しましょう・・・それにそのつもりで治癒魔法をしましたから・・・いや、これは言い訳です。私が、もっと早くに話しておくべきでした。』