19歳男性の場合 part15
「そこからの自分の行動は、一切の迷いがなかった。その子の母親に、声をかけて手伝ってもらった。幸いのことにその人は医学に対する知識はあまりなかったから、自ら手首にメスを入れて、大量の血を出して、すぐに父親の元に運ばせた。今思うとすまないことをしてしまったと思う。一人意識が薄れていく中で、頭の中ではその子のことでいっぱいだった。どんな人を好きになるのかなとか、どんな綺麗な女性になるのかなとか、できれば成長していく姿も見たかった。でも、後悔はない。あの子にはあの人が必要で、その人を救うには自分の命が必要だった。拾われたこの命も、この人のために使えるし、そして何より、生まれてまだ4年しかたっていないこの子の未来のためになるって思っていたから。その子はその後どうなったかはわからないけど、きっと・・・。」
自分が話していると、しおりは自分の席を立って、近づいてくる。そして、何も言わずに自分の首に腕を回した。
「やっと会えた。世界で1番会いたかった人。やっと、やっと・・・。」
突然のことだったので、あまり頭の整理ができない。何も言わない自分に対して、しおりはこう続けた。
「思い出してください。あなたがつけてくれた名前です。しおりって。伯斗さん。ううん。お義兄ちゃん。」
その時、自分の頭の中にどうしても思い出せなかったものが映画のフィルムのように流れ込んできた。自分は何も言えずに、ただ、自分の方で泣いているしおりを強く、離さないように抱きしめた。自分の目には自然に涙が流れた。戸惑いの中に、喜びと悲しさが溢れてきた。そうだった。しおりだった。




