19歳男性の場合 Last part
しばらく時が流れた。何もなかった時間。ただ感じるのはしおりの温もり、着ていた自分の服が湿っていく感覚だけだった。時間のない自分にはもったいないかもしれない時間かもしれない。でも、そこにはもっと長い時間を埋めるくらい、溢れ出す感情があった。いつも以上に世界は色づき、自分の最後の時を見送ろうとしてくれているようだった。
「そうなのか。会えたんだ。いや、一緒の時間を過ごせたんだな。綺麗になったな、しおり。」
言いたかったこと、言わなきゃいけなかったこと。溢れる想いも、何もかも。伝えたかった。でも、多くは語らなくともきっとしおりはわかってくれる。そんな気がした。
「よく顔見せて。」
自分はしおりの顔に触れた。自分の中には恋愛感情ではなく、もっと大きなものがしおりに対して生まれた。会いたいと願っても、きっと会うことはできない。探しても膨大な天界の人口で見つかるわけがない。諦めていた。でも、その人が目の前にいる。手に触れることができて、想いも繋がっている。こんな嬉しいことはない。溢れ出す自分の想いは、口と口が重なることでしおりに伝えた。しおりはそれを拒むことなく受け入れた。
唇が離れると、おでことおでこを合わせて、しおりがいう。
「一応兄弟なんだよ?私たち。」
「関係ないさ。血は繋がってない。しかも、ここは天界。そんな壁はない。」
「そっか。嬉しい。」
自然に笑みが溢れる。心から笑うことなんて今までなかった。
「そろそろ、時間かもな。」
自分に残された時間はない。手に力が入らなくなってきていた。でも、なんだろう。特別恐怖はない。ちょっとした充実感もある。
「最後、しおりとまた、会えて良かった。このために生きてて良かった。強いていうなら、もう少しの時間だけ、一緒にいたかった。もっと色々なところに行って、色々なことを経験して、一緒の時間をたくさん過ごして。叶わない夢かもしれない。でも、こうして、一緒の時間が過ごせて幸せだった。愛してるよ。しおり。」
自分は残る力を振り絞って、しおりに伝う雫を拭う。
「笑って見送ってくれるか?しおりの笑顔が好きだから。」
しおりは赤い目を擦って、精一杯の笑顔を見せてくれた。最後まで、自分の手は愛しい人の頬にあった。最後に感じるこの温もりに精一杯の愛情を伝えて。
次がエピローグになりまして、それで完結となります。




