32歳女性の場合 part18
弱々しく少しずつ私は顔を上げた。
「大丈夫だった?びっくりしたよ。知らない人に絡まれてんだもん。」
彼は優しく私に微笑みかける。彼の腕には筋肉の筋が出ていた。私の前では笑ってくれているが、心の中ではグツグツ煮えたぎるものがあるみたいだ。
「ちょっと、邪魔しないでもらえますか?私たちの問題なので。」
「そうですかね?自分には嫌がらせをしているようにしか見えませんでしたし、あんな大きな声で話していたら周りの方々もいい思いはしないでしょう。それに彼女の顔を見たら放っておけるわけないじゃないですか。後ろにいる男性の方も止める気は全くないようですし。」
「あんた関係でもあるの?部外者が黙ってなさいよ。」
「関係は大有りですよ。自分は薫さんの後輩で、今はどこかの誰かに追い出された彼女を家に向かい入れてるんですから。」
宗介は後ろにいる蓮に向けて睨みつけるように視線を向けた。その視線を感じると蓮は視線を逸らして、腕組みをした。
「もう関わらないでもらえますか?あなた方がいると迷惑極まりない。せっかく新しく歩みを進めようとしている先輩の邪魔でしかないので。」
「随分この女の肩を持つじゃない。もしかして、そういう関係なの?」
「そうですね。悪いですか?」
「なかなかやるわね、この女。やってること変わらないじゃない。」
「そうでしょうか?後ろにいる顔だけの男を奪うために妊娠したと嘘ついてまで奪ったあなたほどではないと思いますよ。それに薫さんはずっと一途に後ろのトンデモ男のこと思ってましたよ。昨日までは。」
宗介の口から出た驚きの一言に私と蓮は戸惑った。女の顔は青ざめていた。
「おい、どういうことだよ。」
蓮はこの女のことを問いただす。女は何も言わずに宗介の腕を振り解いて、逃げるように去っていった。
「よかったです。薫に怪我がなくて。」
「さっき言ってたことって本当なの?」
「ああ、妊娠していないってことですか?おそらくですけど、あの気の変わりようおそらくそうだと思いますよ。血圧も妊娠しているわりには低すぎですし、話を聞く限り妊娠初期にしては体温も低いですから。大学で学んだことが役に立ちましたよ。家の事情で途中、学部を変えたので、医師免許はないですけどね。触ったら体温と血圧ぐらいは経験上わかりますよ。」
「そうなんだ。」
「おい。お前どういうことだよ。」
戸惑っている様子の蓮が話しかけてきた。
「言った通りですよ。帰って彼女に確認してみてください。偽装くらいいくらでもできますから。あんたを奪ってから子供を作ろうとか、もし子供ができなかったら流産したとでもいうつもりだったんでしょうから。さっさとどっか行ってください。邪魔ですから。」
蓮は膝から崩れ落ちた。すると、私に向けて、
「なあ、あいつの嘘だったんだ。やり直さないか?」
周りにはギャラリーも相当いる。よくこんなことが言えるな。
「あんた何言ってるのか・・・。」
私は宗介の言葉を遮り、彼の前に行った。
「やり直してく・・・。」
乾いた音が大きく響いた。




