32歳女性の場合 part16
今日は平日とはいえども、かなりの人がそこにごった返ししていた。大学生らしい若いカップルだったり、文化祭の買い出し中の制服姿の高校生くらいの人、ため息をつきながらおそらく営業が失敗した感じの若いスーツ姿の社会人もいた。
「大変そうですね。」
彼はその社会人を見てつぶやく。
「同じような仕事してるから余計にそう感じるかもね。」
営業の仕事は事務的なものよりも顕著に成績で差が出てしまう。商談成功の数が目に見えてわかってしまうからだ。私も、新人の頃は全く相手にしてもらえなかった。老舗の年齢のいった老害には女だからと言って、話すら聞いてもらえなかったこともある。そうした輩にはとことんしつこく付き纏った。私の経験上、こういった人間はめんどくさがりが多いので最終的には契約をもらえた。その老舗は後々その人の問題行動が出て業績が悪化して、時代に潰された。まあ、私としては契約を取れたことで社内での評価も上がって、担当が変わって合わなくて良くなったので別に気にしてない。そういえば、宗介は入社してすぐに何個も契約を取ってきていた。
「宗介は最初から優秀だったから。」
「そんなことないですよ。僕だって、新人の時は緊張して出してくれたお茶も何度もこぼしてましたから。ガラスの扉に頭をぶつけて笑われてこともありましたよ。」
彼の営業成績がいいのは、おそらく愛嬌だと思う。人のテリトリーに入っていくのがうまく、入ってこられても嫌な感じが一切しない。持って生まれた性格のあれば女性が怖いということもあってオドオドしてしまう。そういうところも可愛く思えてしまうのだと思う。あと、できないけどその仕事に対して真剣に向き合って、いろんな職業に興味津々なのも、彼の大きな武器。よく一緒に営業先を回るのだが、彼と行く時だけはみんな笑顔で送ってくださる。
人混みをかき分けながら、生活に必要なものを買い揃えていく。手持ちがあまりないのでできるだけリーズナブルに抑えたい。女性の買い物の中で高くなるのは大体、服と化粧品。ここをどれだけ安く抑えるかで勝負がきまる。いつもならブランドものの化粧品を使っているのだが、この前百円ショップでいい化粧品があるとテレビで紹介していたので化粧品は全て百均で済ませた。これは明日、つけてからのお楽しみ。服は某有名なメーカーが安くて質の良いのがあるのでそこで一式揃えた。下着くらいは良いのをつけたいので、宗介の好みも聞きたかったが一緒に入るのを拒否されたので彼が好きそうなのを想像して選んだ。
一通り買い物を終えると、
「そうだ。僕も買いたい物があったんで買って来ますね。」
「それなら付き合うよ。」
「いいえ。荷物も多いですし、ここで待っててください。」
そういうと彼は、小走りでどこかへ行ってしまった。突然一人取り残される形になったので、少し寂しい。
「あれ?薫じゃない?」
私が俯いていると、聞きたくもない、最悪のやつの声がした。




