32歳女性の場合 part15
10分くらいたっただろうか。彼は泣き切ったのか、私の胸から顔を離した。
「すいません。カッコ悪い姿見せちゃいました。」
「そんなこと気にしないで。私も、昨日宗介に弱い部分見せたからお互い様。辛いなら泣けばいいし、面白かったら笑えばいい。感情を出せるって素晴らしいことよ。それに私は、そんな宗介が好きになったんだから。」
宗介はその言葉を聞くと、赤い目を擦りながら、照れているのか、私から目を逸らして立ち上がり、コップを持って冷蔵庫に向かった。そんな彼のことを可愛いなと思いながら、自分もコップに注がれているミネラルウォーターを口にした。
キッチンから戻ってきた彼が話しかけてきた。
「この後買い物行きませんか?さっきの買い物じゃここで一緒に暮らすなら全然足りないと思うので。」
「本当にここに住まわせてもらっていいの?」
「遠慮なんてしないでください。恋人がいま家がないならここで一緒に暮らすっていう選択肢しかないと思いますよ。」
「付き合ってからいきなり同棲か。まあ、宗介ならいいかな。お互い知ってる仲だし。それにしばらくはここでお世話になる予定だったしね。でも、本格的にここで暮らすってなったら、布団とかも買わなきゃいけなくなるから、相当な荷物になると思うんだけど、移動手段はどうするの?」
「それは問題ないですよ。僕結構大きめの車持ってますし、流石にベッドとかは入らないので、寝るときは一緒じゃだめですか?」
チワワみたいな目で私のことを見つめてきた。そんな目を見て断れるわけがなく、
「仕方ないけど、まだそういうことは禁止ね。」
「そういうことってなんですか?」
年頃の男がそういうことを知らないわけがないと思っていたが、彼の頭の上にははっきりと?が見えた。嘘でしょ。本当に知らないかもしれないと彼の表情を見て思った。
「宗介もいい歳なんだから、女性に興味持ったりしてこなかったの?」
「だからさっき言ったじゃないですか。女性は僕にとっては恐怖の対象でしかなかったんで、女性のことを好きになるのが初めてだって。」
「それでも・・・。」
「ああ、わかりました。言いたいこと。でも、今はそういうことはしませんよ。真剣に、純粋に、薫といたいんで。」
彼の言葉に嘘はなかったと思う。そういう関係じゃなくて、ずっと一緒にいたいと心の底から言っていると感じた。その言葉が純粋に嬉しかった。
「この話はもうおしまいにしましょう。さっさと買い物行かないと帰る頃には真っ暗になってるかもしれないですし。」
「そうだね。」
彼は一つの部屋に私を連れて行った。ここが私だけの部屋らしい。見られたくないものや、私物はここにおいていいらしい。足りなかたら隣も使っていいということだったが、前の彼氏と住んでいた時の自分の部屋よりもかなり広かったので問題なかった。私たちはそれぞれ自室で着替えを済ませて、駐車場にある彼の車でさっき行った大型スーパーではなく、少し離れたアウトレットのような商業施設に向かった。




