26歳男性の場合 part21
「起きてください。まだ時間はありますが少しお伝えしたいことがあります。」
聞き覚えのある声で自分は起こされた。時計は深夜の2時。母さんでないことは確か。仕方なく自分は体を起こし眼鏡をかけて、その2人の存在を確認した。
「誰ですか?」
「思い出せてないみたいですね。記憶の中に少しだけ混乱が生まれているのかもしれません。少し、時間がかかりそうなので、お子さんを起こさないためにも、少しだけ一緒に外歩きませんか?」
「わかりました。」
自分はパジャマを着替えて、その人たちに連れられて、玄関の扉を開けた。
「えっ?」
驚いた。玄関の外は、今日、創と行った水族館だった。
「どうしましたか?いきましょう。一応、鍵は持っていってください。」
戸惑っている自分の背中を男の方が強引に押した。その男はまだ学生のような姿をしていて、あまり力が強いような容姿ではなかったから、思いも寄らない力に足を崩してしまった。自分が尻餅をついていると男が、
「そんな時間あなたにはありませんよ。もう数時間でこの世界はおしまいです。あなたが作った世界はね。」
男の言っていることの意味がわからなかった。ただ、少しだけ頭の中でチクッと痛みが走った。
「これでも思い出せませんか。なら、少し時間をかけますか。どうせなら、誰もいないこの水族館の中歩きませんか?」
男に誘われるがまま、誰もいない深夜の水族館を歩く。もう1人の女性は男の一歩後ろを歩いている。
「あなたは何者なんですか?」
「そうですね。そろそろお話ししましょうか。立っていてもなかなか話が入ってこないと思うので、どこか座れる場所がいいですね。知りませんか?」
「ならこの先にイルカショーの会場があります。」
男たちは自分の案内でイルカショー会場に向かった。
「じゃあ、あそこにしますか。」
自分たちはベンチのようなところに腰を下ろした。
「では、まず自分たちは何者なのかを話したいと思います。自分たちはいわゆる天国というとところの住人です。私は裁判官をやってます。彼女は私の秘書です。主に、自殺を扱う部署です。」
「・・・。」
「もう、思い出してるんじゃないですか?この水族館に入った時に私の力を体感した時に。」
「はい。思い出してました。あの時、もしかしたら夢なのかもしれないと思って、現実を受け止めるまで時間をかけてました。」
なんとなく、覚えていた。思い出さないようにしていた。
「もう期限の1日なんですか?」
「そうです。もう少しであなたの1日が終わります。」
「そのあとはどうなるのでしょうか?」
「消えます。存在そのものが。記憶もです。」
「そうですか。」
意外と心の中は冷静だった。さやかを亡くした時よりも、自分が消えることの方が気分的には楽だから。
「そうなると思っていました。あなたは賢い方だ。最初の説明の時にもおそらく予想がついてたんじゃないですか?」
「はい。裁判で刑罰を受けるのにあまりに罰が優しすぎる。死んだ人間にとって報酬のような罰でしたから。」
こんな上手い話があるはずがない。最初から思っていた。
「少しだけ、時間をいただいたのはあなたに渡したいものがあったからです。」
男は秘書の女性から紙を受け取った。
「あなたの奥さんからの手紙です。お会いさせることはできません。この世界が消えると同時に彼女の頭の中からあなたの存在そのものが消えます。でも、手紙くらいなら渡すことはできます。この水族館の入り口とあなたの寝室を繋げました。私たちはここであなたとお別れします。好きに最後の時間を過ごしてください。さようなら。」
2人は少しずつ姿を消していった。自分は2人からもらった手紙を急いで開いた。そこには紛れもなくさやかの字で書かれた手紙だった。




