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11話:ファロンの受難

女神パート。

濡れ場ではないです。

私は、ファロンの帰りを、待ちます。


今見えた、ファロンの視点での出来事。


何も、何も理解が出来なかった。


あの女は、何を考えているのですか?


話の流れがわかれば、ある程度理解は出来ましょう。彼に預けた私の意識を回収すれば、預けてからの出来事を全て共有することが可能です。


なので、それまで、待ちましょう。






頭を抱え、涙を浮かべながらファロンが帰って来ました。


「嫌だあの人…、もう関わりたくない…」


随分と酷い目にあったようです。


「さぞ、大変だったでしょう」


「もしかして、見ておられましたか?…面目無い。あのような事になるとは…」


「…私も全てを見た訳ではありません。ずっとあの醜態を見続けるのは、頭がおかしくなりそうだったので」


ファロンをほどほどに労ったら、嘘の呪いを付け直し、私の意識を回収させてもらいました。


そうして見えたものは、あまりにも酷いものでした。






ファロンは私と別れ、ミレーヌの家へと足を運びます。ドアをノックし、ミレーヌの両親に導かれ、彼女の部屋へ。彼女がドアを開け、両親は居間へと戻る。


「…本当に、王子様ですか?」


ファロンを見るや否や、か細く、しかし希望に満ちた声でミレーヌが言いました。涙を浮かべています。


ファロンがそうだ、と答えると、部屋に入るようにミレーヌが促しました。


入った途端、ミレーヌはファロンを急に抱きしめ始める。


「ご無事でよかった…!記憶を無くされ、行方不明になったと聞いた時は、もう心配で…!」


「…あれから、極秘に女神様の祠を転々としているんだ。記憶を無くしても、大罪を犯してしまった事には変わりないからね。記憶を取り戻し、きちんと罪を償うために、女神様のお力をお借りするんだ…」


良い嘘です。追求されてもボロの出にくい、真実と嘘を織り交ぜた言葉。


「そんな…大罪なんかじゃありません!王子様は何も悪くはないのです!悪いのは姫様なのです!姫様があんなだから、皆、手を汚すしかなかったのです!」


泣きながら何を言ってるいるのでしょうこの女は。


上手く隠していますが、この時ファロンは怒っていたようです。


「…詳しく教えてもらえるかい?」


「はい、もちろん…!王子様のお役に立てるならなんだって致しますわ!…そのかわり、私からも、些細なお願いがあるのですが…」


そう言って、ミレーヌはファロンにもたれかかる。弱々しく、愛らしく。涙を浮かべて。ボタンを外し、誘うように。


「王子様、私とても寂しいのです。勇者様も失って…。だから…、ミレーヌを、慰めてもらえませんか…?」


あの時見た、この場面。いつ見ても失笑を覚えますね。こういう経緯でしたか。自己中心にも程がありませんか?


「…僕は本気で、自分の罪と向き合うつもりでいる。こんなことはやめてくれ」


「こんなことって…、酷い…」


そう言ったあと、小声で、しかしファロンに聞こえるように、


「でも、そういうところも私は好きです…」


とのたまった。


耳を疑ったファロンが聞き返すと、うろたえるように何でもないと言い、ミレーヌは話を戻した。


「あの、それより、儀式までの間のことをお教えしますよ!ささ、座ってください!」


そう言って、椅子を差し出し、ファロンを座らせた。






話す内容は、それはそれはお粗末なものだった。


ミレーヌや勇者の仲間達は姫に虐待を受けていたとか、王子や勇者の前ではいい子ぶっていたとか、とにかく姫の印象をとことんまで悪くするような嘘ばかりついています。私も王子も、いつも姫を見守っていた。それが嘘であることもすぐにわかります。


そんな悪逆な姫は、悪事を働く時は証拠を何一つ残さないというので、困り果てていたそうです。そして、王もまた、娘の蛮行に頭を悩ませていたとか。そんな折、厄災を蘇らせるという話が出て、姫に罰を与えるために、彼女を生贄にしたということ。


それらを、涙交じりに、悲痛な顔で語る。


おかしいですよ。そんなすぐにバレるような嘘をよく平気でつけますね。


「この話をしても、勇者様は取り合ってはくれませんでした。あの方は、お国のことばかりで、私達のことなんて二の次でしたから…。ですがあなたは、私達の味方をしてくださったのですよ」


そして、頰を染め、見つめる。


「私には特に優しくしてくださって。いつも慰めてくれて…。…ふふ、あの夜、あなたのお部屋で私を抱いてくださったことは、私にとって一番の幸福でした。あなたが心の支えになってくれたからこそ、こうして今も生きていけるのです」


祭祀場からは見ることしか出来なかったので、城内を見るだけ見てましたが、そんなこと一切ありませんでしたよ。


「それに…。お医者様が、言っておられました。私のお腹に、小さな命があると。…あの時の、あなたとの子供です」


愛おしそうにお腹さすってますけどそんなこと一切ありませんでしたからね。


ファロンが、完全に思考を停止してしまったようです。よほどショックだったのでしょう。


「…記憶を無くされていますから、急に子供の話をされても、迷惑でしたよね…。でも、私、待ってます!王子様が記憶を取り戻したら、きっと、結ばれましょうね…?」


「あ、あぁ、そうだね…。その時が来るまで、僕も努力するよ…。教えてくれて、ありがとう」






ミレーヌの家を後にし、気が抜けたファロンは、とてもぐったりしています。無理もありませんね。


ですが、彼はそれだけでは退かないようです。


自らに隠密の魔法をかけ、家の前でジッと待ちます。


ミレーヌが、部屋の窓から出てきました。彼女も隠密の魔法をかけ、周りから姿が見えないようにしています。


本来なら、お互い認識することが出来ません。


ファロンは高位の魔術師ではありませんが、私の意識が彼に入っているのを利用して、私の意識を自らの目に集中させ、私と同じ目を一時的に手に入れたようです。この目であれば、隠された物を見抜くことが容易です。


…彼にこんな才能があったとは。


ミレーヌが窓から飛び、どこかへ行こうとしています。それを、ファロンは追うようです。





辿り着いたのは、怪しげなバー。今は夕方なので、こういった店は開店準備をしているところのはずですが、この店は閉まっています。


ミレーヌが建物に入ると、扉が消えてしまいました。建物の中に誰も入ってこられなくなります。この建物には、内緒話をするのにうってつけな術式、結界が張ってあるようです。


ファロンは、建物の前に立ち、私の目を使って中の様子を覗きます。





そうして見えた景色は、想像を絶しました。


ここは、闇医者の診療所。免許を持たない診療所の主は、ミレーヌの友人のようです。


血なまぐさいこの場所で、ミレーヌは横柄にくつろぐ。


「マッティー!お茶!お茶出してよ!」


その友人はマッティーというらしく、痩せて虚ろな目をした、ミレーヌと同じくらいの歳の女でした。


「…ミレーヌ。あたしにだって仕事ってものがあるのだけど」


「知らないわよ、あんたの患者なんて皆ろくでなしの馬鹿ばっかりじゃない!多少死んだって誰も咎めやしないわ!」


今まで見てきた彼女とは、性格というものが違います。


「お茶くらい出してくれたっていいでしょ?昔から才能無かったあんたと友達でいてあげたのは誰だと思ってるの?あたしだって外では皆の為に優等生として振る舞うの大変なんだから、少しは労ってよ!」


周りの粗雑な家具の中に、一つ質のいいソファがありそこにどかっと座り、友を罵る。


マッティーは一つため息をつき、麻酔がかかった患者を台で寝かせたまま、ミレーヌの為にお茶を入れました。


「…はい、どうぞ。それで、勇者の死体は見つかったの?」


「もう全然ダメ。祭祀場から消えてから4日経ってるでしょ?なのに王国中を探してるみたいだけど手がかり無しだって。魔物達に祭祀場のおばーちゃんも攫われちゃったみたいで、最近人手も足りないんだってさ。もうちょっとちゃんと探してほしいわ。おばーちゃんなんてどうでもいいじゃない」


お茶を飲みながら、ぐちぐちと喋り続ける。


「最悪よね!本当なら今頃は、勇者様の死体を女神様に蘇生してもらって、二人で幸せに暮らしてたのに!あの目障りな姫がいなくなって、ようやく勇者様を手に入れられると思ってたのに…」


相当悔しがっています。ミレーヌは本当に私が何も知らなくて、勇者の死を哀れんで蘇生させてくれると思っていたのでしょうか。


あぁ、なんと浅ましい。


「どうするの、あなたも探しに行った方がいいんじゃない?」


「はぁ?私が探してないと思ったわけ?信じられない!私だって寝る間も惜しんで探してるわよ!それでも見つからないの!…もう疲れちゃって。見つかりそうもないし、このまま見つからなかったら、王子様で妥協しようかなって」


マッティーは頭を抱えている。この辺りで、ファロンは吐き気を催したようです。


「あんた…、王子って第二王子のファロン様のこと?どうして急にそんな話が出てくるのさ」


「今日、王子様が私の部屋に来てくれたの。記憶を失ってるって話だったから、あることないこと吹き込んでやったわ。それで、あなたとの子供が出来たのよ、なんて言ったらびっくりしてて。信じて貰えなくても別にいい。子供の話で脅してでも結婚してやるわ」


この話を聞いたファロンはうずくまり、頭を抱えて呻いています。


「…ここに来た理由は、そういうこと」


「えぇ、ファロン様の髪の毛を持ってきたわ。それと私の体の一部を使って、偽物の子供を作ってほしいの。ちゃんと育たなくたっていいから、見た目だけでも完璧にね。ファロン様に認めてもらえなかったストレスとか、そういうので流産したことにすれば、責任取って結婚してくれるわよね」


「…それを作って、あんたの腹の中に入れて、そんなやり方で本当にいいの?そうやって結婚して、あんたは本当に幸せになれるの?」


ミレーヌはそれを聞いて怒り出したようですが、ファロンはもう限界。


この辺りで帰って来ました。






「よく、頑張りましたね。えぇ、本当に」


意識を共有した私は、思わずこうこぼしました。


共有し、私が理解するのには3秒とかかりません。…この話を、実際に経験することと、瞬時に全て読み取ること。私でも、前者の方が最悪であることは言うまでもなくわかります。


「あの女が出かけること、どうしてわかったのですか?」


「…彼女は本当に、絵に描いたような優等生でした。そして、マッティーという者のような劣等生とも、分け隔てなく接していたようなのです。そのマッティーと彼女が、最近よく会っているらしいというのを式典の時に耳に挟んでいたのです。それを、彼女の家を出た時に思い出しまして、ああして後をつけてみたのです」


そう言うと、ファロンはもうこの話をしたくないとばかりに目を逸らしました。






私ですら頭の痛い話です。


もう終わらせてしまいましょう。


身勝手に姫を恋の邪魔者として陥れ、勇者の命と心すら弄ぼうとするその性根。恋い慕っていた勇者すら手に入れられないと分かれば、平気で他者を魅了し、騙し、我が物にしようとする。

その愚かな情欲こそ、あなたの罪。


あなたへの復讐の方法は、決まりました。


今、会いに行きますね。

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