12話:魔術師ミレーヌ
ミレーヌのお腹がぐちゃぐちゃに。
私は、マッティーという闇医者の女のところへやってきました。
ミレーヌは既に帰宅しているようです。
「…あんた誰?どうやって入ってきたの?」
マッティーは驚いて、しかし気だるげにそう言いました。
「あなたが作っているミレーヌの子供をもらいにきました」
「なんでそんな事まで知ってるわけ?」
どうやらマッティーを警戒させてしまったようです。彼女は私との間に障壁を作り、これ以上入ってこられないようにするつもりのようです。
私は障壁をこじ開け、交渉を続けます。
「この障壁、王族の警備用の強固なヤツなんだけど…?」
「私はミレーヌに復讐がしたいのです。そのために、その子供を使いたいのですが、どこにありますか?」
「…あんたみたいなめちゃくちゃなヤツにこんな事言いたくないんだけど、…作ってないよ、そんなもの」
マッティーはため息混じりにそう告げました。
「あんたはきっと作らなきゃいけない経緯も知ってるでしょ。ミレーヌが王子を騙すためだって。…あたし、あの子にそんな事させたくないんだよ」
「困りました…。自分で作るには材料が足りないのですよね…」
マッティーはとても疲れた顔をしています。私の事を鬱陶しく思っているようです。
彼女は少し考えて、言う。
「…復讐。きっとミレーヌが自分勝手な考えであんたや他の人を傷つけたんでしょ。それに、子供なんてもの使おうとするんだから、とても大切なものを傷つけられた復讐ってとこじゃない?それじゃあ悪いけど、あんたが手を汚す必要はないよ」
手を汚す必要はない、とは?
彼女はミレーヌを庇うつもりなのでしょうか?
「…どういうことですか?」
「だってそうでしょ?あんたみたいな被害者が、あの子のために犯罪者になっちゃいけない。…あの子をあんなにしてしまったのは、あたし。責任を取らなきゃいけないのはあたしなんだよ。だから、…あんたが汚れてしまう前に、あの子はあたしが殺す」
まぁ、なんということでしょう。
あの女はそこまで愛されているのですね。あんなに横柄な態度をとっても、友人に責任を取ってもらえるなんて。
それとも、マッティー。あなたが優しすぎるのでしょうか。優しいから、あの女の罪でさえ背負ってしまえるのでしょう。
なんて素晴らしい友情なのでしょう。
ですが、これは私の復讐。あなたが殺すなんて許しませんよ。
夜中。拠点の倉庫内で、拐ってきたミレーヌを、手術台を模した台に縛り付けます。まだ眠っていますね。
私の側にはマッティーも一緒です。
「ねぇ、あんたの家で殺して本当にいいの?あたしのとこでやった方がきっと死体の後処理も楽だと思うんだけど」
普通は、殺した死体は見つからないように燃やしたり隠したりするものでしたか。そういえば、ここはそういった後処理には困りそうにないですね。しもべにもなるし、実験台にもなる。バクちゃんに食べさせてもいいですね。
「ただ殺すわけではないのです。ミレーヌには私の拠点でしばらく生きていてもらわないと。彼女はただ死ぬだけで許せるほどの罪を犯してはいないのですから」
「…あの子、何やったの?」
「私の大切な人を、二人、死に追いやりました。一人は、儀式の生贄として無残に殺され、もう一人はその罪を着せられ、処刑されました。処刑された死体を回収して、生き返らせて自分のものにするつもりだったそうですよ」
そう言うと、マッティーは何やら納得したような素振りを見せました。
「んん…」
どうやら、ミレーヌが起きたようです。目を開け、ほんの少しぼうっとし、状況が飲み込めたのか、驚いて、拘束を解こうと必死に暴れます。
「な、なによこれ!どうしてこんな、…あ、あなた、マッティーよね!私を一体どうするつもり?!」
怒りを含んだ叫びを受けたマッティーは、ミレーヌから目を逸らし、つらく、苦しそうな顔をしています。
「見ればわかりませんか?あなたは台の上、私達は手術用の服を着て、横には沢山の器具がある」
「あなた誰よ…!ねぇ、こんな事してただで済むと思ってるの?!私は勇者様の仲間なの、死ねば国中があなたを追うわ!きっと処刑されるわ、わかってるの?!」
がちゃがちゃと、よく喋り、よく暴れること。
勇者と共に過ごしていたあなたは、とてもいじらしく、可愛らしい人でした。勇者に恋をして、恋のライバルである姫に負けないよう、人知れず努力していたのを知っています。そんなあなたが、どうしてここまで醜くなってしまったのでしょう。
「あなたに裏切られ、処刑された人間がいます。処刑された人間は、生き返らせることが出来ません。それはどんなに女神に愛されていても。…どんなに私が、愛していたとしても…!」
「は、どういうこと…」
私達の会話を、マッティーが止める。
「…術前に、それ以上喋らないで。あんたが傷つく。聞きたいことがあったら、あとであたしが聞いておくから。ほら、始めるよ」
私は、皆がどういう気持ちで姫と勇者を殺したのかが知りたいだけ。ですが、協力者がそういうならば、任せましょう。大体はわかりましたし。
これより、手術を始めます。
本当は手術でなくてもよいのですが、麻酔なし、鎮痛魔法なしであれば充分拷問足りえますものね。
まず、生命保護の魔法をかけます。この部屋の中では死ぬことが出来ません。ファロンにかけた不死の祝福と違い、傷がたちどころに治るということはない、延命用の術式です。
そして、ミレーヌに魔法を使えなくする魔法をかけます。魔力の巡りを邪魔してやるだけの簡単なものです。
強い酒のようなものをミレーヌの腹にかけ、清潔な布で吹き、準備完了。
マッティーの指示に従い、腹を開いていきます。
「いだッ!…い…っゔぅ…!」
腹を開き、目的の臓器を探します。手が臓器に当たるたび、ミレーヌが呻き、吐気を催したりする。
「もうちょい下、…そうそれ」
目的の臓器、子宮を見つけました。
「今からあなたのお腹にこれを植え付けていきますよ」
痛みに悶えるミレーヌに、ある物を見せました。種子状になった原種スライムを、さらに改良したもの。胎児の要素を入れ、生きた人間を養分として寄生し、成長することが出来るようにしたものです。生きていますので、うぞうぞと動いています。
「何、これ…。いや、やめて…!」
子宮を開き、植え付けます。マッティーの血管や神経に、原種を縫い合わせていきます。私は、人間の神経や血管などというものの知識がほとんどないので、マッティーの指示のまま、手術を続けます。
ミレーヌは傷口の痛み、施術の痛みに、絶えず苦しんでいます。
「いやぁああ!ぃギ、やだ、やだぁあ!!やめでぇ!ヒぅ、ぐ、うゔゔ!!いだいぃ!ゃああ!やめでよぉお!!」
原種を縫いつけようとすると異常に暴れ出したので、マッティーが上体を抑えて止めています。
暴れるので、他の臓器も傷つけてしまいます。
「やめで、マッティー!!いままでのことぜんぶあやまるから!あやまるからぁあ!!もうやめて、ゆるじでぇええ!!」
「…違うんだよ、ミレーヌ。もう、だめなんだ」
もう、彼女は命乞いと痛みに悶えることしかしなくなりました。
悲痛に喘ぐ声を尻目に、手術は円滑に進んでいます。
手術は無事、終わりました。お腹の傷も縫合し、あとは彼女の手足を落として一緒にプランターに入れれば終わりです。
彼女も動かなくなりました。ひゅーひゅーと、声にならない音を出しながら呼吸をしています。
私達が少し気を緩めた瞬間、ミレーヌが突如消えました。
部屋の入り口に現れ、走って外に逃げ出そうとしています。縫合したところから、血がしたたっています。
この倉庫は、廊下を抜けるとすぐ庭に出るのですが、現在庭には勇者を待機させています。本当はマッティーが私を裏切った時のために置いておいたのですが、いい位置なので使いましょう。私達はゆっくり追いかけます。
ミレーヌが勇者を見つけたようです。
「勇者様、勇者様!助けてください!!あいつらが、私に酷いことを…!!」
そうして縋ろうとするミレーヌを。
勇者は冷酷に突き飛ばします。
「…え」
「私の勇者に何か御用ですか?」
ミレーヌに追いついた私は、彼女の顔を覗き込みます。
「…まさか、あなたが勇者様の身体を持ち去ったの?!酷い!信じられない!最低よ!あなた、よほど勇者様に惚れてたみたいだけど、死体を持ち出して動かすなんて、気色が悪い!!こんなので勇者様が喜ぶとでも思ってるの?!」
「喜ばないでしょうね。ですが、あなただって私に勇者を生き返らせようとしてたじゃないですか?よほど騙して手篭めにする自信があったのでしょうが…」
「大体さっきから私私って!あなたが女神様なわけないでしょ?!女神様はもっと慈悲深くて、優しくて、あなたなんかよりよっぽど神々しい存在なのよ?!」
えぇ。私はあなた達を見守り、許し、慈悲を与えてきました。いつもの私であれば、このような事は些末なこと。助けを請われれば、助けるかもしれません。
勇者だって、生きていればあなたを助けようとしたでしょうね。どのようなことをされても、最後には訳を聞いて、許してしまう。許せなかったとしても、感情だけで相手を裁くような事はしない。
でも。
でもね。
「あなた達のせいで、私達はこうなったのですよ」
勇者に組み敷かれ、ミレーヌは心臓を一突きにされる。
私はほんの少し、彼女に延命の魔法をかけ、部屋に戻ります。
勇者に、ミレーヌを部屋まで連れて来させます。
髪を引っ張られ、引きずられて、ミレーヌはただ、嗚咽をこぼすのみでした。
復讐はまだ、終わりませんよ。
多分いつか書き直すかもしれないです。
なんかミレーヌがいい感じに鳴いてくれなかったんで…。
ここめっちゃ感想ほしいです。
特にミレーヌの手術シーン、なんかあんまりスカッとしないなぁ、とか、割と良いのでは?、とか。
直す時の指針にするので。切実です。




