7話:ティアードマテリアル①
ゾンビ実験中です。
さて、まず疑問なのは、私でも複製が難しいものを、人間達はどのようにして手に入れているのか。
この薬剤の縁を辿って調べていくと、ある場所に辿り着きました。王国外れの平原にある、封鎖された建物の中。
建物は大きく、この王国のものとはやや違う意匠を持っている石造りで、おそらくはまだ隣国があった時代に建てられた隣国保有の場所であったのかと思われます。
その建物は地盤沈下によって出来たと思われる大きな穴を囲うようにして建てられています。その穴の中、少し入ったところにいくつか縁のあるものの反応がありました。
スライムのようです。
スライムは死ぬと溶けてしまう、しかし溶けたスライムを液体として溜めておくようにしておけば、手に入れることは出来るでしょうが…。
実際に確かめに行くことにしました。
勇者を起こし、武装させ、そろそろ出かけようという時に、何者かが寝室のある二階から階段で降りてくる気配を感じました。
様子を見に行くと、壁にもたれかかり、息を切らしながらゆっくりと階段を降りてくるファロンの姿がありました。
「どうしましたか?」
「…食堂があるようなので、食事をいただこうかと思ったのです。…熱と痛みに耐えるのに、体力を使うようで、酷く、空腹になってしまって…」
顔色が悪く、足に力が入らない様子で、ちきんと不死の術に耐えているようですね。しかし、空腹と来ましたか。失念していました。
「空腹になるのですね」
「はは、申し訳ありません…今はまだ余裕がありますが、このまま空腹が続くようでは、とても耐えられないような、気がします…」
空腹も過ぎれば人間は、人間を殺して食べたり、魔物や従魔を食べたりする生き物です。いつか勇者やバクちゃんを齧られては面倒なので、食事の工面をしなければなりませんね。
「わかりました。ここには食材は一切ありませんので、外出のついでに取ってきます。それまでは安静に」
そう言って勇者を動かし、ファロンを抱えさせ、寝室へと戻しました。
目的地から少し離れたところに牧場や農場があるようです。帰りに寄りましょう。
改めて、出発です。
建物の中、大きな穴の前にやってきました。
どうやら、地盤沈下の原因は、地下の浅いところに洞窟のような空洞があったからということのようで、穴に入るとそこから横穴に通じていました。
勇者に前を警戒させながら洞窟に入っていくと、目的のスライムが群生する場所へと辿り着きました。
どうやらこの洞窟に入り込んでしまったことで、魔王との接続も切れてしまい、ここに適応するように進化した種であるようです。
ここには天敵が少なく、水場と、魔力を含んだ鉱石が豊富なので、スライムにとっては天国とも言えるでしょう。水は湧き水のようで、それには厄災由来の魔力が溶けているようです。厄災時代の地層あたりから湧き出ているのでしょう。このスライム自体の生存能力は弱いのですが、その魔力があることで今まで生きながらえてきたようです。
スライムを一体殺して液体にしてみます。床は岩場なので、液体が地面に染み込むこともなく、楽に手に入れることが出来ました。魔法で液体を集めて浮かせ、薬剤と同じものであるかを確かめます。
調べると、確かに同じものではありますが、薬剤の方が遥かに濃度が高い。2、3体殺して、その液体を煮詰めるか何かして高濃度にすることで薬剤が1瓶出来るといったところですね。
液体から、薬剤の効能を持つ物質を取り出し、濃縮。効能を持つ物質とは、飲ませて魔力を流すことで人を操れる物質のことです。
濃縮することで、薬剤と同じものが出来ました。早速使ってみましょう。
スライムは、仲間を殺した私を恐れているのか姿を隠してしまったので、建物付近に住み着いている生き物を使うことにしましょう。確かこういう場所にはトカゲがいるのです。
トカゲを見つけたので飲ませて魔力を流しました。
…が、うまくいきません。
というのもこの薬剤、私が思っていた程の効果はなかったようで、相手の意思に反して無理やり身体を動かそうとするので、相手も抵抗し、うまく動かせません。
歩かせる、といった単純な動作すら、出来はしますが相手の抵抗を強く感じます。これでは、死体のように自由に動かすことが出来ません。困りました。
生きたまま殺せればいいのですが。不死の術のように、身体を死体の状態に置き換えるような効果を薬剤に追加したいです。
魂の力によって、自らの意思で動かせる肉体を生きているとするならば、肉体と魂を生きながらにして引きちぎり、分離させ、身体から魂の影響を無くすことで私が操れるようにする。魂が身体に閉じ込められたまま、肉体だけが死んでいる。これこそ、生きた死体と言えるでしょう。
この薬剤は、あくまで死体を動かしやすくする為の補助と、生きた死体を作るためのベースとして使うことにしました。
身体中、隅々まで魂を引きちぎるとなると、私の力では少々手間になります。この世界の何かから、そういう効果を持つものを得て使うのが一番楽です。
身体中を巡り、染み込み、肉体を変質させることで引きちぎるとすると。
身体中を巡るものはこの薬剤で良い。染み込み、変質させるものが必要です。
肉体を、魂の影響を受けつけない、かつ柔軟性を持ち動く死体として運用出来る物質に変える…。これは、適切ではない。やはり、人間の死体はそのままの姿が一番操りやすいですからね。
では…あれを使いましょう。
スライム達のいた水場に戻ってきました。今度はトカゲと一緒です。
水から、厄災由来の魔力を取り出して、濃縮。
厄災というのは魂に干渉するものだと、厄災時代に人間達から聞きました。
私も厄災の力のおかげで人々を蘇生…魂に触れ、身体に戻すことが出来るようになったものです。
ならば、この魔力もある程度魂に干渉できるのではないか、と考えました。
スライム種はバクちゃんのような植物種と同じ、摂取したものを純粋な魔力に変えてしまいます。厄災由来の魔力の痕跡があっても、薬剤には魂に干渉する効果が乗っていなかった理由はおそらくそこにあったのでしょう。
薬剤と濃縮魔力を混ぜ、トカゲに飲ませる。その状態で操り続けます。
しばらくすると、トカゲの変質を確認。少しずつですが、自由に動かせる場所が増え、最終的に完全に自由に動かせるようになりました。関節無視もお手の物です。魂は身体の中に留まり、しかし身体との接続が切れています。
本来なら、身体から離れた魂は、しばらくすると勝手に死後の世界へと旅立ってしまう。しかし、勇者にそうしたように、術式で覆って留め続けておくのを死体ごとにいちいちやるのは手間です。
なので、自動で術式がかかるように細工をするのですが。
スライムの液体と厄災由来の魔力の濃縮、術式の組み込みというのを自動化しようと思います。
スライムが恐る恐る私の様子を見にやってきたのを捕まえて、改造します。
スライム自体を高濃度にし、厄災由来の魔力を自分で生み出し、自分を飲み込んだ相手の魂を縛る術式をかけるように。
そういう、新たなスライムの原種を作り、繁殖させればいい。生きた薬剤を、作ります。
しかし自らと同じ性質を受け継いだ子を作れる程の改造は、時間がかかります。
食材を取りに行ったら、帰りましょう。
厄災とは…薬剤…?




