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ラブリーキスキス・デスアンドチョコレート  作者: 岩崎シネマ
1章「これを絶望と言わずに何と言うんだ!」
9/20

#8「これを絶望と言わずに何と言うんだ」

【同日 午前11時59分 / 1年HELL組教室】


《 爆発まで、残り44秒 》


これを絶望と言わずに何と言うのだろうか…。


「やばい…もう我慢が…限界だッ!!」


櫂は扉へと駆け出し液晶ディスプレイを操作し、シェルター化を解除しようとする。

だが、それを他の生徒たちが見過ごすわけはなかった。


「おい、どうした櫂殿」


ディスプレイの正面に立つ萌杉。


「お、おい!萌杉!!そこをどいてくれ!!トイレが…お前が言うところの厠がっ!お花を摘みにいかさせてくれぇええ!!」


櫂は強引に萌杉を突破しようとする。

萌杉は躊躇いなく愛刀を構え、それを櫂へと突きつけた。


《 爆発まで、残り22秒 》


「お主、気でも狂ったのか?あと20秒足らず爆発するのだぞっ!!」


「そこをどいてくれぇええ!!」


だが、萌杉の目は真剣そのもの。

下手な行動を起こせば斬られる…櫂もそれを理解している。だからそれ以上の行動は起こせない。


《 爆発まで、残り4秒 》


「うわぁああああああ!!!」


教室の時計の針は12時まであと4秒。

櫂はまるで奇声を上げながら、その場にうずくまった。

両手で頭を覆い、それはまるで爆発から身を守るように…。


《 爆発まで、残り0秒 》


「・・・」


12時。静寂。何も起こらない。何も聞こえない。

そして、呆気なく何事も無かったかのように時計の秒針は、12の数字から先へと時を刻み続けていた。


「な、なにも…起きない…?」


櫂は恐る恐ると顔を上げる。

時計を確認する。その表情は突然、水を打たれた猫のようにキョトンとあっけに取られていた。


「い、いやぁー…ふぅー、ギリギリのところだった、あと少しで漏らすところだったけど、なんとか大丈夫だったよ」


そんな彼を見つめる他の生徒たち。

その眼差しは始めは疑問、だがすぐその後に確信へと変わっていく。


12時になると正体を明かす真犯人というのは、又御万江櫂だったのかという強い確信。


「おいおい、みんなしてそんな怖い顔をしないでくれよ」


「まぁそんなときは俺でも見て明るくなりたまえ、漏れる寸前から、何事も無かったようにこんな笑顔を振りまけるこの俺をッ!」


沈黙か舌打ちか…。

でも今回はそのどちらでも無かった。

今更必死に作り笑いを浮かべる櫂に僕は言いたい事が沢山あった。山ほどあった。


「格好よくないよ…、櫂…格好よくないよお前」


でも、悔しくて堪らなくて、まともな言葉なんて何も出てこなくて、僕の口からは嗚咽にも似たそんな感情を吐き出すことしか出来なかった。


「余計なこと言わなかったら…でもやっぱり格好よくないんだよ」


「・・・」


「お前が殺したんだろ…櫂。桜薔薇を殺したのはお前なんだろ?」


櫂は何も答えない。

黙り僕だけをじっと見つめている。表情失ったその顔は何を物語っているのだろうか。

親友に疑われた落胆なのか、それとも、ここからどう言い訳をしようかと考えているのか。


喧嘩をした後のような居心地の悪い空気。視線。

口の中に溜まる味の悪い唾液。櫂の代わり声を上げたのは鬼瓦だった。


「乙木、我輩には一体何が起きているのかさっぱり分からん!これまさに曖・昧・模・あい・まい・も・こ!!」


鬼瓦の制服のボタンが弾け飛ぶが…以下省略。


「確かにさっきの、またおまえかいは超怪しかったし、超キモかったし、つーか超ありえなかったし」


「でも、だからと言って、またおまえかいが桜薔薇をデスった真犯人っていうのもありえなくない?」


デス子の言葉に、鬼瓦が大ぶりな体を全身使って勢いよく頷いた。


「うむ、確かにその通りだ。乙木迷太、そろそろお前の知っていること、説明してもらおうではないか」


まだ僕の容疑は晴れたわけではない。

僕はまだ椅子に拘束された状態。


辺りの様子を眺めてみる。

櫂は怪しい行動が取れないよう萌杉に刀を向けられ、ミカンは…彼女は、どうしていいか分からずに、その場に立ち尽くしていた。


蛇邪丸は何か考えるように僕のことを静かに観察し、クラスの後ろのほうでは、黒幕が不気味な笑みを浮かべていた。

まるで何かを企んでいるように、まるでその企みが全て上手く事進んでいるかのような不気味な笑みを。


「おかしな所はいくつかあった。最初に疑問に思ったのは…凶器だ」


「凶器?」


「あぁ、みんなの話には一言も凶器については出てこなかった。つまり、凶器は見つかってないんじゃないか?」


「あぁ、その通りだ」


萌杉が直ぐに答える。


「だが乙木、凶器など、貴様がこの教室の何処かに隠した。拙者たちはそう考えていた」


「でも、櫂、お前は言ったよな、マーガリートに」


ーーーすまない。まだこの近くにナイフを持った犯人がいるかもしれないし…乙木の意識がまだなくて不安なんだーーー


「どうして、凶器が見つかっていないのに、犯人が"ナイフ"を持っていると分かっていたんだ?」


「・・・!!」


僕の言葉に、萌杉がはっとしたような表情をする。


「そ、それは…」


一方で櫂は少し動揺した表情を見せていた。

でも、すぐに反論する。


「な、何言ってんだよ乙木、それは、言葉の綾ってやつさ」


「桜薔薇は何かで刺されて死んでいた。まぁその例えの一つがナイフってだけだったわけさ」


「ていうか、そんな綾ちゃんのせいで俺が犯人だと思ったのか?」


「そんなんで犯人だなんて、侵害だよ侵害、侵害 綾ちゃんだね」


僕と櫂は10年の付き合いだ。だから分かる。

櫂は焦っていると途端に口数が多くなる。それが彼の癖。


付き合いの長さがより確信させる。より、僕を絶望的な気分へとさせていく。


「なるほど…」


まるで様々な難事件を解決してきた名探偵の如く、額に中指を押し当てながらエドガーが自身の推理を披露し始める。


「つまり僕の推理によれば、凶器は不明なのに、櫂は"ナイフを持った犯人"そう言った。乙木はそれを怪しく思い」


「一方で櫂はそれは言葉の綾だと反論しているわけだ」


いや、うーんと、推理も何も僕が説明したことそのままなんだけど…。


「確かに、乙木の言い分は理解できる。だが、一方で櫂の反論も怪しいとは言えこちらも理解できる。つまるところの不・偏・不・ふ・へん・ふ・とう!!」


鬼瓦の言葉は難しくてたまに理解できないことがあるから一応補足しておくと、不偏不党とは特定の党派や主義に偏らず、中立な立場を貫くことを意味するらしい。


確か2年程前に鬼瓦にその意味を聞いた覚えがあった。


「このクラスの長たる、高貴な血筋の私自らが公平にジャッジしても、これではまだ櫂が真犯人だという証拠には不十分だな」


「…うむ」


そうやってクラス全体の総意が形成されていく。

櫂は非常に怪しいが、確信には至らない。

どちらかと言えば、密室の中にいた乙木の方がまだ疑わしい。


そんなこと分かっている。

これは僕が櫂を疑うきっかけに過ぎなかった。


そしてきっかけはもう一つあった。

これはみんなは恐らく知らないこと。何故なら僕がギロチンで処刑された前回のことだから。


櫂は12時が近づいたとき、急に焦り出したように多数決で僕の生死を決めることを提案した。


いくら空気が読めない櫂でも分かっていたはずだ。あんな多数決をすれば僕が死ぬことになるのは。

あの時の櫂の行動は、まるで何としてでも"12時までに決着をつけたい"といったような行動だった。


「それに、忘れちゃいけないのはみっしつ…そう密室だ!俺には桜薔薇を殺せない、みんな忘れたのか?」


櫂を守る教室の扉と壁で守られた鉄壁。

だけど、僕にはその仕掛けも分かっていた。


「確かに教室は密室だった。間違いなく両側の扉に鍵がかけられていた」


「ほら、じゃあーーー」


「でも密室だった教室はこの1年HELL組の教室じゃない、"隣の空き教室"だったんだ」


「…な、何を言っているんだ乙木迷太」


萌杉の鋭い視線が向けられる。


「そ、そうだぞ乙木、私は…高貴な血筋の私は、自らのこの手でしかと確認したぞ!」


「1年HELL組の教室の扉、その前後どちらとも鍵がかかっていて開かないことを!」


確かにマーガリートは扉を確認したのだろう。そして彼は嘘をついていない。


「でもマーガリート、君が確認した教室は空き教室だったんだ」


「そんなこと有り得ん、室名札に1年HELL組とか書かれていることしかとこの目で見たーーー」


そこまで言ってマーガリートもようやく気が付いたのだろう。


「そう、室名札が入れ替えられていたんだ。1年HELL組のものと、空き教室のもので」


僕と桜薔薇は隣の"空き教室"で話をし、"空き教室"で意識を失った。


しかし目が覚めると1年HELL組の教室。それが僕の一番の疑問だった。


「ま、待ってくれ…唐・突・千・万!我輩はまだ話についていけてないぞ。一体どういうことなのだッ!?」


つまり、僕の考えこうだ…。



■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

『レッツグッドキルタイム』

〜王輝明学園で超簡単!5ステップ完全密室殺人のやり方〜


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

■出演

目元めもと 鋭利えいり』男性 44歳

職業:完全犯罪アドバイザー


喉元のどもと 声良せいら』女性 33歳

職業:KILLER TVアナウンサー

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


声良:「皆さん、こんにちわ!」


鋭利:「こんちにちわ」


声良:「お昼の時間に簡単完全犯罪解説、今週も始まりました『レッツグッドキルタイム』です」


鋭利:「今週は、王輝明学園で誰でも簡単に出来る完全密室殺人のやり方です」


声良:「他のクラスメイトに罪を着せることができるので、国王選挙期間中にとってもオススメです!」


鋭利:「では早速、必要な物はこちらになります」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

■必要な物

①ナイフ / ②空き教室の鍵 / ③桜薔薇蝶 / ④気絶した乙木迷太

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


声良:「えーと…鋭利さん」


鋭利:「はい、なんでしょうか?」


声良:「①のナイフは、他の凶器でも代用することは可能なのでしょうか?」


鋭利:「ええ勿論です。ただ、今回のポイントとしては、被害者に"出血"をしてもらう必要があるので、刃物類をオススメ致します」


声良:「なるほどです。皆さんご自身の使い慣れた刃物を是非使用してください!」


鋭利:「では、先ずステップ1から」



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【STEP1:とりあえず刺殺しよう】


鋭利:「体育館を抜け出した乙木君と桜薔薇さんの様子を見るため、櫂君は”空き教室"に向かいました」


声良:「男と女の秘密の会話をこっそり盗み聞きするつもりだったんですねー!とんだハレンチ野郎ですねー!」


鋭利:「うーん、どうでしょうか笑」


鋭利:「ただ、櫂君はなんと空き教室で、気絶した乙木君と桜薔薇さんを見つけてしまったのです」


声良:「まぁ!!これはさぞ驚いたことでしょーねー。馬鹿面さげて驚いているのが目に浮かびますね!」


鋭利:「そ、そうですね…(苦笑)」


鋭利:「えーと、そして動機は不明ですが、櫂君は”空き教室"で桜薔薇さんをナイフで刺殺してしまいました」


声良:「それまた急に!一体そこで何があったんでしょうかねー。どんな会話が櫂君と桜薔薇さんの間で行われたんでしょうかねー。男と女のあれですかねー」


鋭利:「それは今となっては櫂君しか知りません。しかし、櫂君は桜薔薇さんのことを殺してしまったのです」



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【STEP2:密室を作ろう】


鋭利:「では続いてステップ2、密室の作り方です」


声良:「お!いきなり核心に迫るというやつですね!」


鋭利:「きっと櫂君は空き教室の中で焦っていたはずです。死んでいる桜薔薇さんと、気絶している乙木君を見て、これからどうするべきかと」


声良:「恐らく、あわあわしていたんでしょうねー。蟹みたいに泡吹いていたんじゃないでしょうかねー」


声良:「…あっ!でも私、若い男の子のそういう慌てているところ…嫌いじゃないです」


鋭利:「…は、はい(苦笑)」


鋭利:「えー、そして、櫂君は、急いで守衛から”空き教室"の鍵を借りてくることにしました」


声良:「空き教室のですか?」


鋭利:「ええ、そして、空き教室の前後の扉を外側から施錠し、加えて、室名札を1年HELL組のものと入れ替えたんです」


声良:「あーなるほどです。王輝明学園の室名札はスライド式で簡単に入れ替えることができますものねー」


鋭利:「はい、これで本当は外からただ施錠しただけの空き教室ですが…パッと見は完全密室の1年HELL組が完成したんです」


声良:「ズルい!いやー小ズルいですねー櫂君!」



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【STEP3:目撃者を作ろう】


鋭利:「では、どんどん続いてステップ3、目撃者を作ろうです」


鋭利:「ちなみにここは今回の密室殺人の鍵となる部分です」


声良:「なるほど」


鋭利:「ここのステップが、この密室殺人事件の成否を決めるといっても過言ではありません」


声良:「男と女の紡ぎ出す愛憎劇…それでは続きを見てまいりましょう!」


鋭利:「ついに密室の偽1年HELL組の教室を完成させた櫂君ですが、ここで彼は、扉が開かないとその偽教室にマーガリート君を呼び出します」


声良:「おっ!新しいメンズの登場ですね。なんだか私ドキドキしてきました!」


鋭利:「呼び出されたマーガリート君はそこが本当は空き教室だなんて梅雨知らず、1年HELL組の教室だと思い込んでしまうのです」


声良:「いやー馬鹿ですねー、その洞察力、非情に残念ですねー。マーガリート君がこのとき気づいていれば…乙木君はきっと今頃そう思っているんじゃないでしょうか」


鋭利:「ええ、しかし王輝明学園の教室は無数にあり、室名札が入れ替えられていたら気が付かなくても当然かもしれません」


鋭利:「そして櫂君は言葉巧みに、マーガリート君に教室の前後どちらの扉にも鍵が掛かっていることを確認させた後、1年HELL組の鍵を守衛まで取りに行かせたのです」


声良:「あーもしかして、ここでマーガリート君に鍵を取りに行かせたのもポイントなのでしょうか?」


鋭利:「まさしくです。マーガリート君ならば、自ら鍵を取りに行ってくれると櫂君は分かっていた。素晴らしい人選だと思います」


声良:「10年の付き合いだからこそ分かる人選…やっぱり櫂君はズルいですねー、卑怯です、男としてこれでいいのか、そう思わせるほど小ズルいですねー」


鋭利:「ですが、時としてその卑怯さが、人を殺し、それを隠す上では必要なのです」



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【STEP4:死体と乙木を移動させよう】


鋭利:「ステップ4、死体と乙木を移動させようです」


鋭利:「ここからは時間と体力がものを言います」


声良:「額に青春の汗を浮かべる若い男の子…最高です」


鋭利:「鍵を取りに行ったマーガリート君が返ってくるまで約20分」


鋭利:「その間に櫂君は、空き教室の扉を鍵で開けて、中にいる気絶した乙木君と桜薔薇さんの死体を隣の1年HELL組の教室へと担ぎ運びます」


声良:「それはなかなか大変な作業ですねー」


鋭利:「幸い、乙木君は男としては小柄の方で体重も軽いので、なんとか運ぶことが出来たのだと思います」


声良:「確かに手元にある乙木君のプロフィールを読んでいたのですが…笑っちゃうぐらい身長低いですね、それに恋愛経験も…(失笑)」


鋭利:「・・・」


鋭利:「えー、これがもし鬼瓦君だったら、この密室殺人は無理だったかもしれません。しかし、気絶していたのは乙木君。小柄な乙木君」


鋭利:「そして乙木君と桜薔薇さんを運び終えたら、室名札を元に戻し、そして、1年HELL組の教室の前側の扉にだけ内側から鍵をかけたのです」



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【STEP5:みんなで目撃】


鋭利:「いよいよ最後のステップ、みんなで目撃となります」


声良:「物語もついにラスト、皆さん刮目せよ!ですね」


鋭利:「1年HELL組の教室の鍵を持って返ってきたマーガリート君、櫂君は彼に内側から鍵をかけた前側の扉を開けさせます」


声良:「マーガリート君からすれば、既に後ろ側の扉も開かないことを確認しているため、今はそこが開いているなんて思いもしていなかったことでしょう…哀れですね」


鋭利:「そして、教室の中に入ると、みんなで桜薔薇さんの死体と、気絶している乙木君を発見いたします」


声良:「鋭利さん、一つ質問なんですが」


鋭利:「はい」


声良:「もしここで、誰かが後ろ側の扉にも鍵が掛かっていることを再確認しようとしたらどうすればよいのでしょうか?」


鋭利:「そうですねー、最悪その可能性も十分有り得ます」


鋭利:「その場合は、みんなが死体を見て驚いている間に、こっそりと後ろ側の扉の鍵を内側から施錠してください」


声良:「なるほどです。今回は教室の中に誰かが隠れていないか探す流れになったので、そのときに鍵を掛けてしまう…あるいは開けるフリをすることでやり過ごすこともできそうですね!」


鋭利:「流石は声良さんです。そういう逃げ方もありです。完全犯罪の才能お持ちですねー」


声良:「えっ?本当ですか!嬉しいです(照)」


鋭利:「さて、これで完全密室殺人は完成です」


声良:「あとは、親友の乙木君を庇うフリをしながら、上手く罪を着せていくだけですね!」


鋭利:「えぇ、ちなみに親友が実は真犯人だったというパターンは、犯罪史においてよくあるパターンです」


声良:「あるあるってやつですね」


鋭利:「ある種、最も怪しいポジションだからこそ、ここからの立ち回りが非情に重要になっていきます」


鋭利:「親友のメリット…つまりは信頼関係を遺憾なく使って、乙木君に罪を擦り付けられるよう頑張ってください」


声良:「はい、頑張ってください!」


声良:「ということで、本日の『完全密室殺人のやり方』は以上となります」


声良:「来週は『完全アリバイ殺人のやり方』についての解説となります」


声良:「解説者には、再び目元鋭利さんにお越しいただきたいと思っております」


鋭利:「はい、よろしくお願いいたします」


声良:「それでは皆さん、来週またこの時間『レッツグッドキルタイム』でお会いしましょう!」


鋭利:「ありがとうございました」



ー完ー

制作・レッツグッドキルタイム制作委員会

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



淡々と話していてもあまりに気が滅入るような内容で少しだけ脚色する。

僕の頭の中の鋭利さんと、声良さんに感謝する。


でも、そんな小細工をしたところで僕の気持ちは変わらない。絶望、嗟歎。


吐きそうなほど色々な感情が溢れ出す。でも僕の口から吐き出される言葉は感情の抜け落ちた言葉。


僕の心はもう死んでいた。殺されていた。


「まさか、そのようなことが…」


僕の考えを聞き終えた萌杉が吐露する。

俄にに信じられない話。

でも、それは僕も同じだ。櫂がそんなことをするなんて、一番僕自身が信じられるばずが無かった。


でももし僕が桜薔薇を殺していないというなら、これ以外の考えが僕には思いつかなった。


「櫂、教えてくれ…さっきまで着ていた学ランはどうしたんだ?」


いつの間にか脱がれていた櫂の黒の学ラン。

おおよそ予想はついている。


「彼女の死体を運んだときに血がついたから脱いだんじゃないか?」


全員が櫂の言葉を待っていた。

暫くの沈黙。そしてゆっくりと櫂は口を開く。


「乙木、お前の推理には一つ矛盾がある」


「…血だ」


「お前の推理によれば、俺が桜薔薇を殺したのは”空き教室"ということらしいな」


「だが、血はここ1年HELL組の教室の床に広がっている」


「死体と気絶したお前、そひて室名札は移動させることはできるかもしれない」


「でも床に広がった血まで移動させることは不可能だ」


櫂の口調は静かで淡々としていて、そこにはいつもの陽気で馬鹿っぽい、彼らしさは皆無であった。


「確かに…それは櫂殿の言う通り」


「床に広がった桜薔薇嬢の血はかなりの量。移動させた後に広がったものは思えない」


畳一畳分に広がった血溜まり。

でもその答えも僕には分かっていた。


「不可能なんかじゃない。櫂…お前は、隣の空き教室からこの教室に、僕たちと一緒に血も移動させたんだ」


「・・・」


まるで死者に向けるような表情の欠けた櫂の顔。

でも僕の言葉に少しだけ目を細める。


「ど、どうやって!?そのようなことをッ!」


「この教室も空き教室も床は畳でできている。だから、血のついた畳を入れ替えれば、血を移動させることは出来たんだ」


櫂はマーガリートに鍵を取りに行かせている間に、大胆な入れ替えを行った。


先ずは空き教室から、桜薔薇の死体と気絶した僕を1年HELL組の教室へと運ぶ。

そして、空き教室の血のついた畳と、1年HELL組の教室の畳まで入れ替えた。


凶器に使用したナイフで畳を持ち上げられれば、一人でも一畳分の畳なら持ち運びは可能だと聞いたことがある。

こうやって、犯行現場の完全な入れ替えを櫂は行った。


「俄には信じ難い…これまさに咄咄怪事とつとつかいじ!!」


これが僕の考えた密室のトリックの全てであった。

でも、それでも櫂の氷のように冷たい目は変わらない。ナイフで突き刺すような視線を僕にじっと向け続けている。


「相変わらず想像力が豊かだな乙木」


「でも…証拠は何もない。あくまでも"俺にも"殺せたかもしれないという可能性を提示しただけに過ぎない」


「依然として、お前だって桜薔薇を殺すことは出来たんだ」


それは僕にだって分かっている。


「…だから試したんだ」


「試した?」


「そう、お前がもし本当に真犯人だったのなら、12時に必ず行動を起こすはずだって…」


僕と櫂はお互いを睨みつけるように視線を合わせていた。

飽きるほど何度も見た眼、見た顔、それが無性に腹立たしくて、無性に愛おしくて、苦しくて、悲しかった。

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