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ラブリーキスキス・デスアンドチョコレート  作者: 岩崎シネマ
1章「これを絶望と言わずに何と言うんだ!」
10/20

#9「真実語るは爆弾」

【同日 午後12時8分 / 1年HELL組教室】

《 爆発まで、残り☓☓分 》


「つーかさーおとぎー、相変わらずお前は回りくどい言い方をする奴だなー」


机の上で胡坐《あぐら》をかきながら、デス子が退屈そうに溜息を漏らす。

そして、彼女は机の上から降りると、面倒そうに頭を掻きながら僕の目の前までやってきた。


椅子の上に相変わらず拘束された僕。

その前に立ちはだかる。


「シンプル・明快・簡潔!略して"シン明簡"!!これ超大事っつうかさー」


「…あ、あぁ」


「はぁー、男のくせして気の抜けたコーラみたいな返事しやがって、本当に分かったのか?あぁん?」


物スゴイ圧力。物スゴイ凄み。

一見は可愛らしい、そんな女子が出せるとは思えないドスの効きまくった威圧感。

僕が気の抜けたコーラなら、彼女は開けたてのウィルキンソンだ。


「でも…そんなこと言っても…」


こんな状況で無邪気な子供みたいに、元気ハツラツに喋ることなんか出来るはずが無かった。

しかしデス子にはそんなことお構いなしだ。


「男ならゴタゴタ言ってんじゃねえぞ。てめぇもデスるぞッ!!」


メンチを切ったデス子の眼が僕を刺す。ぶっ刺す。ぶっ殺される。

その手は僕の胸ぐら、その顔は鬼、これまさに鬼!


「あぁ!分かった!分かったって!」


生命の危機というものは僕の陰鬱な気分を、良くも悪くも一瞬だけ紛らわしてくれる。


確かにこの陰鬱な気持ちで話していても僕が一番壊れていきそうだった。だから僕はその一瞬の紛らわしに乗じてみることにする。


「僕は思ったんだ!もし櫂が本当に真犯人だったら、12時になる前にこの教室から逃げ出すはずだと」


僕の言葉に鬼瓦が大袈裟に首を傾げた。


「逃げ出す?それは一体何故だ?どうして櫂が逃げ出す必要なんてあるんだ?」


「この学園に美綺瓊先輩は爆弾を仕掛けた。でも”あの"美綺瓊先輩のことだ。教室に隠れたらそれで爆弾を防げるとは僕には到底思えない」


美綺瓊先輩の噂は聞いたことがある。

生徒会会長の座を手に入れるためだけに、44人もの人間を殺した人間だ。

その非道さ、冷酷さ、そして狡猾さは学園内でもトップクラス。


無論、彼女だって、各教室がシェルター化できることは知っているだろう。

そんな彼女が教室に隠れるだけで回避可能な爆弾を仕掛けたとは思えなかった。


「だから僕は考えた。爆弾は"各教室内"に仕掛けられているんじゃないかって!」


「だ、だが教室の中は調べた!つまり僕の推理によれば爆弾はこの教室内にはーーー」


「いや、まだ調べていない場所がある!」


僕はエドガーの言葉を制して、床を見る。


「畳の下だ」


「畳の下…?」


「そう、教室の中、簡単には見つからない場所…そうなると思い当たる場所は一つだけ…」


それが"畳の下"。


だけど、これはあくまでも僕の憶測にしか過ぎなかった。

本当にそんな場所に仕掛けられているかは、確証なんて何も無く、可能性としても僅かだと思う。


それに、もし畳の下に爆弾が仕掛けられていなかったら、僕は櫂が真犯人だということを証明することはできない。

いや、それならそれで良かった。その方が良かった。


もし畳の下に爆弾が仕掛けられていなかったら、櫂は真犯人じゃなくなる。

もし畳の下に爆弾が仕掛けられていなかったら、教室をシュルター化すれば、みんなが死ぬことも無い。

僕が犯人として首を斬られて死ぬだけ。それで済んだのだから…。


でももし畳の下に爆弾があったら…だから、これは僕の”賭け"だった。


「いやいやいや、ちょっと待ってくれ!我輩には話が余計わからなくなってきたぞ」


鬼瓦は頭を振るう。


「複雑怪奇(ふくざつかいき)!!その畳の下の爆弾と、12時に櫂が逃げ出すことには、一体どのような繋がりが…」


「もし櫂が真犯人なら、密室トリックを完成させる為に、空き教室とこの教室の畳を入れ替える必要があった」


「…あっ」


ここまで言えば、大抵のクラスメイトたちが気づき始めていた。


「その時に櫂は気づいたんだ。この教室の畳の下に爆弾が仕掛けられていることに!」


「12時直前、爆弾に巻き込まれないようにこの教室から逃げ出そうとしたのがその証拠…」


「そして、畳の下に爆弾があると知っていることが、密室トリックを行った何よりもの証拠だ」


前回、つまりは僕が殺されたとき、櫂は12時までに決着をつけようと多数決を提案した。


それはまるで、教室内から一刻も早く出て行きたいと焦るように。まるで教室内に爆弾が仕掛けられていると知っていたかのように。


そう考えると、全てが一つに繋がってしまった。

親友を疑うなんて最低のことなのかもしれない。

でもそんな悪魔のような考えが、僕の中で出来上がってしまったんだ…。



-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-※-

【同日 午後12時12分 / 1年HELL組教室】

《 爆発まで、残り☓☓分 》


「まさか本当に櫂が桜薔薇を殺し、乙木のせいに…」


鬼瓦は信じられないと言ったように呟き、萌杉は状況を冷静に見極めようとじっと僕のことも、櫂のことも注意深く監視しし続けている。


「お…乙木君、一つ質問しても、その…あの…いいですか?」


そんな中で、キヨスクが恐る恐るとそう聞いてきた。


「ば、爆弾は…畳の下にあるんだよね、じゃ、じゃあ、なんでまだ爆発しないのかな…?」


教室にいたクラスメイトたちは顔を見合わせる。


たしかに当然の疑問だった。教室の時計が示す時間は12時12分。

本来爆弾の爆発する時間は12分も過ぎていた。


「それは簡単だよキヨスク。この教室の時計は15分進んでるんだ」


「だから、今の本当の時間は11時57分なんだ」


それは僕が気絶する前に桜薔薇が教えてくれたこと。

彼女が本当のことを言っていたか僕には判断できなかった。

でも、まだ爆弾が爆発していないということは、彼女は真実を言っていたのだろう。


桜薔薇の言葉の意味…目的、そして、繰り返された世界。

今の僕にはまだ何も分からない。

僕には彼女の言葉を信じることしか出来なかったんだ。


「あ、そっか…だからまだ、爆発してないんだね」


僕とキヨスクのやり取りに全員が納得する。

だが、一瞬にして教室の雰囲気は豹変した。


「『あ、そっか』じゃないんだよキヨスクッ!!」


デス子が怒声を上げる。


「ということは何かッ!?あと3分で爆発するのかッ!?この教室が木っ端微塵に吹き飛ぶのかッ!!」


「あぁ…恐らく」


僕は答える。


「『あぁ…恐らく』ってなに呑気に答えてんだよッ!!お前らマジでデスるぞ、ゴラぁあ!!」


「畳!ささっと畳めくるぞ!!鬼瓦、手を貸せッ!!」


鬼瓦とデス子を筆頭に、すぐさま教室の畳がめくられる。

畳の下を見るのは僕も初めてであった。

木の梁が格子状に張り巡らされており、その下には予想通り、爆弾が仕掛けられていた。


「まさかこのような場所に爆弾が…」


サランラップの芯のような薄茶色の筒が数本。

そこに設置された赤い数字を浮かび上がらせる液晶ディスプレイ。

冗談かと思うほど、それはあからさまに我こそが爆弾であるぞ、と主張してい続けていた。


そして、ディスプレイに表示されている時間は『00:02:44』

一秒ごとに一つずつ数字を減らしていく。


「おい図我!お前これ解除できそうか?なるはや!超スピード!爆速でだッ!!」


デス子に呼び出された図我が畳の下の爆弾を観察する。


「これは…」


そして、少し驚いた様子で小さく呟いた。


「おい、どうした!?」


「時限式の爆弾は解除されないように、トラップが仕掛けられているのが普通」


「じゃあ、あと2分ちょいで解除は難しいのかッ!?図画工作クラブ期待のルーキーを持ってしでも難しいのかッ!?」


「いや、その逆だ」


「逆?」


「あぁ、この爆弾にはなんのトラップも仕掛けられていない。30秒だ」


図我の言葉、少し引っかかる。

だが、彼が30秒というなら、恐らく20秒で爆弾は無事に解除できるのであろう。

最悪の場合は、教室からみんなで逃げ出すという手も考えていたけど、とりあえずは一安心であった。


「完了だ」


30秒…いや、やはり20秒で、取り出したニッパーとドライバーを器用に駆使して爆弾は解除された。

時限表示の時間が『00:01:12』でピタリと止まっている。

教室の中に安堵の溜息が静かに響き渡る。


「勝った!鳳凰院美綺瓊の野望、ここに打ち砕いたぜ!!」


デス子は歓喜の声を上げる。


「これまさに完・全・勝・利ッ!!」


「あぁ、鬼瓦さん!制服のおボタンが…」


そんな鬼瓦と冥土のやり取りを他所に、デス子は興奮した様子で時計の秒針を見ながら、カウントダウンをし始めた。


「爆発まで、さんじゅうびょー!!」


「あと、にじゅー!!」


「じゅー!!」


他のクラスは教室内に爆弾が仕掛けられていると気づくことはできたのだろうか。


「ごぉーっ!!」


でも他のクラスの心配なんてしている余裕は無かった。


「よぉーんっ!!」


このクラスが助かったのだから、それで良かった。


「さぁーんっ!!」


カウントダウンはデス子から伝染していき、いつの間にかクラスの殆どの生徒が共に声を上げる。


「にぃーっ!!」


まるでそれは打ち上げ花火のように。


「いーちっ!!」


そして、1年HELL組の生徒たちは声高らかにこう叫ぶ。


「ふぁいあーいんざほぉおおおおおるッ!!」


次の瞬間、学園内に轟音が鳴り響き、学園全体が地震が来たかのように大きく揺れ出した。

世界を壊すかのようなその轟音と振動は物語る。


各教室内で爆弾が爆発し、その中にいた者たちは、恐らく一瞬にしてその生命が消し飛んでいったと。

一方で、教室をシェルター化していなければ、外からの爆風に巻き込まれてそれはそれで無事ではいられなかったと。


生き残る唯一の道は、爆弾を解除した状態で、教室をシェルター化する。

慈悲も、情けも、容赦もそこには存在しなかった。


「どうやら…僕の推理によれば、僕たちは無事なようだ」


揺れが収まった頃、エドガーが辺りを見回しながら呟いた。


「まぁ、このクラスの長であり、次なる王たる私が、こんなところで死ぬはずが無いというわけだ」


「ど、ど、どのぐらいの方が…爆弾で…えーと、その…死んじゃったんでしょうかね…」


「ほとんど逝っちゃったんじゃなーい。つーか、そんなことより、やっぱ爆破って…痺れるぅうう!!」


デス子は顔を赤らめながら、体を震わせていた。


でも今はそんな爆弾のことなんか気にしているわけにはいかなかった。

僕の視線は櫂に、そしてその櫂の首元には、萌杉の愛刀が向けられている。


「答えてもらおうか?貴様が桜薔薇嬢を殺めたのか?」


返答次第では、容赦なく櫂の首を斬るつもりだ。

ゆっくりと萌杉を見返す櫂。でも、彼のその眼は、萌杉同様に何の迷いも無かった。


「あぁ」


溢れ落ちた一滴の雫。

教室内に静かに言葉が響く。

萌杉の質問に、意外なほどにあっさりと櫂は首を縦に振った。


「俺が殺した、桜薔薇を殺したのはこの俺だ」


「なっ、何の罪も無い桜薔薇嬢を殺め、その上、親しき友である乙木迷太にその罪を着せたこと認めるというのかッ!!」


「あぁ」


櫂は答え続ける。

その顔には後悔なんて見えなかった。


「き、貴様ぁああああああッ!!」


萌杉は刀を振りかぶる。


「萌杉ッ!!ちょっと!!ちょっと待ってくれッ!!」


僕は大声を上げた。

それと同時に、今までどうしていいか分からず動けずにいたミカンが萌杉の腕を止める。

萌杉の刀は櫂の首寸前のところでピタリと止まる。


「何故だ!何故止めるのだ乙木ッ!こいつが…こいつがやったことの、罪の重さはお主が一番理解しておるだろ!!」


「悔しくないのか!?友に裏切られて、その上、罪を着せられ、それでもお主は悔しくはないのかッ!!」


キヨスクが僕の椅子の拘束を解いてくれる。

僕はようやく自由を得た。あまりに代償の大きな自由を。


「悔しいよ…死ぬほど悔しいよ…」


「それなら何故!?」


「でも、僕はクラスメイトが死ぬ姿なんて見たくないんだ…」


こんな世界で、そんなことを思っていても意味はなかった。

周りでは毎日誰かが死んでいる。他のクラスのやつ、先輩、先生。

学園内だけでも、生徒が一人も死なない日の方が珍しいほどだ。


だからこそ…こんな世界だからこそ、僕はどうか、僕のクラスの生徒だけは死なないでくれとずっと願っていた。

そんな願いが叶うはずがないなんて僕にだって分かる。

1週間前に小石照ルカが自殺し、桜薔薇が殺され、そんなことは分かっているんだ。

でも、これ以上はもう見たくなかった。


「流石は『虫も殺せない』乙木迷太様だこと」


デス子が退屈そうに呟く。そう、それがこのクラスでの僕のあだ名。


「それに、聞きたいんだ…」


「櫂、どうしてだ?どうして桜薔薇を殺したんだ、そしてどうして僕に罪を…」


櫂は僕の顔を見る。

その顔は優しく、そして温かく、いつになく格好良くーーー。


『ビー…ビー…ビー…ビー…』


その時だった。

教室内に今まで聞いたことのない電子音が鳴り響く。


耳障りなまでに甲高いその音は、直ぐに何かしらの警告を発しているものだと直感的に理解させる。


「な、なんだ、この音は…」


その音の出処はすぐに判明した。

その音はミカンの首輪から発せられているものだった。


『ビー…ビー…ビー…ビー…』


警告音は鳴り止まない。

そして、首輪の液晶ディスプレイには、さっきまでは無かった数字がいつの間にか表示されていた。

偶然なのか、畳の下にあった時限爆弾のタイマーと同じ赤い色をした6桁の数字が。


『00:04:44』

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