捨てたはずなのに
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あの時、ゴミ箱に捨てたはずなのに…………
あれからもう10年以上も経っているなんて、時の流れは末恐ろしい……。俺は未だに、こいつと暮らしている。
俺が遥希をとっちめていると…………
「遥ちゃん……?」
瑞希が目を擦りながら起きて来た。両手にはピンクのクマをしっかり抱えていた。
「あ、瑞希!」
「あ~!瑞希~!起こしちゃった~?ごめんね~!聡太がうるさくて!」
「お前だろ!」
瑞希は遥希の姪っ子だ。決して俺達の子供ではない。訳あって、一緒に暮らしている。見た目が小学生の頃の遥希にそっくりだ。小学生の遥希は可愛かった。このままでいてくれれば良かったのに……なんて思うが、口にするとロリコン扱いされるから、やめておこう。
10年以上一緒に暮らしても、俺達二人がそうゆう仲になる事はなかった。俺が絶食系とか、ゲイとか、決してそうゆう訳じゃない。
気がついたら10年経っていた。
気がついたら…………
遥希は瑞希に抱きつき、頬に頬擦りしていた。
「汚い顔で瑞希に頬擦りすんな!顔を洗え!!」
俺は遥希から瑞希を引きはがした。
すると遥希は、ハイハイ~と言いながら手を振って、あちこちにぶつかって洗面所へ向かった。昨日どんだけ飲んだんだよ……。
「後で顔洗おうな。」
俺はとりあえずウェットティッシュで瑞希の頬を拭いた。
「瑞希、お前はあいつみたいになるなよ。」
「え?瑞希も遥ちゃんみたいになるよ?早織ちゃんがなるって言ってた。」
「いや、それはそうだけど…………そりゃいつかは瑞希だって大人になるだろうけど、そうじゃなくて、永遠の女子でいてくれ!!」
遥希はもはや女子ではない。年齢的にもだが、中身もだ。女ですらない。オッサンだ。
このオッサンを女と認識する方が難しいんだよ!不可能なんだよ!
「けっこんしきはいつ?」
「うげぇっ!瑞希!瑞希までそんな事聞かないでくれ!」
「どうして?」
どうしてだろうな。10年以上一緒に暮らして、毎日同じ家にいるのに…………
「結婚したいとは思わないんだよ。」
「だから、どうして?」
「遥希が女じゃないから?」
そう言った瞬間、濡れたタオルが飛んで来て、頭にかかった。
「冷たっ!お前……」
「誰が女じゃないって?あ?全部聞こえてっぞ?」
「その前に服を着ろ!!」
さっきと変わらず、下着姿だった。さっきより酷い。上下共に下着だ。
「着ねーよ!女じゃねーからな!このまま保育園に行ってやるよ!!」
「わかった!わかったから!悪かった!俺が悪かったから!」
謝らないとマジでやりかねない……。
「はるちゃん、風邪引いちゃうから服着よっか?」
おいおい、幼児にたしなめられてるぞ?
「はーい!はるちゃん服着まーす!」
遥希は瑞希の前にしゃがんで、元気良く手をあげた。
そして遥希は立ち上がると、淡い水色のシャツを羽織り、両手を伸ばして背筋を伸ばしていた。
「よし!今日も働きますか~!」
「そうだな。瑞希のATM、しっかり働け。」
そういえば…………
ATMで思い出した。入学式が終わって、友達と遊んだ後帰宅した。リビングに入ろうとすると、リビングからこんな言葉が聞こえて来て、足を止めた。
「今さら親なんかいらんわ!成長したら、親なんかただのATMじゃ!」
遥希…………あいつ、なんつー事言ってんだよ!また早織さんを泣かせ…………
「あははははは!そっか!ATMか!確かに!!」
早織さんは、泣くどころか笑っていた。
早織さんの笑い声を聞いて、リビングのドアノブから手を降ろした。しばらく、二人だけで話した方がいいのかもしれない…………
二人は血は繋がってないけど、義理の親子だ。俺は早織さんの息子じゃない。俺は…………ただの部外者だ。
「じゃあ、ご利用ありがとうございます。」
「はぁ?」
「お引き出しをされますか?金額をお申し付けください。」
早織さん、何言ってんの!?すると、遥希も困惑していた。
「何言ってんの!?金なんかいらんわ!」
「あ~!良かった~!スッゴい金額言われるかと思った~!」
自分で言っておいて、何安心してんの?
「じゃあ…………何が欲しい?」
「何もいらん!」
そう言って遥希が椅子から立ち上がると、早織さんも立ち上がった。
「本当にいらない?あ、カフェオレ飲まない?」
「はぁ?」
早織さんはキッチンでお茶を入れる準備をしながらこんな事を言った。
「遥ちゃんが本当に欲しかったのはお父さんのお休みだよね?」
「なっ…………」
「ごめんなさいね。浩司さんが休めないって聞いて、私も行かない方がいいのかな?って思ったけど、聡太はお友がいるし、ずっと遥ちゃんの側にはいられないかと思って。」
え…………俺のせい?いや、むしろ、早織さんは…………遥希のために一緒に行ったのか?
「小学生じゃあるまいし、心配されんでも1人で行けるわ!」
「そうね。でも、遥ちゃんはこっちに戻って来て日が浅いし、知り合いもあんまりいないでしょ?1人になったら、気持ちが1人になっちゃうかな?って大きなお世話を思っただけ。」
「ホント…………大きなお世話。」
気持ちが…………1人になる?
「1人じゃないからね。ここには浩司さんもいるし、聡太もいる。私も側にいるから。」
そうか…………俺がここに呼ばれた理由が、今わかった気がした。
遥希のためだ。全部、遥希のためだ。
ここにあつらえられた環境が…………全て遥希のための物だったんだ。
俺のためじゃない。何を勘違いしていたんだろう……。
やっぱり異物は…………俺だ。
その時の俺に、遥希の気持ちを思いやるなんて心の余裕がどこにもなかった。
どこをどう探しても、自分の事ばかりだった。




