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そこには愛が無い


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父親って…………一般的には、娘に男を近づけたくないものだと思っていた。そうじゃない人もいる事に少し驚いた。遥希の父親は、浩司さんはそうじゃない。浩司さんはまるで、娘に俺を宛がうように早織さんと結婚した。


え?俺、遥希のお守り?だから家庭教師?


そこまで娘を愛しているのか、そこまでして自分から離したいのか、どちらなのか本当の所はわからなかった。


親の愛なんてわからない。もちろん自分が親になった事なんかないし、実の親はもういない。だけど…………


望んだ物を与えるだけ。遥希には、その愛しか無いのか?


それを知った、俺の気持ちは……?


早織さんにいつか子供ができたら…………そのいつかは、思いの外早く訪れた。夏休みが終わって、新学期が始まった頃、今度こそ本当に妊娠だと早織さんから伝えられた。


家族が増えると言って、喜ぶ遥希の気持ちはどうなる?


俺は、遥希に二人が契約結婚だと伝える事ができなかった。


早織さんがリビングのソファーでぐったりとしていると、遥希が心配そうに隣に寄り添っていた。

「早織さん、大丈夫?」

「そんなにつわりはひどく無いから大丈夫だよ?赤ちゃんが産まれて来るのに、これくらい何て事ないよ。」でも、午後から少し辛くなるんだよね。と言って、何故か嬉しそうに笑っていた。


「やっぱり自分と違う異物を受け入れるって大変なんだね。」


異物を受け入れる?遥希は色々調べたらしい。その中に、つわりは自分とは違う遺伝子が入る事によって拒否反応を起こしているというものだった。


「それって迷信なんだよね?異物だなんて思わないよ。つわりはホルモンバランスの変化が原因なんだって。誰だって少し環境が変われば不安になったり調子が悪くなったりするのよ。」

「体に赤ちゃんがいるから、体の環境が変わったって事?凄いね。まだ全然小さいのに、赤ちゃんにとってはお母さんはもう環境なんだね。」


遥希があまりに喜んでいるから、浩司さんは早織さんさえ良ければ、このままここに住んでもいいと言ってくれたらしい。そうは言っても、以前にも増して浩司さんは、家には寄り付かなくなった気がした。


「産まれるのは来年の4月?楽しみ~!」


俺は…………何だか早織さんの妊娠を、手放しに喜べなかった。


それは、そこに愛が無いと知ってしまったから。早織さんのお腹の中には、まるで作り物の偽物が入っているかのような気持ちになった。


その時の俺は、そんな風に思っていた。


今はそうは思わない。遥希と一緒に瑞希を育てて、実感したんだ。


たとえどんな経緯を経て産まれて来たとしても、この世に生を受けた、かけがえの無い命だと言う事。


瑞希は、食べ終わった夕食の皿をキッチンに運ぶと早織さんに手渡した。

「みーちゃん、お手伝いありがとう。」

「早織さん、今日は一緒に寝られるの?」

一緒に寝るという事は、つまりは、泊まって行けるのかという事だ。


「ごめんね。今日は浩司さん帰って来るから帰らないといけないの。」

浩司さんの名前を聞いて、遥希の空気がピリつくのがわかった。


「あんな奴、ほっとけばいいのに……。」

遥希は皿を拭きながら、小さな声で呟いた。

「遥希……。」

「遥ちゃん、お父さんと仲直りしてよ。みーも遥ちゃんのお父さんに会ってみたい!」


遥希は持っていたふきんをカウンターに置くと、瑞希をぎゅっと抱き締めた。

「大丈夫。そのうち…………そのうちね。」

そして、ゆっくりと瑞希を離して、優しく微笑みかけた。


やめてくれよ……。


その微笑みは…………胸が押し潰されそうになる。


カレンダーを見た。もうすぐクリスマスだ。あれからもう3年が経つ……。


3年前のクリスマス、俺は遥希と2年ぶりに再会した。再会した場所は…………バイト先のバーだった。ダウンライトの薄暗い店内では、それが遥希だと気がつくのに、かなり時間がかかった。


あんなに毎日いたのに、すぐには気がつかなかった。こんな所にいるはずがないと思っていたし、この広い東京で偶然会うなんて、あり得ない。


カウンターしかない狭い店に、男女の二人組が来店した。1人は中年のスーツ姿、もう1人はキャバ嬢のような赤いドレスに白いコートを羽織っていた。これが同伴ってやつか……。


そのキャバ嬢が言った言葉は意外なものだった。

「佐伯さん!私9時から5時までで働きたいんです!」


遥希?遥希に似た声がした。


「え?でも、採用したらお店やめちゃうんだよね?」

「当たり前じゃないですか!」

「じゃあ、僕と付き合ってよ。そうしたら考えるよ。」


それって、付き合った所で採用はされないだろうな。よく考えてみろよ?そんなんでキャバ嬢を簡単に採用する奴がいると思うか?


こうゆう奴ほど、考えると言っただけと言って誤魔化すぞ?


俺は腰を屈め、そっちを見ないように頭を少し下げながら、酒をグラスに注いだ。


よく考えろよ?


「人事担当と付き合ったら、本当に採用してもらえますか?」


もっとよく考えろって。


「面接で言った通り、私子供がいるんですよ?」


え…………?俺が頭を上げて、思わずそっちを見ると…………そこには、けばけばしいバケモノのような化粧の、見た事のない遥希が…………


そこに座っていた。


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