重い話
19
「良かった!叔母さん本当に赤ちゃんできてたんだね。あの時は私達の勘違いで泣かしちゃったから…………」
あれから、二人に何度も謝られた。
「後悔と罪悪感でいっぱいだったの。だから少し安心した。」
秋が来て、放課後に学園祭の準備をするようになった。今日は部活やらバイトやらで人が集まらず、結局二人だけで看板を作っていた。俺は平沢に言われた通り、文字の所をペンキで色を塗っていた。
何も知らない遥希は、早織さんの代わりに家事をやると言って、今日も授業が終わるとすぐに家に帰った。
あれから平沢は、アングリーと呼ばれるほど怒る事は少なくなった。負い目があるのか、俺の事を諦めたのか、そこの所はわからないが、普通に話せると平沢もさほど嫌ではない。
「どうしたの?聡太は従兄弟が嬉しくないの?」
「いや、別に?」
「聡太は子供、嫌い?」
平沢は子供が好きそうだ。俺には子供が好きかどうかなんてわからない。子供と接する機会なんか無いからだ。わからないから、多分苦手だ。
「あのさ、あれから少し頭が冷えて、少し考えたんだけど、私達友達に戻らない?」
「え?ああ……。」
「あ、でも、那津とは付き合わないで欲しいの!!」
平沢は真顔でそう言っていた。
「付き合わねーよ!」
いや、別れたんだから誰と付き合おうとこっちの勝手じゃね?
…………とは思っていても、自分の中に留めておいた。地雷は避けて通るに限る。やっぱり別れたくないとか前言撤回されても面倒だ。
「那津だけじゃない。あの子とも付き合って欲しくない。」
それは…………遥希の事か?
「だって、あの子、あちこちで兄弟が増えるとか言いふらしてて、見てるこっちが恥ずかしい。」
「恥ずかしい?自分の嬉しい出来事を、他人と共有したいと思うのが恥ずかしい事なのか?」
「え?何?怒ってる?」
これは…………挑発されてるのか?
「理解されないって腹が立つでしょ?今までずっと私は理解されなかった。」
「悪いが…………全然理解できない。」
「どうして?こんなに聡太の事が好きなのに、どうしてわかってもらえないの?」
自分だって理解できない。でも、多分平沢はシンバル埋めたり、カレーに手羽先を刺したりしない。
「そんなにあの子がいいの?変な事して聡太の気を引きたいのが見え見えでイラつくのに……。」
「それが悪いかよ?」
「悪いよ!好きな人を悪く言われるのは腹が立つ?」
好きな人…………?
「だから、あの子は止めて欲しい。聡太までそんな風に言われるのは、私には堪えられない。」
「誰にどんな風に言われるのか知れないが、もう平沢には関係ないだろ。」
俺は筆から手を離して、鞄を持って教室を出ようとした。
「待って!待ってよ聡太!!」
平沢に後ろから腕を捕まれて止められた。
「誰に何と言われようと、遥希は俺の家族だ。」
俺の1番大事な…………家族だ。
「わかってるよ!私は聡太とあの子がお互いに家族だって思ってる事はわかってる。」
だったらどうしてこんな事を言うんだ?別れた腹いせか?
「わかってるけど……周りはそうは思わない。だって、聡太とあの子は血が繋がってないんだよ?血の繋がりのない男女が家族だと思うって…………それって夫婦じゃない?」
「は?何言ってんだ?遥希とは兄妹だ。」
「そう言うなら…………好きになったりしないで。」
は?そんなの無理だろ?家族を好きになるな?
「そうすれば、私は諦められるから……。」
そう言って、平沢は泣き出した。
俺は捕まれた腕から、もう片方の手で平沢の手を外した。そして、平沢を残して教室を出た。後ろは振り向かなかった。振り向かず、そのまま帰宅した。
家に帰ると…………夕飯に幼虫が出た。サニーレタスの上に白い塊がカブトムシの幼虫に見えた。
「これ…………マッシュポテト?」
「え?」
早織さんが幼虫をよく見て言った。
「よくわかったね~!そう、ポテトサラダを、カブトムシの幼虫の形にしたの!ラップで形を作ったんだよ?」
「いや、何故にわざわざ幼虫にした?」
「だって、一手間かけるのが料理のコツだって家庭科の先生が言ってたから。」
それは、かける手間が間違っている!!
『そんなにあの子がいいの?変な事して聡太の気を引きたいのが見え見えでイラつくのに……。』
これは、気を引きたくてやっているのか?そう思うと、怒る気が失せた。
「いらない。虫を食べると思うと気持ち悪くて食欲が失せた。」
そう言って、自分の部屋へ言った。部屋に入ると、鞄を床に放り投げて、ベッドに倒れ込んだ。天井を仰いで、平沢に言われた事を思い出した。
『聡太とあの子は血が繋がってないんだよ?血の繋がりのない男女が家族だと思うって…………それって夫婦じゃない?』
違う。そうじゃない。
『そう言うなら…………好きにならないで』
あんな顔でそんな事言われたら……気持ちが重くなる。体も重い。何だか疲れた……。平沢は嫌いじゃない。だけど、そうゆう重い話は疲れる。
ドアをノックする音が聞こえた。きっとまた、遥希だ。
「聡太、少しいい?」
予想が外れ、早織さんだった。




