勘違い
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「私、家事やれるようになる!!聡太、やり方教えて!!」
「は…………?」
遥希がいつものように俺の部屋に来て言った。どうやら早織さんの風邪に、何か思う所があったらしい。
「何?好かれる努力?」
「そう!私、早織さんの役に立ちたい!!」
意外だった。その好かれる努力は、少しも間違っていない。バカはバカなりに成長したりするのか?
「早織さん、つわりだと思うんだよね……。」
「はぁ?!つわりって熱出たりすんの?」
「わかんないけど、亜希の時、お母さんあんな感じだった。」
そうか…………妹がいたのか。妹は母親と暮らしているのか?
「3歳の時だったけどね、今でもよく覚えてる。お母さん死んじゃうんじゃないかってくらい辛そうだったの。だから、早織さんの役に立ちたい!」
遥希はもう大人になったから、何でもできるはず!と意気込んでいた。
「それは、いいけど……」
そのやる気が、また空回らなきゃいいんだが…………
その心配は、的中した。次の日の朝、パジャマ姿のまま遥希は俺を見送ろうとしていた。
「お前、行かないのか?」
「先生に、学校休みますって伝えといて。」
「ちょっと待て?何故学校を休む?」
「家事をやるから!」
いやいや、何をどこまで何時間やるつもりだ?家事やれば学校行かなくてもいいとか思ってんのか?
「ふざけんな!」
「だってまだ料理も洗濯も掃除も時間かかるし、早織が心配だし。」
「早織さん仕事行った。」
「えぇっ!?」
今朝、早織さんにそれとなく訊いてみた。早織さんは困ったような顔をして否定していた。
「勘違いさせちゃった?病院行ったら胃腸炎だって。」
完全に遥希の思い込みだった。
「それに、早織さん違うって言ってたぞ?お前の勘違い。」
「早織さん気がついてないのかも!」
「いい加減にしろ。」
とりあえず、学校へは行かせた。どうやら遥希は、想像以上に妹ができる事にテンパっていたようだ。学校へ着くと、教室に入る前に智輝が俺の前に駆け込んで来た。
「子供できたって本当か!?」
「あー…………」
あいつ、絶対勘違いさせるような言い方したな?
「勘違いだから。」
「それは、どの勘違いだよ?」
「どのってどの勘違いだよ?」
その会話を聞いていた、二人がいた。
怒りの獣神と、ライオンハートの男塾だ。二人は俺に責めよって来た。この二人には知られたくなかった!!絶対めんどくさい事になる!!
「どうゆう事!?」
「あ、いや、俺の伯母さん、遥希の母親が、妊娠したかもって話。でも、それも…………」
勘違いだったと言う前に、平沢は拍手をして喜んでいた。
「おめでとう!!」
「あ、いや、だから…………」
「お祝い一緒に選ぼう!」
「俺と選ぼう!!」
二人は、口々にお祝いの言葉を言ってきた。そんな事より、どうやらこの二人は俺との時間に口実が欲しかったらしい。
おめでとう…………か……。確かに、早織さんは浩司さんと結婚してる訳だし、子供ができたとしてもおかしい事じゃない。むしろ、家族が増える事は喜ばしい事だ。
それなのに、俺には何故か違和感しか感じない。別に早織さんに子供が嫌だとか言うそうゆう話じゃない。
何故か、早織さんと浩司さんの間に愛の証である子供という感じがしない。
そんな事を考えながら、家に帰ると、既に遥希は帰宅していて、もう夕食の支度をしていた。テーブルの上には人参とじゃがいも、玉ねぎに…………手羽先?
出来上がったカレーは見た目はあれだけど、味は普通だった。
「なぁ、この手羽先、必要か?」
「何で2本ご飯に刺さってるの?」
俺と早織さんはカレーのど真ん中に刺さっている手羽先に疑問を持った。このトッピングはこれで正解なのか?
「特製、犬神家カレーの味はどう?」
「犬神家…………」
ああ…………これ、足!?
どうやら、カレーは湖で、手羽先は足らしい。
聞かなきゃ良かった…………。
夕食後、やっぱり遥希は俺の部屋に来ていた。
「だから、勘違いだって。」
「そう…………そうなんだよね……。」
遥希に何度も言い聞かせると、やっと理解したのか、落胆していた。
「でも、あの辛さを見てると…………子供欲しいけど産みたくないな~って思うよね!」
「あーそうかよ。」
俺が素っ気なく返事をすると、遥希が怒り始めた。
「何その反応!自分は男だから関係無いって?そうゆう所が腹立つんだよ!だからいつもアングリーに怒られるんでしょ!?」
お前までアングリー言うな!
「平沢の事は、お前には何の関係も無いだろ!?」
「付き合ってるんでしょ?彼女なんでしょ?関係無くないよ!」
「いや、関係ない。これは俺と平沢の問題だ。」
俺の考えている事も、平沢の事も何も知らないクセに……。何も知らないのに、わざわざ説教か?何様だよ!
「そうかもしれないけど……けど……」
「けど何だよ?」
どうせ平沢が可哀想だとか、そんな当たり前の事を言いたいんだろ?そんなのわかってる。だから何度も別れようって…………
「私、平沢さんの気持ちがわかる気がする。それは同じ女だからじゃない。」
その遥希の顔を見たら、何故か…………胸が苦しくなった。
遥希はふざけるわけでもなく、責めるわけでもなく、ただ、淡々と静かな声で俺に伝えた。
「あのね、聡太、好きな人に好きになってもらえないって…………本当に辛い事なんだよ?」
辛い……。そう言われた瞬間……
『ごめんって何?』
そう言った平沢の顔を思い出した。笑っているのに、目に涙を溜めて、その綺麗な顔を少し歪ませていた。
それは、本当に、当然の事だった。
「わかってるよ!!お前にそんな事言われなくてもわかってんだよ!もういい!お前ウザイ!!もうここから出てけ!!」
「待って!違うの!私は聡太を心配して……」
「迷惑だ!」
俺は遥希を部屋から出して、ドアの前に座り込んで頭を抱えた。
わかってる。わかってるんだよ。平沢を傷つけている事くらい。それなのに、遥希の…………
『…………本当に辛い事なんだよ?』
そう言った時の声が、顔が…………
頭から離れなかった。
俺が遥希を傷つけた訳じゃない。俺が傷つけたのは平沢だ。勘違いするな。
遥希じゃないんだ…………。




