一番大事
13
梅雨が明け、連日夏日が続き、夏が近づいているのを肌で感じられるようになってきた。下ろし立てだった夏服が、板についてきた頃だった。
「聡太、今日暇?」
いつものように、授業が終わるとすぐに、平沢がデートに誘って来た。
「暇だけど…………図書館で勉強したい。」
期末テストが近いし、デートって何をしていいかよくわからなかった。
「また?少しは私との時間…………」
平沢がそう言い終わる前に、携帯に電話がかかって来た。珍しく、遥希からだった。
「何だ?どうした?」
「どうしよう!聡太!早織さんが…………」
「早織さんが!?」
早織さんはここ最近、調子が悪そうだった。
「早織さんが熱!熱出た!どうしよう!」
「落ち着け。すぐ帰る。」
電話を切ると、平沢に言った。
「悪い。今日は帰る。」
平沢は何か言いたそうにしていた。でも、何も言わなかった。何も言わず、俺を睨み付けていた。
「ねぇ、私って聡太の何なの?」
うわぁ…………めんどくせぇ~!!
「もう、いいだろ。だったら別れてくれ。」
「嫌!絶対嫌!」
平沢と付き合って1ヶ月が経とうとしていた。しかし、いつまで経っても進展はなく、むしろめんどくさい事になっていた。
女ってめんどくさい。
そんな事言ったら、アングリーがさらに炎上するだろう。それより、早く帰らないと……。早織さんが心配だ。きっと遥希がうるさくて寝ていられないだろう。
俺が教室を出ようとすると、大きな体が入り口を塞いだ。
「もう帰るのか?」
はいはい、来ましたよ。教室では彼女に怒られ、教室を出ようとすれば、彼氏の登場だ。いや、彼氏じゃねーし!
那津とは友達になった。友達からという事で落ち着いてもらった。那津は見た目から、年上かと思っていたら、同じ1年だった。花崎と呼ぼうとしたら、那津と呼べと指定された。
「早織さんが、熱を出したんだ。帰って看病しないと。」
「それは大変だ!お見舞いに……挨拶にも……」
お前は俺の何なんだよ?友達だろ?彼氏面すんじゃねーよ!!
という言葉を飲み込んだ。こう見えて那津はガラスのハートだ。傷つくとすぐ泣く…………
「俺には聡太のために何もできない……」
泣くんじゃねぇ!!重い!そしてウザイ!
いつの間にか俺の周りは、一般人が立ち入れない区域になってしまった。冗談の通じないバカの遥希、涙もろい男塾那津、怒りの神獣平沢、そのトライアングルが強過ぎて、智輝とオグとヨシが遠慮がちになってきた。
散々遥希に友達を削がれて、平沢と付き合った事で更に減り、那津でトドメだ。玉ねぎを剥きすぎて芯しか残ってないみたいだ……。
やっとの事で家に着いた頃には、何だか疲れていた。
「ただいま~!」
家の奥から何やらバタバタガチャガチャ音がしていた。
そのままリビングに入ると、ソファーには、早織さんがぐったりして寝ていた。
「早織さん、大丈夫?」
早織さんの返事を聞く前に遥希がやって来た。
「聡太!遅い!!」
遥希のエプロン姿が…………妙に違和感がある。
「遥希……お前、エプロン似合わないな。」
「じゃあ、聡太がつけて!!」
そう言って遥希はエプロンを投げつけてきた。
早織さんは頑張り過ぎて、たまに熱を出す。だから、こうゆう時は家事は俺がやってきた。最近は忙しさにかまけて、早織さんの手伝いをサボりがちになっていた。
早織さんだって環境が変わって、きっと大変だったんだ……。
帰り際に、平沢に訊かれた。
「そんなに家族が大事?私より、藍野さんが大事?」
「…………ごめん。」
「ごめんって?ごめんって何?」
遥希がどうのとかじゃない。
やっぱり俺は、家族が一番大事なんだ。
「私は、聡太の一番にはなれないの?」
「…………ごめん。」
「だから、ごめんって何?」
ごめん。としか言えない。
もう、突然一番を失いたくない。一番なんて、なければいいんだ。
一番はずっと両親のままでいい。




